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ユメユメ~一年目~  作者: サトル
17.世に並び無く端正にして
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17-2



 完全に人の流れが引き、教室内にいるであろう生徒達の話声と流行りのアニメソングがエンドレスリピートされるだけの長い廊下。

 各教室を覗き見ながら歩く、長い黒髪を頭の上でお団子にまとめあげた小柄な女性がただ一人そこにいた。


 見た目からして三十代後半から四十前半くらいだろうか。スーツ姿のその女性は背が低く、小動物のような歩き方。どこか可愛らしさの残る印象である。


 和輝はその女性をぼんやりと眺めながら、風見のクラスに行くのかな、など考えていた。

 外見的に一人でお化け屋敷に入りたがりそうな人に見えないからだ。


 辺りを見わたしながら歩みを進める女性は、梗耶の教室の前で立ち止まると教室の中を見つめ……誰かを探している様子を見せていた。

 ……だが。和輝の予想を反して隣の梗耶のクラスには入らなかった。と、言うよりは入ろうとして、表の看板を見て躊躇(チュウチョ)し諦めたといった反応が見て取れた。


「あ、ああああの……! ちょっと聞いても、良い、ですか……?」


 しばし、扉の前で葛藤していた様子の女性は、様子をうかがっていた和輝の存在に気付いたらしい。挨拶代わりの会釈をすると、女性は消え入りそうな、少し震えたか細い声を紡いだ。


「え? ああ、俺で分かる事なら。どうかなさいましたか?」

「ああ、あ、ありがとう。あのー……あなた、一年生よね? えっと、か……風見さんって言う女の子、どこにいるか知らない、ですか?」

「……風見?」


 女性が消えてしまいそうなほどの微かな声でおずおずと聞いてきたその名前に、もちろん和輝は聞き覚えがある。

 それもそのはず。つい先ほどまで会話していた梗耶の名字なのだから、忘れるはずもなかった。


「風見なら……あ、風見さん、なら隣のメイド喫茶で接客やってると思いますよ」


 客をさばく事に追われていた和輝であったが、それでもあの目立つメイド服の少女が廊下を歩いていたら覚えているはず。

 つまり、まだ隣の教室内にとどまっているはず。そう和輝が伝えると、女性は雲が千切れ晴れ渡る空のように明るい表情になり、ぴょこんとお辞儀をした。


「そう、ありがとう! ……ちょっと入りにくい外観なんだけど……きょーやちゃんがいるなら、頑張って声をかけてみますね……!」


 女性は、小さな両手にしっかりと握りこぶしを作り――気合十分に梗耶の教室へ一歩、また一歩と足を運ぶ。

 だが、その背中は微かに震え、先ほどよりもさらに小さく縮こまって見えた。


 和輝に対する話し方といい、今、目の前で震えている姿といい。

 彼女は恐らく人と話す事が苦手なのではないか。初対面である和輝でさえも察する事が出来る程に、女性の足取りは重いものであった。


 幸い周りに他のお客さんがいる気配はない。

 いよいよもって放っておけなくなった和輝は、驚かさないように出来るだけ静かに女性に歩み寄ると、声をかけたのだった。


「あの、良かったら呼んできましょうか? 風見は……知り合いなんで」


 出来る限り優しく声をかけたつもりであったが、それでも女性は驚いたらしく跳ね上がると強張った顔を和輝に向ける。

 ……が、和輝の言葉の意図はすぐに解釈出来た様子で、強張っていた表情は一転し明るい笑顔へと変わった。


「本当? あ、もしかして、君が……うふふ! じゃあ、お願いする!」


 女性はそう頭を下げると、和輝を盾にするようにその背に身を隠す。

 先程までのおどおどした姿がどこへやら。その距離感の無さに既視感を覚えつつも、和輝はピンク色のレースが彩る梗耶の教室の扉に手をかけた。


 入口近くにはレジ係の女子たちが扉の開く音に反応したらしく一斉に和輝達に視線を投げる。

 和輝のクラス同様ヒマな時間を過ごしているのかレジ係の女子は逃すまいとすぐさま駆け寄ってきたのだった。


「お帰りなさいませご主人様!」


 あ、これ師匠の部屋に落ちてた“やつ”と同じ衣装だ。あれ、っていう事はこの人元ネタ知らずに着用させられているのでは……?

 和輝はふと脳裏に過った、今この瞬間必要ない情報を振り払い首を横にふる。


 普通に生活していて決して呼ばれる事のない“ご主人様”というワードに戸惑いながらも声をかけようとした時、レジ係の声で気付いたのか梗耶が走り寄ってきた。


「何してるんですか?! 和輝さん!」

「あ、風見、ちょうど良かった」


 自身の背に隠れたままの女性を紹介しようと言葉を紡ぎかけるよりも先に、和輝達のやり取りを傍目に見ていたレジ係の女子は梗耶の反応に興味がわいたらしい。


「もしかして、風見さんの彼氏さん?」


 その言葉に誰よりも早く反応した梗耶はレジ係に向き直ると“違います!”とすぐさま否定し……和輝をキッと睨む。

 本気で怒った梗耶は、如何に可愛らしい格好をしていても怖いものだ。

 和輝が言葉を失い条件反射で謝ろうと口を開いた時、和輝の背に隠れていた女性が飛び出し梗耶の胸に飛び込んで行った。


「うわ?! ……は、ええ? 恵さん!?」

「きょーやちゃんだめー! この子ね、私が困ってたから助けてくれたの! 怒ったら、可愛い顔が台無しになっちゃうの! だめ!」


 和輝を庇ったつもりなのか、はたまた単純に梗耶にあえて嬉しかったのか。女性は呆気にとられた様子の梗耶の両手をとるとぴょんぴょんと跳ねている。

 だが、やはり顔見知りには違いないのだろう。梗耶はそれを振りほどくことはせず両手を貸したまま、怪訝なまなざしを和輝に向けた。


「……受付してたら、困ってたみたいだから。……風見を探してたんだとよ」


 和輝がこれまでのいきさつをざっくりと伝えると、梗耶は合点したのか小さく頷いた。


「てっきり、和輝さんも夢姫病に感染して、茶化しに来たのかと思ってしまいました」

「それ、非常に失礼な」



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