ママ
「ママ…気持ち悪い、、、」
ボクが車の後ろのシートに寝っ転がってそう言うと、ママは運転しながら、慌てて片っぽの手を、隣の席の布のカバンに突っ込んでゴソゴソしてる。
ただでさえ運転下手クソなのに、危ないなぁ……。
しょうがないからボクが起きて、そのカバンからビニール袋と畳んだ新聞紙を引っぱり出した。
ボクは車に乗るとすぐ酔っちゃう。だからママは、ボクと車で出かける時は、必ずその二つとお着替えを、カバンの中に入れてあるんだ。
新聞紙をクシャクシャに丸めて柔らかくして、それからビニール袋の中に入れて、もう一度その形に合わせて広げれば、ゲロゲロ袋の完成。
ママはボクの事、まるでしょうもない子みたいにチラッと見たけど、今、気持ち悪くなっちゃったのは、ボクのせいじゃないんだよ。
だってママの運転、今日はいつもよりずっとひどい。スピードはバンバン出すし、急ブレーキもギュウギュウ踏むし、それにクネクネ道ばっかり通るんだから。
……いったい、どこに行くつもりなんだろう。
運転は、パパの方がずっと上手。でも最近、どこにも連れてってくれない。
だから昨日の夜、『パパは、お仕事ばっかでつまんない!』 って、ボクがカンシャク起こして、そしたらパパとママがケンカ始めて…… それもかなりひどい事になっちゃって…… 。
それで今日は、ママが一人でボクをドライブに連れてってくれることになったんだけど、別に幼稚園ズル休みさせてまで、行かなくってもいいんじゃない?
ついでに英語のお教室も、休んでいいなら嬉しいけどさ。
ママの、痩せたほっぺたに、紫色のアザが見える。
朝、一生懸命、お化粧で隠してたけど、大きなサングラスも掛けてきたけど、それでもやっぱり、分かっちゃう。
でもアザがあってもね、ママはすっごくキレイだから。
ママを殴るパパなんて大嫌い。
もう、どこにも連れてってくれなくて良いから、
パパなんて、どっかいなくなっちゃえば良いのにな。