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無能騎士 【10】

◼️-体育館外入口付近:戦闘同時刻


 シリルは真っ先に走って行った葵を懸命に追いかける。足の地面につく時間を短くして走るスタイルの葵に追いつくわけはない。それはともかくも、荒れ狂ったガルムが待ち受ける場所に何があるかもわからない。そんな事を思っているのだろう。たまに地面を向き首をひねっている。


 場所は集会で使っている体育館の入口付近。


 シリルが忠誠の儀を交わしているのはアリス会長であり、葵ではない。魔技も戦闘向きというわけでもない。そもそも、シリルもあまり表に出る性格ではないのだ。そんな事はシリル本人が一番理解している。


 目立ちたくない理由は知っている。確か、いや、この時の俺は何も知らない。教える事はシリルの名誉の為にやめておこう。


 俺は俯瞰してこの時間を観察する。俺は虚空。この時代には存在しない観測者だ。この時間はほんの一部。何も知らないこの時の紅刃は選択肢を間違える。


 ーー俺の魔技は禁忌をも支配する。《記憶》


 紅刃は無能もいいところ。ゲームのようにしか思っていない。


 昨日の俺、紅刃に魔技の使い方を教えた。記憶にあれば自ら使えるはず。印象が弱かったのか使う素振りを見せない。何故だもっと強く印象を与える必要があったということか。


 当時もガルムの暴走は確かに手を焼いた。それでも今回の時空はもうすでにずれを起こし始めているのは確か。


 ときの干渉もまた禁忌だ。それでも大きい変化は起こさない。この時代の紅刃が戦えるタイミングを速めて経験を積ませる。本人が育たなければ意味がない。

俺が俺の戦闘スタイルを決める。それが今の俺の存在いみだ。



 ガルムとの戦い最中だが、今後の為に少しばかりここの世界構成について説明させてもらうと、この世界は大きく分けて六勢力ある。それぞれ各国は王が統治している王政の国であり、国は一つのエリアを中心として囲むように大陸が存在している。


 各国の独裁政治が統べるそんな中、このシャフレヴェル騎士学園が建つガンドヘルム共和国は王政ながらも共和国を名乗る。その理由は、国王たるアルフレッド・ジュリアス・マグヌスを象徴とし、民政を許しているところにある。特に騎士の育成に力を入れた国である事。しかしながら裏で騎士団を他国に派遣させている噂もある。民政が統べているこの王国ではおかしな話でもない。


 この派遣制度は後に身をもっておもい知らされる事になる。


 国家間の争いはまだまだ先、今後の流れも俺とは違う展開に向かわせる。これは運命みらいを変える為に大罪に接続した俺の復讐だ。


 大切な人を本当は護らなくてはいけない人。そんな人を俺は手にかけてしまった。結果的にゲートを開く事ができ、異世界ここに戻って来た。仮初めだとしても世界の流れを変える為に。


 この時の紅刃にアイツを使わせる事はさせない。近くにいても気づく事はない。同じ空間に存在させない。アイツは俺のものでもある。その為に、紅刃の行動を誘導する。そして今できることをするそれしかない。


 俺は校舎の上から観察する。あくまでも俯瞰だ。本能ってやつかは知らないがガルム達は俺の存在に気づいているようだ。ここで直接干渉はしない。アリスの意識を数秒借りてなら知識を伝えても大丈夫か試みてもいい。


 俺は校舎の上からアリスに魔技を使い。再び葵の方に向かい屋上を走る。


 ガルム達が俺に気づいているなら、逆にその記憶だけをガルムの脳に保存すれば群がっての戦闘は減り少しは討伐も楽にはなるだろう。


 太陽の光を雲が遮りあたりを陰らす。天候が悪くなるほどの雲ではない。地上ではそよ風程度だが、太陽は雲の隙間から度々顔を覗かせる。


 ーー太陽からすれば俺も観察対象かもしれない。


 体育館入口付近に向かった二人はガルム二匹を視認しているようだ。


 シリルの魔技は対象の視界を共有する能力。つまり、監視に優れている。戦闘中に監視というのはいささか心細い。そんなシリルにも確信はある。そんな表情を浮かべていた。


 敵の視界を共有する事の意味を理解している。そう言ったところだろう。


 敵の視界。これならば敵の動きを予測でき、葵をサポートできるわけだ。逆に言えば、未来予知ではないから予測しかできない事だ。この方法は今の紅刃の思いつきが与えたヒントから視界共有の魔技を使うシリルならではの賜物だ。当然ながら騎士としてこの知識は会長も実戦している。


