ガケの上のレストラン
ママはボクを抱っこしながら、レストランに入ってった。
高い崖の上のレストラン。お店に入ると、エプロンをして髪の毛にピンクのリボンをつけた女の人が出てきた。
お店はいっぱい混んでたけど、ちょうど一番すみっこの、窓の横の席があいてたから、ボクとママはそこに向かい合って座った。ママは、アザのついた顔が見えないように、お店の人達に背中を向けて、それからサングラスを外して、頭の上にちょこんと乗せた。
ママはスパゲッティミートソースを頼んだけど、ボクは今は食べたくないって言って、お水だけもらった。
レストランは窓だらけだった。ピカピカに磨いてあって、さっきの大きい青い空と、その下にもっともっと青い海が、なんだか絵の中のウソみたいに見える。ボクはガラスに手とおでこをくっ付けて、音のしない外を見た。
海の色は青のほかに、たまに緑だったり、波が白くキラキラ光ったりしてる。そしてゆっくり動いてる。
もっと下まで覗いてみたら、黒い鳥みたいな点々がたくさん並んで浮かんでて、それがたまに、波と一緒にスーッて動いていくのが見えた。
何だろうって、目を開いてよく見てみたら、それはさっきのショッカー達で、小さな板っきれに乗っかって、遊んでるとこみたい。海にスジスジの波が入ってくると、ショッカー達は一斉に動きだして、その中の1人が板っきれの上に立って、海の上を走ってるんだ。ボクは呆れかえって、それをじっと見てた。さすがショッカー、やることがちょっとおかしいよ。
あんまり一生懸命見てたら、ボクはまた気持ち悪くなってきて、急いで窓から離れて、となりのイスに座り直した。それからママと、何か話そうと思ったんだけど……
ママは頬杖を付いて、窓の外を見てる。
でもママの目は、空を見てない。
海も見てない。
ボクの事も見てない。
ただガラスを通して、どこかずっとずっと遠くを見てる。
なんだかそれが、とっても淋しそうに見えて、ひょっとしたらそれは、ボクのせいかもって思えてきて、何も言えなくなっちゃった。
仕方なくお店の中を見渡すと、前の席に、男の人が三人座ってたんだけど、そのうちの、ちょうどボクのまん前に、こっちを向いて座ってる人が、そんなママの後ろ姿をじっと見てたんだ。
後ろ姿ってそんなに見て、何か良い事あるのかな。
不思議に思って、ボクはもう一度、ママのことをチラッと横目で見た。その時、ボクは初めて気がついた。
窓ガラスに、ママの顔が映ってる。
その人は、ガラスに映った淋しそうなママの事を、じっと見つめてたんだ。