タバコ畑
夜が明ける。
金色の光が、薄暗いタバコ畑を照らしていくのを左に見ながら、俺は赤いピックアップトラックの助手席と、運転席の窓を少し開いた。
そして、ブロックチェックのネルシャツの胸ポケットを無意識に探り、そこにいつも当然のように収まっている、小さな赤い箱が無いのに気付いて苦笑した。
そうだ。俺は禁煙中だった……
仕方なくもう一度、パワーウィンドーのスイッチに指を掛けたけど、車内を吹き抜ける冷んやりとした早朝の春風が思ったより心地良く、気分を変えて窓を全開にすると、その窓枠に肘をついた。
風は、まだ小さなタバコの葉を優しく揺らし、すぐ先の松の防砂林を抜けて、海へと渡っていく。
弱いオフショア。
前を走る、ロングボードを積んだ青いステーションワゴンの左のウィンカーが点滅し、細い農道をゆっくりと曲がって行った。松林の向こうには、きっと形の良いメローな波が、彼を待っているに違いない。
今日、俺が行くサーフポイントは、既に前から決めてあった。 例え波が無くても、オンショアの風が吹き荒れてジャンクな波であろうとも、とにかくそこで海に入る。クローズアウトでない限り。そして幸いな事に、今日は天気図なんて見なくても、クローズアウトの可能性はゼロ。
ステーションワゴンのテールランプを見送り、視線を前に戻す。
そして遥か遠くに見える青信号に向かって、アクセルを踏み込んだ。