騎士になる為に 【7】
「なぁこいつ殺していいか?」
葵がからかわれたように感じたから出た言葉だ。
「いや待て落ち着け、このディルさんはだな」
「知らん。こんなろくでなしは受け付けん」
「なんだ少年よ。その態度はダメだな。昔、葵をここに案内して紹介までしてやったんだよ俺は」
「そうですか」
「それはそう。そうですけど、ここまで酒を飲まれるディルさんじゃなかったはずですが」
「おじさんショック! いろいろめんどうがあったんだよ。で、葵は連れを連れて何しに」
こいつのおかげで葵の機嫌が戻りつつある。それはそれでいい。
「ここのマスターは不在何ですか」
「んだ少年。葵の彼氏か!」
デ・デジャブだとこの短い時間に。ここはどうせだ冗談でも言ってしまうか。そうだと。
「違うから」
葵の口数が増えてきて何よりだ。冷静に否定されたので冗談はやめる。
「ディルさんも何でこんな昼間から一人で飲んでるんですか」
「そうね。話長くなるけど聞いてくれる?」
「冗談なら嫌です」
「さらにおじさんショック! 昔は何でもニコニコしてた葵はどこに行ったんだ。おじさん泣いちゃうよ」
あまりにも親しく話すもんだから中々本題と言いますか何て言いますか入って行けないんですけど。
「なんか葵の知り合いみたいですけどおじさんさ。ここはギルドなんですよね。葵に連れてきてもらったんですけどそんな感じに見えないんですよね」
「ハハハこりゃ参った。嬢ちゃん中々いい観察力を持ってるな」
今日の朔乃は一味違う。肝が据わってると言いますか度胸がすごい。まぁ朔乃のいう通りだ俺にもここはただの酒場にしか見えない。あれを客と言うならだが、あれとは場所に不釣り合いな防具を着こんだ酔っぱらい集団の事。奥のテーブルで飲み交わしていた奴らは冒険でもしてきたのか汚れが際立っている。
「なんだ少年も嬢ちゃんもギルド目的なのか。めんどくせぇ。ここはただの飲み屋だよ。飲み屋。人生に疲れた身体を癒す場所。ボロ屋だけどなハハハ酒追加だマスターもっと持って来てくれ。と、ついでに嬢ちゃんちょっと肩揉んでくれねぇか俺も揉んでやっからよ」
嫌そうに近づくな分かるけども。ドンマイだスタッフの方。
「きゃっ」
「おおーいいビンタだ」
何故に葵よこのおっちゃんの時に冷静でいられるんだ。さっきまであんなに来たくないような顔してたくせに。
「そうだぞ天薙、ここは飲み屋だ」
だ、ろうな。ここがギルドでないことは分かっていたよ。イメージと違い過ぎるからな。
「俺はまだ未成年なのでお酒は飲めないぜ!」
「未成年? 何言ってるんだ」
何故に疑問顔。俺は学生お酒は二十歳からでしょう? ここは異世界でした。そもそも未成年の定義は日本と違うわけですね。外国によっても様々と聞きますしね。
「そうか。だけどな飲み屋は裏の姿ってもんよ」
だろうな、話の流れがそれとなくテンプレと感じていたよ。これは必須のイベントか何かなのか。はじめからギルドに連れていってはくれませんかーと、心で騒ぎたいけど怒られてメンタルまでダメージを受けるわけにはいかないと踏みとどまった。頑張った俺と自分を誉めてやりたい。と言うか冷静さを保てていなかったらこのおっちゃんに俺がこの短剣をお見舞してしまいかねなかったよ。してしまったら、警察にご用になってしまう事になるだろう。いや王国兵士、ここでは九条先生が兼任している憲兵に捕まる事になるのかそれはそれでねちねち拷問のショータイムになるのか。と、脳を働かせた俺のわきで凄く苛立ってる朔乃がいた。めっちゃ怒ってる。自前の短剣が無意識なのかは分からないけども、昔の玩具で見たことある。そう、ブリキ人形のように一定のリズムで振り下ろすモーションをしているではないか。それと何かぶつぶつ言っている。耳を澄ますと「処す処す処す……。まじで臭いしめんどくさいこのやり取りで時間取られるの最悪いい加減案内するならとっとと動けよ」と言っていた。朔乃も何だかんだ匂いに限界が来ていたようだ。一刻も早くこの場をどうにかせねばこのおっちゃんは危険だ。俺達もやばい。
「ちょっと朔乃さんどうしちゃったの落ち着きましょね」
「うわキモ。何かあったのクレハさん」
朔乃が俺をクレハさんだと!? これは由々しき事態ではなかろうか。そんなぎこちない笑みを見せるお方ではないですよね。顔が笑ってないぞ。笑う場でもないけども。
「葵、早く話を進めてくれ」
「何を焦ってる。これはある意味試練だからなディルさんの冗談話以外を良く聞いとけ」
「ディルさんお願いします。この二人に話を」
「そうだな。ギリギリ冷静さを保ったと言ったところだが特別に良しとしよう。葵に頼まれたのであればしょうがないからな」
「ありがとうございますディルさん」




