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ユメユメ~一年目~  作者: サトル
17.世に並び無く端正にして
79/144

(おまけ)

学園祭編おまけページ。

飛ばして頂いても話に支障は出ません。


 ――それは、任務のはずだった。


「くそ……見失った」


 犬のぬいぐるみを抱えた、無邪気で残酷な言葉の少女。

 佐助は人の往来に逆らいながら懸命にその姿を追っていたが――

 ――ついにはその姿を見失い、苛立ちを校舎の外壁にぶつけた。


「あの子供、あのぬいぐるみには確かに“ま”の気配が」


 先程の邂逅時、微かにだが“ま”の気配を感じ取っていた佐助は胸騒ぎを覚えていた。


 本来の彼の目的は“和輝の監視”である。

 だが“四六時中ついてまわれ”とは言われていない。むしろこちらの方が重要であり、本来の任務を離れてでも調査すべき事案であると感じていた。


 そうと決まればこれ以上のんびり過ごす必要はない。踵を返し足を速めた時……誰かが佐助の肩を叩いた。


「……誰だ!」


 少女との一件があった直後。

 気が立っていた佐助は、肩にかかるその手に鋭い視線を突き刺し振り返る。

 だが、そこにいたのは……佐助よりも背の高い、明陽学園の男性教師であった。


 男性教師は佐助の鋭い視線に一切怖じる事も無く、佐助が小脇に差した木刀に視線を落とすと息をついた。


「おい君。ずいぶんと物騒なものをもっているな? ……さっきの騒動と関係があるんじゃないか? 他の逃げた連中はどこに行った?」


 そう。和装のはかま姿に木刀を小脇に携え、険しい表情のまま一人構内を闊歩する佐助の姿はどう見ても不審者そのもの。

 体育館での騒動により、構内の警戒に入った男性教師にとって佐助はどこからどう見ても不良少年の一人にしか見えないのであった。


「ここじゃ目立つから一度職員室へ来てもらおうか」

「何の話……おい離せ!」


 体育館で起こった出来事などグラウンドで少女を探していた佐助が知る由も無い。

 だが……全く身に覚えのない疑いを振り払い逃げようとすればするほど教師の疑いは強まり疑念が核心へと変わっていく。掴まれる手を振り払い逃げようと試みるが、教師も負けじとその行く手を阻む。


 らちが明かない状況に、教師が業を煮やし他の教師を呼ぼうと無線を取り出しかけたその時であった。


「あら、あなた和輝くんのお友達の……?」

「さすけさん、ですよクララさん!」


 佐助の背中にたどたどしくも丁寧な声と、雄々しく女性らしい声が同時に投げかけられる。


「……なんだ、妖怪と小僧か」

「妖怪ってクララの事!?」


 クララはこの日も紫外線をもろともしない真っ白な顔、マロ眉、そしてハート形の紅を差した特殊メイク姿。ソラのいるクラスは劇を披露したのだろう。かぼちゃパンツの王子様姿であった。


 ソラはともかく、艶やかな和装に白塗り顔のクララは男性教師にとってもインパクトが強すぎたようで、握りしめていた無線はその手をすり抜け、地面に叩きつけられた。


「よ、妖怪……!?」

「んま! 失礼ねっ」


 男性教師がやっとのことで絞り出した一言にクララが頬を膨らませ答える傍ら。

 状況を察した様子のソラは、堅いレンガに打ちつけられ角が欠けてしまった無線を拾い上げる。そして男性教師の手に受け渡し微笑んだ。


「あの、せんせい! さすけさんは“さむらいおばけ”で、こっちのしろいひとは“むらむすめモンスター”で……このあとのまんざいコンテストにしゅつじょうよていなんです!」

