三十五 やっと見つけた
右の道に入ってしばらくして、エリッサは疑問に感じていた。
あれほど、しつこかった追手がいないのだ。
「ねぇ、ウェルグ。おかしいと思わない? てっきり、こっちにも追手がくると思ってたのに······。こないなんて」
「うん、確かに。何か狙いがあるのかな?」
二人は馬を走らせながら、考えていた。
すると、答えは唐突にやってきた。
微かに視認できる前方遠くに、こちらに向かって馬を走らせる二人組。
それを見たエリッサは、閃きに近い形で答えを導きだした。
「ウェルグ! 馬を止めて、林の陰に隠れて!」
「なんで!? どうしたの!?」
「いいから! 後で説明するよ!」
エリッサとウェルグは馬を止める。
すぐに二人は、馬ごと林に身を潜める。
「どういうこと? エリッサ」
「簡単に説明するとね。わたし達に追手がこなかったのはこの道だからなの。恐らく、王国準裁司ケルヴィンの元へ、事前に伝書鳩を使って伝達しているはずだよ」
「つまり、どういうことなんだ?」
「要は、王国準裁司の部下が任務の帰りに、この道を通るってこと。だから追手は、捕まえてくれると思って、こっちの道にはこなかったんだよ。推測なんだけどね」
「そうかな?」
ウェルグは考えすぎなんじゃないかと疑問に思う。
「まぁ、わたしも違うなら良いんだけど。······嫌な予感がするの」
しばらくして、馬の駆ける音が聴こえ出す。
音は次第に大きくなっていき、通り過ぎるかと思ったが、突然音が止んだ。
どうやら、馬に乗った二人組は止まったようだ。
エリッサは心臓の鼓動が早まる。
ウェルグは緊張感がない。
馬を休めているだけだろうと思っている。
エリッサ達の耳に、小さく会話が聴こえてくる。
「どうしたの?」
冷たさを感じる女性の声が聴こえる。
「いや、誰かいた気がしたんだが、気のせいだったみたいだ」
答えたのは男性の声だ。
どこかで聴いたことがある声だと、エリッサは思った。
更に心臓の鼓動が早まっていく。
エリッサは、気になったのか木の陰からこっそり窺う。
男の方は灰色ぽくくすんだ金髪、ロング丈の上着。顔は後ろ姿なので見えない。
どこかで見たことある男だ。
次に女性の方を見ると、エリッサは驚きのあまり目を見開いた。
毛先に癖のある長い金髪。
琥珀色の瞳。
体型はすらりと細めで、白の襟があるシャツに上には外套を羽織っている。
下は黒のロングスカートに茶色のブーツ。
エリッサの心臓が物凄い速度で脈打つ。
(······まさか······こんなところで。······やっと見つけた。メフェリア・ノーレッシュ······!)




