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タバコ畑に風が吹く  作者: るりまつ
14/17

サクランボ

 


 暑くてセミがミンミン鳴いてた日に、ボクとママは半袖のお洋服を着て、帽子を被っていつものように崖の上のレストランに向かう。


 その日は、レストランの外でその人が待ってた。

 白いシャツを着て腕を組んで、四角い黒い車によっかかってタバコを吸ってる。

 いつもより何だかマジメくさった顔に見えた。

 

 ママはトンネルの前のいつもの所に車を停めて、後ろのトランクから、大っきなカバンを一個だけ取りだした。

 それからそれを抱えて歩き出して、ボクはその横をくっついてった。


 その人が四角い車の扉を、ガラガラガラと横に開いた。


 途中でママの足が止まった。

 ボクはどうしたのかな、と思ってママの顔を見上げた。

 するとその人が、ボク達の方にスタスタとやってきて、ママの抱えていた重たいカバンを取り上げた。

 それから、あっ、と思ったら、次にはもうボクのことを、もう片っぽの手でひょいっと抱っこして歩いてた。

 太い黒い腕で、車の後ろのシートに、ボクと大っきなカバンを降ろす。

 

 ママはまだ、風に長い髪の毛とスカートを揺らして、さっきのとこに突っ立ったまんま。

 紫色のアザの付いた顔を下に向けて、じっと突っ立ったまんま。

 その人は、もう一度ママの方へ真っすぐ歩いてった。

 それからママを、両手でしっかり抱きしめた。

 ママの細っこい指が、その人の背中で白いシャツを握りしめるのを、ボクは車の中で見てたけど、多分、ママが泣いてるんだって分かったよ。



 クリームソーダに沈んだサクランボ


 ねえ、青レンジャー


 白く濁ったグラスの中から


 ママの腕を引っ張り上げて……



 それからボクとママは、その人と一緒に、初めてトンネルの向こう側に行った。


 それでそれきり、ママの車に戻ることは無かった。







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