「……は?」


 取り繕うように言葉を紡ぎあげるとソラはパンフレットをクララのポーチから取り、教師に見せる。――漫才コンテストは夢姫達のクラスの後に予定が組まれていた。


 三者三様の独特な風貌には、妙な説得力があった。教師はパンフレットを眺め、ため息を落とすとようやく佐助の肩から手を離したのだった。


「――相変わらず小賢しい小僧だ。……助けたつもりか?」


 再び不良の一団を探しに戻った教師の後姿を見届け、佐助は投げつけるような言葉をソラに手向ける。


「さすけさん……さしでがましいようですが、“こうきょうのば”では、ごかいをまねくものをもちあるくことはやめたほうがよいかとおもいます」

「クララもそう思うぞ」

「ぐ」

「ところで、佐助くん、一人で来たの?」

「……だったら何だ」


 助けられた手前、追い払って帰る事がどうにも叶わなくなった佐助は、村娘モンスター……ではなく、クララの何気ない問い掛けに目も合わせず答える。


「でしたら、ちょうどいいですね! ぼくたち、いまからかずきさんのクラスへいくところなのです。よかったらいっしょにいかがですか?」


 佐助が視線を外した先に、ソラが回り込むと屈託のない笑みで着物の袖をひく。

 弾むような声と共に勝手に話が進むクララには見向きもしない佐助であったが、ソラの誘いはどうにも振り切れなかったらしい。


「……どうせ帰るところであったから、そこまで言うならついて行ってやらん事も無い」


 ため息を落とすと遠回りで間接的な嫌味を呟き、構内のマップを持つソラに追従したのだった。



 ―――



 ――美術作品の展示、喫茶、食事スペース、お化け屋敷などが並ぶ校舎内。

 三人は和輝達の教室がある三階まで上がると、長い廊下の端にある和輝の教室の前に辿りついた。


「あら? んもう、あの子ったら……どこに行っちゃったのかしら?」


 当然ながら、和輝は件の騒動の収束に向かっている頃。

 ――和輝に代わり午後の部の受付担当を任されていた女生徒は、クララの顔に驚いた様子で引きつった笑顔で三人を眺めていた。


「クララさん、ボクがおばけやしきのなかをみてきましょうか? なかまにきいてきますよ!」

「う、うーん……そうね、クララ怖い……ソラくんにお願いしようかな?」


 お前の顔の方が怖いわ。小僧は怖くないのか。


 ソラの“中身”が幽霊であることを佐助は知る由も無い。それ故に目の前のちぐはぐな光景にただただため息をつくばかりである。


 ふと、そんな佐助の目にとまったもの――意気揚々とお化け屋敷に消えていった子供を引きつった笑顔で見送る受付係の更に向こう側。

 そこは、梗耶のクラスが催しているメイド喫茶であった。


 佐助の脳裏に、先程の少女の不可解な言葉が掠める。

 ――少女は“友達を探す”と口にしていた。

 あの言葉の意味……それは同じようなファンシーな趣味を持つ人間を探していたのではないか。

 そして、もしそうだとすれば。あのファンシーな外観に引きつけられ、立ち寄っているのではないか。


「……おい白塗り! 貴様はここで、ぬいぐるみを抱えた子供が出てこないか見張っていろ!」

「え?! 何……ちょっとどこに行くのだ?」


 そうと分かれば、いつ戻るかも分からない和輝を待つ道理も無い。

 佐助はいてもたってもいられず、すぐさま走り出す。クララの制止を振り切り、フワフワと揺れるレースが守る扉を勢いよく開けたのだった。


「いらっしゃいませご主人さま!」

「な」


 扉を開けた瞬間。

 メイド達数人に一斉に出迎えられた佐助は言葉を失った。


「ご主人様、今日はおひとりですね!」

「ご主人様の為にお茶を準備しておりますよ!」

「や、ちが、あの……!!」


 普段の強気な態度がどこへやら。

 だが、無理も無い……佐助は自身が付き従う事はあっても、こうも(ウヤウヤ)しく扱われる事は初めてなのだ。

 それが、年の近い露出多めの女生徒からとなると尚の事である。


「……クララ、佐助くんの弱点分かっちゃった気がするけど」

「ゆうきさんたちにはだまっておきましょうか」


 扉の外から、戸惑いまくる佐助を見つめ、二人は小さく息をついた。


 ――結局、佐助はこの日一日をメイド達に囲まれ過ごしたのだった。


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