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タバコ畑に風が吹く  作者: るりまつ
9/17

クリームソーダ


 それが分かったら、なんだかボク、急にイヤな気分になって、その人の事をすっごく、すっごく、にらんだ。

 男のクセに髪の毛が長くって、ヨレヨレの『チンピラ』みたいな模様のシャツを着てるんだ。顔は真っ黒。さっきのショッカーの一味かもしれない。

 だいたいパパが言ってた。大人なのに、昼間っから遊んでいるようなヤツはロクなもんじゃないって。ロクなもんじゃないって、まともじゃないって事とおんなじでしょ?

 

 ボクが一生懸命にらみつけてたら、その人もやっと気が付いたみたいで、しかも多分、すっごく『 びびった 』みたい。

 ボクから目を逸らすと、慌ててシャツの胸ポケットから白い箱を出してきて、それで頭の横をトントンと叩いて、タバコを一本取りだして口にくわえた。

 ボクも負けずに、アイロンのかかったキレイなシャツの胸ポケットから、キャラメルの箱を取り出して、カラカラと頭の横で振って見せた。

 するとその人は、プッと噴き出して笑った。それでなんのつもりか、小指と親指の二本を立ててきたから、ボクはニヤッと笑って、その人に向かって指を三本立ててやった。

 だってキャラメルは三つだもん。ボクの勝ち。

 それを見て、その人はもっと笑うと、大きな両手をボクに向かって開いてみせて、それから今度は、お店の人に手を上げて、小声で何か話してた。

 どうやら降参したみたいだね。


 しばらくして、リボンを付けた女の人が、スパゲッティーミートソースとサラダを持って来て、ママの前に置いた。それからボクの前には、緑色の透き通った飲み物が。

 

 それは、白いアイスクリームの浮かんだクリームソーダ。

 シュワシュワ緑の泡が立つ中に、赤いサクランボが沈んでた。

 

 リボンの女の人がニッコリ笑って、後ろの席を手のひらで差したので、ママがびっくりして振り返る。するとさっきの男の人が、ママに向かって片目を閉じた。

 

 その時ママがどんな顔をしたのか。

 ボクからは見えなかったけど、そのあとその人が、すっごく嬉しそうに笑ったから、きっとママも、おんなじような顔してたんじゃないのかな……。


 ボクは透き通ったクリームソーダのこっち側からのぞいて見てた。

 赤いサクランボは、小さな柔らかい泡に包まれて、くすぐったそうに笑ってた。






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