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ユメユメ~一年目~  作者: サトル
20.由無からむ人に乞取られなむ
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20-12


 二人を乗せたゴンドラはゆっくりと回り、視界を遮る鉄骨も見えない、頂上付近まで登っていた。

 一つ先のゴンドラに乗っているはずのカップルはキスしている頃だろうか。

 梗耶はふとあの恋人達の事を思い出してしまい、何だか腹立たしい気持ちになったが……表情には出すことはなかった。


 言葉をかわさないままの二人を乗せたまま、ゴンドラは頂上を過ぎてゆらゆらと地上へ戻って行く。これほど地上が恋しいと思ったことはないだろう、梗耶は息をつきただ景色を眺めていた。


「ねえ、風見が……さっき、言いかけてたのって、何?」

「……え?」

「観覧車が止まる直前、何か言おうとしてただろ?」


 先程までの痛みはすっかり引いた様子の和輝が沈黙を破る。

 想像もしていなかった恐ろしい体験により自身が言いかけた“それ”もすっかり忘れていたが……思い出してしまったようだ。

 梗耶は眼鏡を指で押し上げると、恥ずかしさを誤魔化すように地上を見つめ続けた。


「心配掛けてごめん、その……ありがとう」


 ――ゴンドラは係員が待つ地上に辿りつき、扉がゆっくりと優しい風を呼び込む。

 係員に促され先に降りた和輝は小さな声でそう紡ぐと、続いて降りようとしていた梗耶に手を差し出した。

 梗耶は差し出された手に少しだけ触れると、尚も動くゴンドラから飛び降りたのだった。



 ―――



 観覧車乗り場の階段を降りると、係員がどうやら今回のアクシデントの詳細情報について話しているようだった。説明によると送電装置のトラブルらしい。既に復旧済との事だが、当面は営業を停止するようである。


 二人がその説明に耳を傾けている最中、背後から聞きなれた声が梗耶を呼びとめた。


「きょーや!! 何でこんなとこにいるの!?」


 夢姫は自身が清楚なワンピース姿である事も忘れ、豪快に梗耶の腕にしがみつく。

 そのもっとも過ぎる問い掛けに対し返す言葉が見つからず――夢姫からの追求の視線をかわすばかりとなった梗耶の代わりに、傍らにいた和輝がわざとらしいため息をついて見せた。


「だから、見せるタイプの暴力はやめて差し上げろよ水瀬」

「ぎゃ! ……って、和輝まで! こんなとこでなにしてんのよ?」

「遊園地だから遊んでたに決まってるだろ」


 梗耶の腕を解放して飛びかかってくる夢姫をするりとかわすと、和輝は先程までの体調不良を微塵も感じさせないままに淡々と返す。


「うそだ! ……だって二人で来る? わざわざあたしが宣言した日に?」

「たまたまこの日が用事なかったから。つか、水瀬だって二人きりだし。“デートなんだもん!”ってはしゃいでたし」

「そんなバカっぽい喋り方じゃないもん! 馬鹿にしてるでしょ?!」

「馬鹿だし」

「はあ?!」


 二人は何故こうも出会い頭で喧嘩出来るんだろうか。呆れたように梗耶はいつもの風景を傍観していた。


 飛びかかってはかわされ、また飛びかかる――その無駄な時間の中で梗耶は“夢姫の様子も元に戻ったような気がする”と感じていた。

 それが先程の異変と関係あるのかは分からないが……無関係ではない気がして、息をのんだ。


「逢坂さん、観覧車に乗ってたんですよね? 何か変わった事とか」

「……ああ、電話だ、ちょっとごめんね」


 梗耶の隣で傍観していた刹那に尋ねかけた時。――ポップな着信音が鳴り始め、彼は慌てたようにその場を離れる。梗耶は“じろじろ見るのも失礼か”と常識的に判断をする。そして再び目の前の終わりの見えない言い争いを繰り広げる二人に目を向けた。


「――そんなことないもん! ねえ刹那っち……ってあれ? きょーや、刹那っちは?」


 言い争いの末に刹那の話題になったようだ。和輝のもとを離れた夢姫は梗耶の目の前へ駆け寄るなり、姿の見えない刹那を探し首を傾げている。


「ああ、電話中ですよ……って、夢姫! また私を無視!」


 そして梗耶の説明に聞く耳を持たないままに刹那の後姿を見つけるや否や、ロケットのように夢姫は飛び出していったのだった。



「――今日は遅くなるって言ってたでしょ? ……友達と出かけるからって。え? ……友達だよ。なーに……もしかして妬いてるの? ……そんなに怒らないでよ、分かってるよ……僕の使命は」


 スピーカーからは女性の声が微かに漏れ聞こえている。あまり機嫌がよくないようだ。ヒステリック気味に聞こえる受話器の向こう側の女性に対し、刹那はどこか慣れた様子でからかうような言葉を紡いでいた。


「刹那っち! ……あ、ごめん電話中?」


 刹那のうしろ姿を見つけ走り寄って来た夢姫であったが、電話中であったと気付いたらしい。無配慮な夢姫なりに声を潜め様子をうかがう。

 弾けるような甲高い声を聴かせたくない相手だったのだろうか。刹那は焦った様子で電話の相手に謝り終話ボタンを押すと――スマホを隠し振り向いた。


「ゆ、夢姫ちゃん、どうしたんだい?」

「電話終わったの? じゃいいか! あのね、和輝がね、酷いんだよー! あたし、ちゃんと刹那っちと友達になったもんね~?」

「あ……うん、そうだね、ちゃんと友達になったよね」


 刹那が苦笑い混じりにそう返すと、夢姫は“ほれ見ろ”と言わんばかりのしたり顔で和輝に詰め寄っている。普段と変わらない柔らかな笑みでそのやり取りを眺めていた刹那を一瞥すると、傍らの梗耶はため息をついた。


「夢姫と友達……ね。イバラの道ですよ? 逢坂さん」

「……頑張ってみるよ。折角だから、梗耶ちゃんも“刹那”って呼んでくれると嬉しいんだけどね」

「信頼出来るに足りたらそうさせてもらいますよ。……信頼出来るなら、ね」

「……そう?」




 遊園地、人々の思いが交錯する場所――


 楽しげな音楽とは裏腹に様々な思惑、感情が交錯していき、梗耶もまた何かに飲まれていきそうな不安に心揺れているのであった。


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