 「シリルさん大丈夫ですか」


 「葵さんこそ一人でこいつ等を相手させてすみません。僕はフォローに徹する事しかできないけど、足手まといにはなるつもりはないから」


 「はい、大丈夫です。シリルさんは頭がいい。けして足手まといにはなりません」


 葵は二頭の獣鎧じゅうがいのガルムを相手するかたちだ。


 「シリルさんどうにかして動きを把握できませんか」


 (一人で二頭は範囲が広過ぎる。もし一頭のガルムの視界を共有しても動きを止める事ができない。それに他に視界共有できる対象は……。できれば上空に……。葵さんをフォローする為には……)


 体育館入口付近は朔乃やアリス会長のいる校舎の間と違って広いフィールドだ。戦闘にも幅を利かせられる可能性は高い。その反面逃がす可能性も高い。


 (そうか、これなら僕の魔技を使わなくとも。それまでの間は必要か。でもいけるはずだ)


 「葵さん策戦言うよ。策戦はガルム達を体育倉庫に閉じ込める。その為に僕が体育倉庫にホースで水をかけるからガルム達が入ったら葵さんの叢雲むらくもの能力。絶対零度領域アブソリュートゼロで氷らせてほしい。それまではガルム達の誘導しないとだけど」


 実行するには、同じ場所に集めるまでに何をするか。


 シリルより先に戦闘なれのある葵がひらめいた。


 「シリルさん私に考えがあります。やつ等が獣鎧ならば血肉に惹かれる傾向があるはず」


 話ながら葵は叢雲の刃で自らの腕を切りつけた。


 (うぐぅ)


 シリルは言葉につまる。止めるよりも行動が早い葵にやれやれと言った感じに頭を落としたからだ。


 活発。堂々。男よりも……。


 痛覚共有しているのにまさかの行動。あの時のキズはガルムの攻撃じゃなかったのか。


 葵は叢雲を解き放つ。


 「われ巳咲葵みさきあおいの名の下に水流に誘われし行雲こううんほとし氷の精霊よ今この刻、姿を現し加護をもたらさん叢雲むらくも!!」


 葵の叢雲は言霊に反応し手にもった黒鉄の刀剣は刀身を青白く染め冷気を纏っていく。


 入口のドアに群がったガルム二頭は葵の思惑どおり血のにおいに惹かれ駆け寄りながら威嚇の咆哮をあげる。


 「グゥルルルーウウォーン」


 血の臭いは悪魔憑きである人鎧、獣鎧と共通の欲求だ。


 血は人鎧、獣鎧など悪魔憑きにとって重要なエネルギー源。傷の再生や魔力の生成に限らず肉体の強化に体力回復に効果がある。エナジードリンクみたいなもの。


 獣鎧は術者が使役した存在。その術者が上位の人鎧である可能性が高く。術者の魔力を吸い上げる事ができる事もあり、耐久性が高い。


 悪魔契約の下で身体の一部を捧げる人鎧と異なり契約ではなく完全に身体を悪魔に支配される獣鎧は悪魔その物と言ってもおかしくない。獣鎧にされた生き物は討伐対象だが対して人鎧は悪魔を聖剣をもって封印が可能であり身体に影響はない。問題は契約の有無だ。欲求に対し理性が関係する。人鎧といえど理性が崩壊し欲求が勝れば獣鎧のそれと同意ということ。人鎧を見つけたら直ちに聖剣をもって封印する事が重要。



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