ドライブイン
それからママは、時々幼稚園にボクを送りに行くフリをして、また同じクネクネの道をギュンギュンすっ飛ばして、 海の見渡せる、崖の上のレストランに行くようになった。
レストランに着くと、ピンクのリボンの女の人が、いつも一番すみっこの席を取っといてくれて、ママとボクがそこに座ってると、あの男の人がやってきた。
たまにその人が先に居て、ボクとママがあとから来ると、その人はキレイにお洒落したママを見て、まるでお姫様を迎えるみたいに嬉しそうに両手を広げて立ち上がるんだ。それで、ママのためにイスまで引いてあげちゃうの。何だかちょっと大げさだよって、見てるボクが恥ずかしいんだけど、ママはすっごく嬉しそう。
それから一緒の席でお昼を食べるんだ。
このレストランは『ドライブイン』って言うんだって。メニューは大体、何でもある。
ママはよくスパゲッティーを食べてた。くるくるっとフォークに巻き付けて、とっても上手におしとやかに食べる。
その人はカツ丼とか、親子丼とか、天丼とか。とにかくおどんぶりを、犬みたいにガツガツかき込んで、たまにアゴにご飯粒がくっついてたり、ゲップしたり。もうすごくヤダ。
ボクはいっつも車酔いのあとだから、サンドウィッチを少しだけ。白いパンに噛み付くと、反対側からトマトが飛び出て、お皿も手も顔もベタベタ。
そうなるとママは、ボクの顔をワザとギュギュウおしぼりで拭いたりしたけど、今はその人の方が全然ダメだから、ボクがちょっとくらい汚くしても大丈夫。
ゴハンが終わると、コーヒーとクリームソーダが運ばれてくる。
ママがその人と、コーヒーを飲みながら楽しそうにおしゃべりしてる時は、ボクは、緑色のソーダ水を覗きながら向こうの海を見てるフリ。
ママは目をぱっちり開いて、びっくりするほど良くしゃべる。その人は、ママの話をいつもニコニコしながら、うんうんって聞いている。
ボクは全然つまんないから、クリームソーダのストローに息を吹き込んでブクブクさせるよ。
これやると、ホントはママに怒られるんだけど、おしゃべりしてる今がチャンス。