クリームソーダ
それが分かったら、なんだかボク、急にイヤな気分になって、その人の事をすっごく、すっごく、にらんだ。
男のクセに髪の毛が長くって、ヨレヨレの『チンピラ』みたいな模様のシャツを着てるんだ。顔は真っ黒。さっきのショッカーの一味かもしれない。
だいたいパパが言ってた。大人なのに、昼間っから遊んでいるようなヤツはロクなもんじゃないって。ロクなもんじゃないって、まともじゃないって事とおんなじでしょ?
ボクが一生懸命にらみつけてたら、その人もやっと気が付いたみたいで、しかも多分、すっごく『 びびった 』みたい。
ボクから目を逸らすと、慌ててシャツの胸ポケットから白い箱を出してきて、それで頭の横をトントンと叩いて、タバコを一本取りだして口にくわえた。
ボクも負けずに、アイロンのかかったキレイなシャツの胸ポケットから、キャラメルの箱を取り出して、カラカラと頭の横で振って見せた。
するとその人は、プッと噴き出して笑った。それでなんのつもりか、小指と親指の二本を立ててきたから、ボクはニヤッと笑って、その人に向かって指を三本立ててやった。
だってキャラメルは三つだもん。ボクの勝ち。
それを見て、その人はもっと笑うと、大きな両手をボクに向かって開いてみせて、それから今度は、お店の人に手を上げて、小声で何か話してた。
どうやら降参したみたいだね。
しばらくして、リボンを付けた女の人が、スパゲッティーミートソースとサラダを持って来て、ママの前に置いた。それからボクの前には、緑色の透き通った飲み物が。
それは、白いアイスクリームの浮かんだクリームソーダ。
シュワシュワ緑の泡が立つ中に、赤いサクランボが沈んでた。
リボンの女の人がニッコリ笑って、後ろの席を手のひらで差したので、ママがびっくりして振り返る。するとさっきの男の人が、ママに向かって片目を閉じた。
その時ママがどんな顔をしたのか。
ボクからは見えなかったけど、そのあとその人が、すっごく嬉しそうに笑ったから、きっとママも、おんなじような顔してたんじゃないのかな……。
ボクは透き通ったクリームソーダのこっち側からのぞいて見てた。
赤いサクランボは、小さな柔らかい泡に包まれて、くすぐったそうに笑ってた。