四十一 過去その二
「······庇って······」
エリッサは、なぞるように口にした。
「うん。母さんは······大型の異形から護ってくれたんだ」
「······なにがあったの?」
「どこから話したらいいんだろう。······僕は八年前のあの日、苛められた後泣いていたんだ。そんな時に会ったんだ。一人の裁司者に。······その男の人は、力の扱い方のこつを教えてくれた。力が強くなっていくのが嬉しかった。弱い自分から、変われたんだって思えたから。でも······三ヵ月後、あのことが起きたんだ」
「あのこと······?」
「街中に、異形の群れが雪崩れ込んできたんだ。僕は、姉さんと母さんと避難している最中で、その時に大型の異形と出くわしたんだ。怖くて動けなかった。それで、巨大な異形は攻撃してきて、母さんが僕たちを庇った。庇って死んだんだ······」
ウェルグは、右拳を握り締める。
「ウェルグ······」
エリッサは、何て言ったらいいのか、見当がつかない。
「その後、姉さんも僕を庇って、背中には······一生消えない傷ができてしまった。それだけじゃない。巨大な異形を討伐する際、出会った裁司者の人が刺し違えて死んだんだ」
ウェルグは、ゆっくりと立ち上がる。
「······だから、僕はもう大切な人を失わないために、変わりたい! 強く!」
ウェルグは照れたように。
「······そう思ったんだ」と言葉を繋いだ。
「ウェルグ······わたし······」
「エリッサ······?」
「その······ウェルグは異形が憎くないの?」
「憎くはないかな。むしろ怖い······」
「怖い······?」
「うん。だからこそ、強くなりたいんだ」
エリッサは、その強い言葉を聞いて思うところがあった。
(わたしは······こんなに······なのに。ウェルグは······)
「ふふっ」
エリッサは、突然笑いだす。
「どうしたの? エリッサ」
「ううん、なんでもない。乙女の秘密だよ」
エリッサは、右手の人差し指を口元に当てる。
すると突如、彼女の体が光りに包まれていく。
「えっ、なんなの!?」




