科学サイド 人智の先への監視
彼女、玖遠黎華を追ってから今まで長きにわたるが彼女の変化に気づくも、彼女の行動に直接関わる事はしない監視にいつの間にか彼女が連れる子供は誰だ。という疑問にたどり着く。子供を授かるタイミングはこの世界では起きていなかったからだ。つまり、どこかで異世界に行っていたのではないか。それをきっかけに異世界へ行く術を見つける本格的な研究をする事になったわけだ。
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教会で異変が起きた同時刻、監視していた三人は危険を察知した。
「このままじゃまずいぞ。至急教会に向かう。雫、車の手配」
「はい」
「藤堂は公共団体に情報を流して協力を仰いでくれ」
「一〇年前に竜胆博士が仮定していた事が起きますね。急ぎます」
『セキュリティ本部応答して下さい』
『こちらセキュリティ本部です。何かありましたか』
『こちら、特殊空域研究所SASの藤堂です。至急セキュリティ本部の部隊の派遣を要請します。自衛官との連携により地域住民の避難と我々との同行部隊の編成を願います。これから数時間以内に高質力のマイクロウェーブが予想されます。被害を受ける地域は関東全域のおそれがあり地下シェルターへ誘導をお願いします。電力会社各位に電力の遮断の要請をそれにより警察、消防の配置もお願いします』
『了解しました。藤堂さんから送られたエリアの部隊に派遣を要請しました。合流して下さい』
『ありがとうございます』
「竜胆博士。絶対に保護しましょう」
「もちろんだ。被害を出させてたまるか! あの時、玖遠黎華が異世界から現世に連れ込んだ災厄の存在は絶対に保護する」
藤堂は急ぐ車で持ち込んだ端末から教会の監視を続けた。
「寝台に寝かされているのが保護対象の玖遠刻夜くんですね」
「そうだ」
玖遠刻夜を災厄と呼ぶのは明確な事実がある。
「以前、あの教会周辺では神隠しが起きたとも噂のある曰く付きのエリアだと言うこと。そして、行方を眩ました黎華と共に姿を現したのがその少年だ。おそらく、いや現世と異世界どちらも遺伝子を取り込んで生まれた人間だと睨んで言っている」
何らかの衝撃が加わりバランスが崩れプラズマに似た現象が空間に及ぼす可能性がある。
「この画面に映る神父も以前、博士が見せてくれた映像に写った男ですね」
「黒城は神隠し事件の被害者でもあるが、事件の時期から遅れて姿を消し、再び姿を見せた時には、他の神隠しの被害者も立て続けに戻って来たと言う情報がある。黒城に注目がいった訳はメディアが彼をヒーローと呼び出していたからなんだが、皮肉なものだよ。メディアはそもそもどこから知り得た情報だったんだろうな。彼はその後、教会に身を寄せていたんだ」
「なぜ、わかっていながら救ってあげなかったんですか!? 俺が言うのもなんですが、めちゃくちゃですよ。確かに研究室はひっそりしていたあの時に比べ国を動かすほどに大きくなりましたが……」
車は教会のある森の入り口に到着する。
派遣された部隊と合流し、竜胆の管理下の下に部隊の配置、今の状況を説明した。
「博士非常にまずいです」
藤堂と雫はともに車内から。
防護服を着こんで配置についた竜胆と端末を通して連絡を取り合う。
「どうした」
「まじで何ですかこれは……異常だ……」
「はやく説明してくれ! こっちも空間の圧力がすごい。なかなか進めないくらいだ」
「各エリアの守護部隊の配置完了。ちょっとここまで来て今さら動揺しないでよ! 竜胆博士、私が変わります。藤堂くんは急いで森一帯にアンチフィールドを展開して」
「了解です。……こちら藤堂です。これより、森一帯にアンチフィールドを展開します。各部隊長は守護に尽力をあげ、先ほど支給したポールを設置して下さい」
雫と藤堂は仕事を交換して対応した。
「竜胆博士聞こえますか」
「あぁ、教会の中はどうなってる」
