無能騎士 【6】
■-体育館内
「みなさん転校生である俺の話しですが聞いて下さい。この騒動は何者かによるガルムの脱走だそうです。授業で仕様する為に飼っていたガルムだそうですがどうやら凶暴化しているらしく腕にまだ自信のない人達は特にこの場に避難するようにとのことだそうなので自信のある方はこの場を警護してください」
俺は演説台のマイクで館内に呼び掛けた。今思えば、すごく目立つし恥ずかしいが、乗り掛かってしまった船だ。わりとラストまでいけてしまうかもだし、そうだ乗り越えてしまえばいいんだ。とにかくなせばなるかもしれん。
(俺達も二階から外に行ってみよう)
俺は、いわゆるテレパシーで朔乃と葵に行動を伝える。
「シリルは外に出たらガルムの視覚共有してくれるかな?」
「別にいいけど」
俺に呼ばれてから文句もなく隣に立っているシリルにお願いをしたわけだが、少し顔がというか正確には頬が紅潮して見える。シリルもまた人の前に立つような性格ではないそう言う事か。
「シリルの能力はある意味最強な回避力だからさ」
俺の言葉に対して疑問があったか、首を傾けほんの数秒たったシリルの上目使いに俺は不覚にも胸がきゅんってなった。
シリルは男だなぜに俺の心臓はテンポアップするんだ。
「そうかなるほど、紅刃冴えてるね。僕の魔技は偵察だけじゃないのか。こういう使い方もありだね」
細かく説明をしたわけでもないのに俺の思考を呼んだのかいや、忠誠の儀は交わしていないから単純にシリルは頭がいいのか、一応だ一応確認してみよう。
「シリルの考え教えてもらっても? いやさぁくい違っても悪いしさぁ」
「要するに、紅刃が言いたいことは、標的のガルムの視界を共有すれば行動パターンも予見できて隙をついて倒せるって事でしょう?」
シリルすごい。俺もシリルの魔技を完全に理解したわけではないけど、俺の一歩先の答えを言ってくれたので二重丸あげちゃう。なんか息が合う仲間が出来た感じに嬉しい。
「なぁシリル」
「まだ何かあるかい?」
「いやそのさぁ。忠誠の儀の事なんだけど思考を共有してるだろうそれってさ自由にやめたりできないかな。頭の中めちゃくちゃ混乱するし二人にもいろいろ筒抜けにさ……」
「こんな状況でやましい事考えてるのかい?」
シリルに蔑んだような目で笑われている。まぁそうなるか。俺はまだ、ここの世界に来たばかりだ。無知過ぎてどうしようもないと理解して欲しい。
いきなりの騒動に口を出してしまったのも俺が悪いかも知れないが、なぜにメイドのアリシアさんは俺に任せてくれやがったんだよ。
「そんな事はけしてない。ただ、テレパシーは不便過ぎる。オンオフ切り替える方法教えてくれないか?」
いや、できるわけないか。儀式交わした時からだし強制的なんだろうな。こうやって考えてる時も二人の邪魔になってるわけだろう……。
「できるよ」
「できんの!?」
「できるさもちろん。聖職者のように欲望をおさえこむんだ」
「まじか!」
なぜ一瞬でもエセ神父を思い出した。あいつめ!
何やらシリルの表情が沈んでみえる。きっと会長になんか言われたな。
会長には戦闘中にふざけているようにしか見えないのだろう。俺の為にシリルは緊張をほぐしてくれているのに。ほんと不便だ。
「もしかして会長になんか言われたのか?」
「そうだよ。君のせいだぞ……」
「なんかごめん」
「知りたいんだろ思考共有の操作方法」
「おう」
「今、君と僕はそれぞれ儀式上では王の立場だ。僕達は騎士である彼女達と契約をして思考共有する事になっている。この思考共有は信頼しあっているかいないかで変わるんだよ。つまり、王である僕達に信頼の権利が与えられるわけ。君や僕が彼女達に不安を感じれば逆にこの思考共有は強くなる。拘束されると言った方が分かりやすいかな」
「なるほど……」
「拘束が思考共有であるとしたら逆に解放すれば信頼する事になるわけだから。早いこと言えば頭の中で騎士の事を想像してトラストと言えば必要な会話以外は伝わらないし、儀式で立場が変わらなければ解除した後も再度の儀式でも持続されるから安心していいよ。すべては信頼なのさこの儀式はね」
忠誠の儀は形式的なものだと理解できた。ようは穴埋め問題のようにキーワードを当てはめる感じかも知れないな。それなら使いこなせるかもしれない。朔乃と葵を信じていないわけではない。無能な俺は二人を頼ることしかできないんだ。
(トラスト)
俺は頭の中でトラストと唱えてみた。いくぶん落ち着いた気がした。
(クズハ何で二回もトラストしてるのよ一回で十分)
? 俺の頭で朔乃の声が聞こえた。二回? そう言えば途中から聞こえてなかった気もしなくも……。いつの間にかできてたのか? 覚えがないけどまぁいいか。
(二人とも大丈夫なのか)
(もんだいない。お前の声は耳障りだがそれで私が混乱する事はない)
(そうか。葵はカッコいいな)
(ばっ///くそーお前いい加減にしろよ!)
(俺なんか言ったか? なんで苛立ってるんだ?)
(うるさい!)




