海
着替えた新しいシャツの胸ポケットに、またキャラメルの箱をきちんとしまって、ボクとママはおトイレから出た。
そこは広くて、さっきは急いで歩いてたから気がつかなかったけど、色んな車が停まってて、男の人がいっぱいいた。
なんだかみんな、変な黒い、仮面ライダーのショッカーみたいな格好してたり、寒いのに半分裸でいたり、ちっともまともじゃなさそう。
顔も真っ黒で怖かったから、ボクは下を向いて、ママの手をしっかり握った。
ママはそんな人達の事なんて気にもしてないみたいで、ボクと手をつないで堂々と歩いてく。
ショッカー達がこっちをジロジロ見てるのが分かる。
ボクはママのことをそっと見上げる。
長い髪の毛が、風でサラサラしてて
スカートもふわふわヒラヒラしてて
サングラスから高い鼻がツンとしてて……
誰かが、からかうみたいに口笛を吹いた。けど、ママは聞こえないフリ。
何だかボクの方が恥ずかしくて、また下を向いちゃった。
それから、胸ポケットのキャラメルの箱があるかどうか、指でそっと確かめた。
ママはどんどん歩いてく。いったいどこに行くんだろ?
今度こそボクは、ちゃんと前を見た。
そしたら目の前に 青い光が飛び込んできた。
ボクはびっくりして立ち止まって、そのまま足が動かなくなった。
風が吹いてて、しょっぱい匂いがして、ボクは鼻をクンクンさせた。
それからしっかり目を開いて、ぐるりと周りを見渡した。
青いのは空だった。おっきな空。
でもそれだけじゃなかったんだ。空だけじゃなかった。
ママが笑った。それからボクを抱っこして言った。
「ほら、海よ。」