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ユメユメ~一年目~  作者: サトル
21. 思ひ焦れて過す程に
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21-3


 來葉堂でのやりとりなど知る由も無いまま、正真正銘のハーレム状態と相成っている和輝だが、彼は心底困り果てていた。

 どんどんと自分の安息の地である來葉堂に近づいていく。その一方で、途中で別れた詠巳以外、誰も道を違えないのである。


 來葉堂に幾度となく訪れた事のある夢姫や梗耶、詠巳だけでなく……初対面の女子三人組にまでも自分の家が知られるのではないか?

 先程から絶えず手向けられている太めの視線に嫌な予感を感じていた。


「……風見。あの三人も同じ方向なの?」


 いよいよ孤独な不安に耐えきれなくなった和輝は、斜め前を歩く梗耶を呼びとめ耳打ちするも梗耶も三人の家は知らない。


 分からない、と首を横に振ると和輝は深いため息を落とした。

 その姿はどう見ても照れているようにも好意のある相手に対する対応にも見えない。

 梗耶はこの日一日不安だった問題への答えが見えた気がした。


「和輝さん……もしかして、ああいう人苦手?」


 梗耶が小さく問い掛けてみると、和輝は深く頷くいたのだった。


「選り好みできる立場じゃないのは承知なんだけど……放っておいて欲しい」

「あー……」



 ―――



「――あら? 灯之崎君の自宅ってここなのね?」

「ああ、はい、まあ」


 和輝の願いもむなしく。

 川島率いる女子三人組は來葉堂の前に辿りつくと、その佇まいにあんぐりと口を開け、呟く。

 そのリアクションにも慣れたもので、和輝は深くため息をついた。


「まあ……御覧の通りボロい家なので……」


 明らかに引いている女子三人に駄目押しのつもりなのか和輝がわざと自虐的に言葉を紡いでいた時。

 ふと扉に付けられたベルが鳴り響き、錆びた音と共に優しげな声がその背中に届いた。


「声がすると思ったら和輝君、君だったんだね、おかえり……って、夢姫ちゃんに梗耶ちゃんに……君はモテるんだね」

「げ……逢坂さん!?」


 “はきだめに鶴”とはこのことか、ボロボロの外観である來葉堂から姿をあらわした王子様・刹那の姿を前にどん引きしていた筈の女子三人の顔色がみるみる明るいものへ変わっていく。


 それに気付いているのか居ないのか……刹那は優しげな笑みを湛え、三人に自己紹介をした。


「刹那っち来てたんだ!」

「うん、僕はここに来ないと君達に会えないからね……学校に行くと“誰かさん”に怒られちゃう」

「それって……もしかしなくとも私ですか」


 夢姫からの謎のハイタッチに応じながら刹那が冗談めかし微笑む。

 ちょうど同じ時である。一同の背後に歩み寄る足音が響くとともに、わざとらしいため息が耳をついた。


「……良い御身分だな? 灯之崎」

「佐助……本当にそう思ってる?」

「嫌味にきまっておろう」


 佐助もまた、いつものように授業を追え、來葉堂へやってきたのだろう。

 中学生らしい学ラン姿の佐助は言うなり鼻で笑い、川島達の視線をかわすと來葉堂へ入ろうとする。

 ……が、そこで刹那と視線が絡むやいなや思い切り眉間にしわを寄せ、猜疑心を一切隠さずに鋭い視線を投げつけた。


「君も和輝君の友達かい?」

「そんな訳なかろう。僕は慣れ合いごっこしたい訳ではない。……それより」


 佐助の視線は、まっすぐに刹那の髪をまとめあげている絹布に注がれ、その手は木刀にかけられていた。


 そう、佐助は気付いたのだ。

 かつて神社に納められていた“道具”たち――

 その一つが今、目の前の美少年の手にあることに。


 頬を刺すような、いわゆる“一触即発”の空気が辺りを取り巻く。

 梗耶は全く無関係である級友・川島たちの前で不穏な空気を見せて欲しくない一心で、とっさに佐助を制止すべく腕を伸ばしたその時――

 その梗耶を押しのけ、佐助の前に躍り出たのはこれまで一番影の薄かった恵子の姿であった。


「かっわいいー! うち、年下タイプなんよー!」

「……は? なんだブス。気安く話しかけるでない」

「あ生意気ー!」


 包み隠さず本音を投げつける佐助に対しても全く怯むことなく、恵子はその行く手を阻む。

 佐助の気が完全に恵子に向いた隙を狙ったかのように、今度は川島が刹那の隣に寄り添うとわざとらしい笑みを向けた。


「まあ恵子ったら。……あんまり押しが強い女は嫌われるわよ? ねえ、逢坂さん!」

「ん? ああ、そう言う人は多いだろう……近いね」


 和輝は、佐助と刹那にそれぞれ向けられている好奇の視線と、自身の背中に刺さり続ける太めの視線を感じたまま、何となく読めてしまった次の展開に言葉を失っていた。


 梗耶も同じ事を思っていたのであろう。

 恐る恐る和輝に視線を投げると、呆れたようなため息を返す。


「……風見。この人達どうしてくれるの」

「す、すみません」


 改めて、年頃の女子が秘めたるパワーには圧倒されるばかりだと、二人はため息を落とすばかりなのであった。



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