四十 過去
「待ってよ。エリッサ」
ウェルグの呼び掛けに、エリッサは足を止める。
「何?」
「今のエリッサを行かす訳にはいかない」
「わたしは、止めないでって言ったよね」
「それでもだ。今のエリッサはあの時のディーナと一緒だ。一人で先走ってる」
ウェルグは近づき右手で、エリッサの右手を握る。
「あの時の······ディーナと一緒······。それでも、行かなきゃいけないの。両親を殺した、メフェリアを許せないから······」
エリッサは、ウェルグの手を振り払って、進もうとする。
だが、ウェルグは強く握って離さない。
「エリッサ。過去に何があったのか、話してほしいんだ。聞いたら、止めないから」
「分かったよ。だから手を離して。痛い」
ウェルグは、ごめんと慌てて手を離した。
二人は隣り合って座る。
しばし沈黙が流れたが、エリッサはゆっくり語りだした。
「わたしは六年前のあの日、両親と出かけていて、ふとはぐれて迷子になってしまったの······。迷って路地裏に入り込んでしまって······。そこで、両親の死体をみてしまった」
エリッサは、目線を下の方へと下げる。
一呼吸置くと再び話し出した。
「パパとママの近くには、少女と少年が立っていて······。それがメフェリアとユア······。当時、既に手配書が回っていた二人」
「その······エリッサは良く無事だったな······?」
ウェルグは、遠慮がちに尋ねる。
「······わたしは、運良く殺されなかったの。王国の追手が来て、メフェリア達は去っていったから」
重い沈黙が流れる。
「······僕も、父さんと母さんいないんだ。姉さんはいるけど」
エリッサは興味を持ったのか、顔をウェルグへ向ける。
「なんで、両親いないのか聞いても良い?」
「······父さんはね。僕が幼い頃に病死していて······母さんは······僕を庇って死んだんだ」




