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窓
波はない。
潮が満ちて、ウネリは緩やかに入ってくるけれど、割れる前に岩場に寄せてそのまま消える。
それでも俺はパドルアウトする。今日、ここに来たのは、波乗りのためではないから。
波がないから、俺の他には誰もいない。波がない方が、今日は良かった。
一人きりになれるから。
崖から五十メートルくらい離れたところまでパドルして、ボードに跨る。
太陽が眩しい。
穏やかな海面に、光の粒が転がるように見えて、俺は目を細めた。
そしてゆっくり、後ろを振り返る。
そこには高い崖があり、崩れ落ちそうな階段が、海と廃屋を繋いでいる。そして横長の廃屋の、所々ガラスが割れた一番左端に、小さな男の子の顔が見える。その男の子はしかめっ面をして、海をジッと見降ろしている。
こんなに離れていても、俺にはその子の表情が、手に取るように分かるんだ。その子の前に、何が置いてあるかも知っている。
それは赤いサクランボが沈んだ、エメラルドグリーンのクリームソーダ。
そして俺は、その子に向かって手を振った。
やっとオマエを迎えに来たよ……