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ユメユメ~一年目~  作者: サトル
20.由無からむ人に乞取られなむ
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20-5


 ――同じ頃。來葉堂は開店準備も終わり、いつもより静かな店内でただ一人クララが編み物に勤しんでいた。


「デートかあ……クララもあと十年若かったら!」


 大きな柱時計のガラスに映り込む真っ白な顔を覗きこみ、クララは野太いため息を落とした。


「おい妖怪! 灯之崎はまだ寝ておるのか?」


 だが、クララにとっての心安らぐ静寂もほんの一瞬だ。夢姫より幾分かだけ控えめに大きな扉を蹴り開ける騒々しい音が來葉堂の店内に響き渡った。


「んもう! 手を使って開けなさい、チンピラじゃないんだから……そしてクララも妖怪じゃないのだ!」

「似たようなものであろう」

「んまー可愛くない子!」


 ツカツカと草履の音を響かせ詰め寄ってくる妖怪……ではなく、クララをかわすと佐助は隅のテーブル席を陣取る。尊大に腕を組むと鋭い視線をクララに投げやった。


「で、灯之崎は?」

「んもーどの子も和輝和輝ってえ……今日はお出かけよ、スペースランドに」

「はあ!? ……貴様、冗談は顔だけにとどめておけ。灯之崎に一緒に同行してくれる友達がおる訳無かろう」


 得意げに鼻で笑う佐助を前に“友達に関してはそっくりそのまま返ってくる言葉だぞ”とは到底口にできなかったようだ。クララは苦笑いで誤魔化す。


「――ふん、何をしに行ったのかは知らぬが、そうであれば僕も行くしかないな。ここで妖怪を眺めているほど暇ではない!」


 クララが返す言葉に困り果てている中、佐助は次の言葉も待たないままに立ち上がると踵を返し大きな扉に手を掛ける。


「え? ああちょっと……行っちゃった。一人で行くつもりかしらあの子」


 遊園地、それは仲の良い家族連れ、恋人たちの活気で溢れかえる場所。それは勿論クララにとってもそういう認識である。

 それ故に、和装姿の少年が一人でいて良い空間じゃない……クララは想像に容易い惨状から目をそらすほかないのだった。



 ―――



 梗耶は近くのベンチに腰掛けると地図を広げ、その隙間から二人が降りてくる姿を見守る。

 ――それなりに楽しめたのだろう。最初ほどは気まずさを感じさせず、夢姫の弾けるような笑顔が離れた場所からも見て取れた。


「……普通のカップルだよな」


 ふと、和輝がぼそりと呟く。その言葉で、梗耶は自分たちの状況に気がついた。尾行に夢中で忘れていたが、こちらも夢姫と同様に名目上は“デート”だと。

 園内のマップとにらめっこしながら、夢姫達の次の行き先の推理に耽っていた梗耶はそう考えた途端に恥ずかしくなってしまったようだ。熱を帯びていく頬を隠すようにマップで壁を作ると、和輝を盗み見ていた。


「俺と関わらなければ、きっといつまでもああやって笑っていられる。……関わらなければいい。そうすれば、もう誰も……」

「和輝さん……?」


 だんだんいつもの調子を取り戻してきたのか夢姫はくるくると踊るように回り、両手を広げ何かを刹那に伝えている。

 その姿をいつものようにぼんやりと眺めている様子の和輝だが、雑踏にかき消されそうなほどの小さなその言葉はどこか悲しげに聞こえ――梗耶は何も返せなかった。


 言葉が見つからない梗耶をよそに、夢姫達は次の目的地が決まったらしく移動し始める。

 追いかけるべきか否か。梗耶は少しだけ迷いが生じた。だが、和輝は追いかける風であった為、黙って従ったのだった。


「あの二人……レストランに入るみたいです。外で待つのもなんですし……ついでにお昼にしませんか?」

「確かにお腹すいた……今日朝飯食べてない」


 夢姫達がやってきたのはこの遊園地のテーマでもある“宇宙”がモチーフとなったカフェだ。

 二人の声こそ聞こえないが、また例の“かゆくなりそうな(砂糖より甘い)台詞(セリフ)”が聞こえてきそうな振舞いで刹那が夢姫をエスコートし、店内へと消えていく。

 その姿を見届けてると、梗耶たちも店内へ入り死角の席を探しだした。


「……流石に声は聞こえないな。風見、盗聴グッズとか持ってないの?」

「私を何だと思ってるんですか。ある訳ないでしょう。普通の女子高生です、私は」

「普通の定義が分からない」


 首を傾げる和輝をよそに、梗耶は手早くメニューを決める。夢姫達よりも先に食べてしまわないと尾行が間に合わなくなるかもしれないと思ったのだ。

 和輝もその意図に気付いたようだ。早く出来上がりそうなメニューを取り急ぎ選ぶと、まだ注文が決まっていない様子の夢姫達に視線を手向けた。 



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