23-8
「――駄目。八雲さんにバレた」
一方、外に追い出された夢姫達はどうにか中の様子を探ろうと窓のすぐ真下にいた。
鍵は開いていたが、立てつけが悪く力ずくでこじ開けようとすれば窓枠が悲鳴を上げるであろうことは容易に想像がつく。
夢姫が窓と格闘している最中、八雲に気付かれたらしい。無情にも鍵の閉まる音が頭上に響く中、息をつき窓の下にしゃがみ込んだ。
「……あの調子だと、和輝君は実家に帰るんだろうね。あの“天衣無縫のお嬢さん”と結婚を前提に関係を深めいずれ――」
「いずれ結婚! ……早々に貰い手がついて万々歳じゃないのかなあ、和輝のヤツ」
刹那が言葉を濁し呟く傍らで夢姫は首を傾げ口をとがらせる。
二人は各々に引っかかる点があるものの確たる思いもなく、ただ首を傾げた。
そんな中……梗耶は何かを否定するかのように首を横に振ると、立ち上がりどこかへ向かい歩き出した。
「ちょ、ちょっときょーや? どこいくの?」
「まさか、阻止しようなんて考えていないかい?」
引き留めようと二人が進む道を塞ぐように回り込むと、梗耶は息をつき深く頷く。
「その“まさか”です。もう一度……そうですね、湊さんの横やりが入らないよう先回りして、和輝さんの真意を確かめたいです」
「どうするつもりだい?」
「さあ? そうですね、まずは納得していない様子だし燈也さんでも捕まえて……」
今にも激情に流されそうなほどピリピリとした口調で紡ぐと、梗耶は二人が遮る道を諦め反対方向へと踵を返す……と、そこにはいつになく真剣な表情の白おばけ……クララが静かに立っていた。
「く、クララさん!? ……まさかあなたまで邪魔するんですか」
梗耶が苛立ちを隠さないまま白い巨体に詰め寄ると、その迫力に気圧されたのかその大きな体を丸めながら、首を横に振った。
「ち、違うの! ……これを渡しに来たの、内緒で」
クララは辺りを気にするように声を潜め、梗耶に一枚の小さな紙片を差し出した。
受け取り、開くと可愛らしいキャラクターもののメモ紙に住所が走り書きされていた。
夢姫達が住むこの町と同じ県内だが人口の多い都心部であるこの町とは正反対の山間の地名。
夢姫や刹那もそのメモを覗き見ている中、クララはそのふざけたメイクとは似つかない静かな声を紡ぐ。
「明日早い時間に出発するようだから、ここで張り込むよりも、こっちに先回りした方が早いわ。それ、実家の住所……最寄駅から家まで結構距離があるから、タクシーかバスで行きなさい」
「おおークララちゃんやるう! 何だかスパイみたい! 女スパイ……ん? オカマスパイ……?」
思わぬ助っ人の登場にテンションが上がってきた様子で夢姫がクララに飛びつき(クララは咄嗟に避けたが)梗耶が黙ってその好意を受け取る中、刹那は猜疑の瞳を手向ける。
「大事な個人情報では無いのですか? どうして……?」
「……そうね。さっきの梗耶ちゃんがカッコよかったから、かな……私も同感よ。あの子も、お父様も強引すぎるわ。でも、私は行けないから……カッコ悪いのは承知で、あなた達に託したくなったの。お願いできる……?」
クララが寂しげに微笑み頭を下げると、夢姫もその気になってきたらしい。
握り拳を天高く突き上げ仁王立ちでポーズを決めるとクララに満面の笑みを返す。
「面白そう! もちろんだよクララちゃん! あたし達に任せて! ね、きょーや!」
「え、ええ……」
クララの笑顔に既視感を覚える中……確たる思いを胸に各々帰宅し、準備するのだった。




