「まぁま! スッゴい燃えてる~! スゴいね、沢山お肉が焼けるね!」
「……ちょっと静かにしてなさい」
「ん? なんで、ママ怖い顔してるよ?」
――幼いあの日、あたしは“死の境目”を見つめていた。
巨大な建物をまるごと呑み込む炎はまるで、赤と黒の絵の具をぐちゃぐちゃと混ぜ合わせた強大な生き物のよう。
手も足も目もないその生き物は、成すすべもなく立ち尽くす人々を見下ろしてあざ笑っているようにも見えた。
“――たった今入った情報です! 現在、子供も含む百名近くと連絡が取れないままの状況となっており、怪我人も多数……あ! 今もまた、子供でしょうか……担架に乗せられ搬送されています!”
聞き取りやすい女性の声が後ろで響いている。まるでスポーツの実況でもやっているみたいに少し興奮したような喋り方の女性は、今起こっているありのままを目の前のカメラに向かい喋り続けていた。
「この中に、妹も……梗耶ちゃんも桔子ちゃんもまだ……!」
知り合いのおばさんが、よく見知った名前を叫び、泣き伏せる。
そう――あの炎の中にはまだ、あたしの友達が残ってるんだ。
良いなぁ、あの子たちはこの“悲劇”の主役なんだよね。今、どんな気持ちでいるんだろう?
怖いのかな、悲しいのかな? それとも――
「水瀬さんもごめんなさい。わざわざ、付き添って頂いて……」
「あ、いえ……うちの娘、風見さんのお子さんと仲が良かったから、心配で」
炎を見つめていたあたしの肩をママが抱きしめる。その体は寒さに凍えるように震えていた。
「――あたしもそっちに行きたいなあ」
あたしは炎を見つめていた……一瞬でも目を離したくなかったんだ。
炎はただただ赤く、そして焦げ臭い匂いをまとった熱風を容赦なく人々に吹き付けている。
いったいどれくらいの時間、あたしはその光景を見つめていたんだろうか……いつしか炎は少しずつ、着実に弱まって小さくなっていった。
つまらないなあ。
もっと、もっともっと……頑張って、もっと燃えちゃえば良いのに。
綺麗なもの、汚いもの。
好きなもの嫌いなもの。
この世のすべて、燃えてしまえばいいの。そう全て、すべて――
「……は、あはは、あははは! きゃははははっ……!!」