「率直に言います。物凄い霊体反応です。空間の圧力はそこから漏れる余波によるものです。今、中では保護対象の少年が起き上がり宙に浮き始めています」
「そうか、いよいよだな。 ここまで来て間に合わなかったかも知れんな」
「アンチフィールド展開しました! 何ですかあの光は……その……神父が持っている剣が……」
アンチフィールドの外に戻った竜胆は部隊に作戦の変更を告げた。
「これより森の中の圧力が治まり次第、教会にいる保護対象の少年ならびに神父を管理下におくため拘束を許可します。これは、国の命令と同義である。それまで監視カメラとドローンからの映像を見ながら自分の身の安全第一に待機するように」
この事件は竜胆の予想を越えた。後にオブリビオン・メモリーと呼ばれる大きな災害を引き起こす事になった。引き金となったのは言うまでもない。天薙の呪術いや、魔技による影響が大きい。
竜胆達が用意したアンチフィールドはその名と反対に天薙の暴走した魔技が広範囲に影響を与えた。波長の中和ではなく拡散。事例のない事象に根幹から的をはずす結果になってしまった。
防護服を着ていた竜胆達と、そこにいた部隊を含め、地下シェルターへの避難が出来た者達は、影響を受けずに済んだものの、影響範囲内の避難出来ずにいた者達は唐突に記憶を失っていった。
この一件で研究所は当面の凍結を言い渡される事になり、国は結果的に国家機関の研究とされていた事実を隠ぺいするように竜胆達にすべてを負わせると閣議決定された。以後、この異世界と現世についての研究は表向きではなく、国民に秘密裏に進める流れで記憶を取り戻す為に実験を継続する事になった。
「竜胆さんはこの子どうするんですか?」
「唯一、救えた少年だ。俺と雫の養子として保護して育てるさ。天薙があの事件以来姿を見せず、黎華はこの子を守り身を捨てた。言い方が悪いが異世界に関しての貴重なサンプルはこの子しか今はいないんだよ」
「まったく皮肉ですね。災厄な存在と思っていた少年が唯一の希望になってしまうなんて」
『ICUより黒嶺竜胆様。通話をお待ちです』
二階から覗くICUには少年が治療を受けている。
「はい竜胆です。どうかしましたか」
「黒嶺博士。被験者のこの少年の脳波パルスにわずかですが、ノイズを見つけまして」
「そうか。その脳波パルスの間隔に合わせ、外から脳波に逆パターンの波長を流し込み状態の観察をしてくれ」
「竜胆博士こっれってもしかして」
「そうだな。藤堂くんもわかったようだな。これは行けるかもしれないぞ!」
「はい。事件の時と同じ波長分かりましたよ。つまり、この少年が黎華と同じくゲートを開けると言うことですかね」
「それだけじゃない。今回は少年のゲートを通してこちらの電波を微弱だが送り込む。異世界の情報を現世で視認できるように解析し干渉する。異世界に少年を送り込み現世で起きてしまった記憶障害を解決するように促すんだ」
「なんか竜胆博士が悪魔に見えます」
「それはひどいな。でもマッドサイエンティストなら夢あるけどな」
「いや、もうすでにあの事件で追放までされてるんで俺たちマッドですけどね。くそー普通の人生も欲しかったっすよ」
「なに言ってるんだ今さらじゃあ。藤堂も異世界行っちゃう?」
「まぁ……そうですね。いいかも知れないですね。そこに異世界あったら入りたいですよ」
「いや、ほんとに」
「まさか?」
「真面目に。だって天薙の事知ってる人物が行かないでどうするの」
「まじ竜胆さん悪魔ですね」
竜胆は異世界生活を現世から俯瞰的に観察をする。現世から一種の神になるともいえる地位に身を構えようと考えていた。その為に藤堂を送り込み現世との通信環境の構築の任務を与えた。
異世界は現世と違い時間が経つのが早いか、遅いかそれとも同じ時間なのかが分からない。早いなら現世に都合がいいが同じなら少年が成長するまで現世の記憶障害は止められない。遅いのはもってのほかだ。




