十 あの日の記憶
「随分、楽しそうだ」
この場の雰囲気に、水をさすように現れたのは、ウェルグやディーナよりもかなり身長の高い男だ。
細めのきりっとした目元の美形で、灰色っぽくくすんだ金色の髪をしている。
「お前は、ユア·レイティヒ!」
「そんな怖い顔をしないでほしいな。赤い髪のお嬢さん」
ユアの余裕な態度とは裏腹に、その場にいた全員が、臨戦態勢を取っている。
いや、一人だけ何かを呟いている。
エリッサだ。
「ユア······レイティヒ······。メフェリア······と組んでる······男······!」
「エリッサ?」
ウェルグが心配そうに見つめている。
エリッサの心臓の鼓動が早くなっていく。
顔からは若干、汗も出ている。
脳裏には、あの日の記憶が蘇る。
「あっ······。パパ······ママ······」
当時まだ少女だったエリッサは動けずにいた。
恐怖······悲しみ······もちろん、それもあるが、少女は現実を受け入れられなかった。
この現実を······。
視界には、血まみれで倒れている両親。
その場に立ってこちらを見てくる、灰色の瞳の少年と琥珀色の瞳の少女。




