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ユメユメ~一年目~  作者: サトル
11. 家に返ける終道
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11-3


「――誰かと思えば、おでこちゃん。俺に会いに来たの?」


 声が聞こえたからか、ようやくトイレから姿を現した八雲だがその声は掠れたままだ。先ほどのダメージは残っているらしい。お供えされたままであった水に気が付くと、一気に飲み干した。


「そんなわけないじゃないですか。クララさんから連絡があったんです。私は買い物中だったんですけど」


 八雲を一瞥した梗耶や、机上に残されたカレー……ではなく、高血圧誘発剤コウケツアツユウハツザイに視線を落とす。


「クララさんが、心配してたんですよ。自分は遠方に帰省するから様子を見られないって。|悲惨な食事を取ってるんじゃないか、って。……勘違いしないで下さいね。私はソラ君が心配で来たんですからね」

「あ、うん……?」


 梗耶はそう和輝を睨むと、眼鏡を押し上げる。目の前に放置された高血圧誘発剤を一口舐めると、かすかにその眉間にしわが寄った。


「まずい。……よくもまあ、こんな簡単な料理を台無しにできますね。才能ありますよ和輝さん」



 ――八雲は水を二、三杯飲みほしたあたりでようやく落ち着き始めている。一方でその間……梗耶はソラを引き連れ厨房に立てこもっていた。高血圧誘発剤をどうにか人間の食べ物に戻す戦いを繰り広げていたのだ。


「――スープカレーです。だしで薄めたり色々調節したんで、まあ食べられるでしょう」


 やがて、戦いを無事に終結させたらしい。厨房から再び姿を現した梗耶の手には“高血圧誘発剤”であった頃の姿を忘れ新たな料理へと生まれ変わった一皿があったのだった。


「おいしいです! きょうやさん、ありがとうございます!」

「いやほんと、見直したよ。俺のお嫁さんに欲しいくらいだ」


 深々とお辞儀をし、感謝の意を伝えたソラに続き八雲が頷く。ソラに笑顔を手向けた梗耶は、八雲の方へと向き直ると“死んだ方がマシですね”とため息を落とした。


「おでこちゃん、本当に俺のこと嫌いね」



 ―――



「――じゃあ、私はそろそろ帰ります」

「え、せっかくなのできょうやさんもたべていかれては……」

「ああ、いえうちは伯父がご飯を準備していると思うので」


 和輝達の食事を見届けると、梗耶は帰り支度を始めていた。クララへの連絡も済ませた様子だ。

 だが、せっかく華麗な錬金術を披露し和輝達を救ってくれたというのにそのまま帰らせるのも申し訳ない。


「……送ろうか?」


 すでに薄暗く日が傾き始めた時刻、和輝がせめてもの謝礼にと思ったのか珍しく自分からそう申し出る。

 梗耶は一度だけ頷くとカバンを抱え來葉堂を後にしたのだった。



「不器用なんですね」


 梗耶が、巻き直された包帯の手を眺めながら笑う。どことなく普通の高校生らしからぬ雰囲気の和輝、だからこそ包帯の白さが際立って見えた。


「そうかな……」


 自覚ないのか、と梗耶はまた違う意味で笑いを堪え切れずにいた。


 街灯が照らす夜道を少し行くと、商店街から住宅街へと街並みは装いを変える。どこの家庭も夕食時なのだろう。風に運ばれてくる玉ねぎの匂い、テレビの音、子供の声――ふと、梗耶は思い出したようにまた笑みをこぼした。


「うちの伯母も。料理が酷くって……食べられたもんじゃないんです。だから、伯母がうっかり台所に立った日には伯父と二人でどうにか食材ロスを減らそうって色々やって」

「……だからあんな錬金術みたいな真似が出来るのか」

「とんでもない料理を作るくせに、創作意欲だけは旺盛なんですよ。伯母()


 梗耶の家の前につく。彼女の家はまだ綺麗で、少し大きい家。

 既に家族が帰っているのだろうか、擦りガラスの窓から漏れる明りが温かく感じられた。




 一人の帰路、和輝はふと立ち止まり、しまいっぱなしのスマホを取り出す。


「……ここまで水瀬が無反応だと、逆に怖いな」


 いつもなら平気で二ケタは送ってくるメッセージが一通も来ていないのだ。

 夢姫の方はというと、心踊る楽しい一日をすごしていたわけだが――和輝が知る由もない。


 和やかな時間を過ごせた反面、言い知れぬ不安も残る一日がそっと終わりを告げたのだった。


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