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ユメユメ~一年目~  作者: サトル
13.師に在せども
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13-6


 屋台は色とりどりの光を放ちながら、四人を出迎える。先陣を切って歩く夢姫は様々なお店を物色し弾むような声を投げた。


「かき氷、はトリに取っておくでしょー? イカ焼き、たこ焼き、はし巻のお好み焼き、あっ金魚すくい!」

「あっこら夢姫! どうせ金魚もすぐ飽きちゃうでしょう? 誰が面倒みると思ってるんですか?」


 和輝達を置き去りにしたまま、夢姫は次々と興味の赴くままに一人で夜店を転々と歩き回る。そんな夢姫を梗耶は母親のように追いかけていった。


「かーずーきー!!」


 賑やかな喧騒にあっても主張が激しい夢姫のその声。和輝が振り返ると、それと同時に熱い感触が頬に触れ、思わず声を上げる。


「あつっ!」


 楽しそうに笑う夢姫の声を無視して、和輝が差し出された(つきつけられた?)ビニール袋を覗く。……袋の中には熱々のイカ焼きが数本入っていた。

 いつもながら行動の意味が分からない。和輝が夢姫の方へ視線を返すと――楽しそうで、何故か得意げに頷く夢姫の姿があった。


「和輝って根暗だから、お祭り初めてでしょ? これ、イカ焼きって言うのよ! 一緒に食べよ!」


 和輝は色々と訂正したい事もあったが、夢姫の勢いと八雲の視線が気になったまま……何も言い返せず黙ってビニール袋を受け取るのだった。



 ―――



 花火が始まる時間が迫っているからだろうか、辺りは徐々に賑やかになり始めていた。


「皆買い物終わったなら移動しない? この辺は人が多いし……花火が見えて、ゆっくり座れる場所知ってるんだけど」


 両手にいっぱいビニール袋を提げた夢姫に視線を投げると、八雲が梗耶に提案をする。

 だが、無論八雲を信用していない梗耶が二つ返事で快諾するはずもなく……


「確かに移動はしたいですが春宮氏が言うと、何だか怪しい」


 疑いの眼差しを返した。


「いやいや、本当だよ。……この神社の事は、良く知っているんだ」

「引きこもりのくせに? 昼間っから変なゲーム楽しむ人が? 神聖な神社に?」

「まあまあ、きょーやもカリカリしないの! お腹すいてるんでしょ」

「そうじゃなくて」


 夢姫が反論する梗耶の背を押し強制的に話を終わらせると、三人は八雲の案内で境内を人気のない奥の方へと移動し始めたのだった。



 ―――



「――ね、おいしかったでしょ? 感謝しなさいよ? このゆーきちゃんが居なかったら、味わうことのできなかった食べ物たちなんだから!」


 神社の裏にある、小さな池のほとり。

 静かに座らないと真っ二つになってしまいそうなほどに軋んだ音を響かせるベンチが一つあるだけの木々の無い、開けた空間があった。八雲の言った通りこの辺りには他の客が居ない。静かな空間には夢姫の声が良く響く。


「根暗扱いするなよ。つか、食べたことくらいあったし……」

「あ、そうだったんですね? ……前は誰と来たんですか?」

「……誰とでも良いだろ」


 何気ない梗耶の言葉に、思うところがあったのか和輝が俯き投げやりに返す。

 梗耶は八雲の方を見るも八雲は首を横に振り、それ以上の追及は無理かと諦めたのだった。


「よし、次はスイーツタイム行くわよ!」


 梗耶が口を(ツグ)み、たこ焼きを頬張る一方。

 空気なんて読まない、いや読めてすらいないであろう夢姫が勢いよく立ちあがると拳を突き上げる。


「まだ食うのかよ」

「甘いものは別()なのよ!」

「それを言うなら別()、じゃない?」

「どーでもいいでしょ! ほらほら、早くしないと花火が始まっちゃう! お供しなさい和輝!」


 有無を言わさず夢姫が和輝の腕を引っ張り、屋台に向かって歩き出す。

 夢姫に片腕の自由を奪われた和輝が、助けを求めるように八雲と梗耶の方を見ると、いつも通り呆れた様相の梗耶の隣で八雲はウインクで返し、手を振った。


 和輝はその動作で八雲の意図を察し、諦めたように夢姫について行くのだった。


「夢姫! 私も――」


 梗耶が慌てて食べていたたこ焼きを呑み込み立ち上がろうとするも、浴衣の袖を八雲に引っ張られ制される。


「お行儀悪いよ? 風見ちゃん」


 梗耶は眉間にしわを寄せ、苦々しく八雲を一瞥(イチベツ)するとベンチに座りなおす。八雲の言うことが珍しくまともであると思ってしまったのだ。自分まで夢姫と同じような振る舞いをしてしまうところだった、と言い返す言葉も見つからないまま……残りのたこ焼きを食べ始めたのだった。



 ―――



「――かき氷ゲット! ちゃんと持っててね、そっちはきょーやのだから! あ、ねえねえ八雲さんは食べるかなあ? かき氷みたいな頭の色だから共食いになるかなー?」


 かき氷屋に着いた夢姫達。楽しそうにかき氷を買う夢姫の後ろ姿を眺め、和輝はタイミングを見計らっていた。ズボンのポケットに手を入れ、中身を確かめる。


 ――外出前、師匠から預かったナイフ。普段、和輝が持ち歩いているのは刀の柄。つまり対人間用ではない代物だ。

 これを渡されたということは、師匠は本気だ。


 “ま”を断ちきれ、なんて任務じゃない。文字どおりの“殺して”なんだ、と――


 和輝がそんなことを考えてるとはつゆ知らず、夢姫は相変わらず上機嫌に駆け寄ってきた。


「和輝、口開けて!」

「……は?」


 突拍子もない言葉に和輝は呆気にとられる。何か言おうと口を開けた和輝の口にプラスチックのストロースプーンの感触と、冷たく甘い感触が広がった。


 目の前には、子供のように笑う夢姫。手には赤いかき氷とストロースプーンが握られていた。


「こーんな美少女と二人っきりなのに。今、話聞いてなかったでしょ?」


 口の中に広がるシャリシャリした触感と甘酸っぱい味と目の前の無邪気な笑顔が、和輝の胸に刺さるようだった。


「……和輝? どしたの、なんて言うか……変な顔?」


 空気の読めない夢姫も流石に和輝の様子を心配してか、顔色を伺う。

 が、何か気付いたように声を上げ、距離を取った。

 感づかれたのか、と和輝は最悪の事態を脳裏に過らせる。ポケットに忍ばせたナイフを強く握り直した――が、何故か夢姫は口元を押さえていた。


「分かった! 和輝、間接キスが気になるんだ! あたしがいつこのスプーン使うかって……この美少女ゆーきちゃんの柔らかな唇が気になっちゃったんでしょ? 白状なさい……このムッツリめ!」

「あ? いや……違う! つか、水瀬こそ何考えてんだよ!?」


 それは初めて会った日から変わらない、夢姫の思い込み暴走である。

 キャーキャー言いながら走りだす夢姫の姿を、和輝も考え事を中断し追いかけたのだった。



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