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記憶と認識と迷々【12】

「お前、俺に自分の魔技を教えたって事はあれだよな? 俺の敵ではないんだよな?」


「何を言ってるんだよ。僕は君に教えてあげるって言ったんだから、敵な訳ないじゃないか。そもそも敵ってどう言う事だよ。これから同じ学び舎のメンバーだろう。それに今の君は僕にかなわないだろ」


 なぬ!


「そっか、そうだな。俺自身何も出来ないのは分かってるさ。だが、そうだな俺が唯一誇れる特技を言うなら、観察力だ」


「へぇー僕と酷似こくじしてるんだぁ。それは面白いね。その観察力はいかほどかな」


「お前のは魔技だろう? 俺のは天然物なの。ついでに忠告してやろう。お前余り暴れない方がいいぞ枝が悲鳴あげるからな」


「大丈夫だよ。今降りるから」


「そうか、んじゃ俺はもう行くは、明日お前の所に行くからよろしくな」


 流石にすげー腹減ったぞ。


『バギッ!』


 バキッ? ちょっまさか!


「きゃっ!」


 俺は何故こいつを抱えている。


「ナイスキャッチは感謝するけど、いい加減下ろしてくれるかな?」


「おぉ……」


 こいつは自分の制服に付いた葉っぱを払いながら俺にぶつぶつと文句をたれている。


「何で僕をお姫様抱っこしてくれてんだよ」


 まぁ確かに、とっさの事で考える暇はなかったが、何で俺はこいつを助けたんだ? こいつは男だ。女の子なら俺に惚れるパターンだろうけど、こいつはあり得ん。


 そうこうしているうちに、理事長室があった別棟の方から俺達に向かって手を振りながらやって来るのは、赤髪のポニーテール。天月さんだ。


「シェリルーまたここに居たんだー」


「シェリル? 誰だ?」


「僕の事だけど、正確には違うんだけど……朔乃んだけ、僕の事をそう呼ぶんだよ。朔乃んは何故か僕を子供扱いするんだ……」


「お前も苦労してんだな」


「まぁね」


 天月さんはこっちに来て、早々にこいつの頭を撫でまわしている。天月さんの身長は俺の肩より若干高いぐらいだが、そんな彼女が前屈まえかがみで撫でている。こいつの身長はそのくらいだと言う事。抱えた時、通りで軽かった訳だ。と、納得する。下から見てた時も余り身長がない事は分かっていたが、実際に降りたこいつと比べると俺の胸ぐらいで、確かに見た目は子供にしか見えない。


「何で君がここにいるのよ。まさか、シェリルに手を出したりしてないでしょうね?」


「出すかよ! 俺は男だぞ!」


 撫でながら、横目に過保護的言葉を俺に声かけて来たが、俺は手を広げ、お手上げで何もしてない事をアピールした。


 頭を撫でまわされているこいつは辛そうな表情をしているから止めてあげた方がいいのではと、思わないでもないが、本人が口に出さず耐えているのだから俺が口を出すのは失礼だろう。きっとこれは普段の日常なんだと、俺は言葉を呑み込んだ。


「それより君! 理事長が言ってたからしょうがなくだけど、私の家に帰るわよ」


「そうですか。ところで天月さん? あの事は……」


「いいわよ。あの時の事は私だって気を抜いてたのも悪いし、そもそも、忠誠の儀を頼んだのも私だし、ここに来た時にも言ったけど、私の事、天月さんじゃなくて朔乃って呼んでいいから、なんか君にかしこまれてるようでくすぐったいのよ」


「じゃー朔乃?」


「なによ」


「なんかこいつ苦しそうだけど?」


 俺と話てる間にこいつの顔は朔乃の胸に押さえつけられて腕をばたつかせていた。


「ごめんねシェリル。大丈夫?」


「大丈夫だけど、朔乃んまさか、変態君と同居するの? 二人っきりで?」


「ほんとはいやよ、でも……君名前なんだっけ?」


 このやり取り何回目だよ!


「そう言えば、こいつに名乗ってなかったな俺の名は天薙紅刃よろしくな」


「紅刃だね。言って置くけど、僕をシェリルって呼ぶのはちょっと止めて欲しかったりするんだけど。シェリルって女の子の名前だしね」


 確かに! 何でシェリルって呼ばれてんだ?


「じゃあ、何て呼べば?」


「僕はシリル・カルヴァート。シリルと呼んでもらっていいよ」


 そうか、シリルね。どことなく近い名前ではあったんだな。


「じゃあ、シリル明日よろしくな」


「ああ、明日は覚悟しときなよ。それと、くれぐれも朔乃んを襲わないでよ」


「するか!」


 ******


 シェリルじゃなかった。銀髪の少年シリルと別れ、朔乃んと夕暮れの中を下校をしているのだが……。


「何でまた荷馬車何だよ!」


「仕方ないじゃない。ロッカーに財布忘れちゃったんだもん」


「マジで言ってんの?」


「ほんと最低よねー」


「自分で言うな!」


「てへ」


 シリルと知り合って以来、朔乃とは少しずつだが、打ち解けてきている気がする。そうこうしている間に、おじさんの荷馬車は行きで通れなかった高層の建物の間を抜け役所に向かって行く。


 道を塞いでいた岩程の瓦礫は片付けられ、下に散らばっているのは細々とした物ばかりになっていた。あれ程の物を一日で片付けてしまったのかと思うと、流石としか言えない。


 帰りは藁のない荷馬車でゆっくり身体を伸ばせたのはいいが、行きも帰りもドナドナとかマジ都会に不釣り合い過ぎて笑えてしまう。まさか、明日もドナドナ体験するのか?


 役所前に到着して荷馬車から降り、おじさんに礼を言いつつ俺達は家の方角に歩み出した。辺りは完全に日が落ちきり夜が訪れ、街頭が石畳みの街道を照し始めた。


 朝、騒動が起きた通りは静かと思って見れば、店を出してる所もまだあり、賑やかとまではいかないまでも、ぽつぽつ客が行き交っていた。


 ここの通りは橋を渡った先、朔乃の家がある通り、交通の激しい本道とは違く、数台の馬車しか通っていない穏やかな通りだ。だから、こうやって露店を開いている商人が多いのだろう。


「おい! 兄ちゃん達、朝はありがとよ。お陰で今は落ち着いて肉が売れてるよ。お礼っちゃなんだけど、これ持っていきな」


「お兄さん。ありがたくその肉いただきます」


 人鎧に襲われていた筋肉隆々のお兄さんの手を俺は両手でしっかり包み感謝するように肉をもらった。ずーと食ってなかったためか、その肉は相当旨そうに見えていたのだ。


「ねぇ、ねぇってばクズハさーん。一つ言うけど、ほぼ頑張ったの私だよね?」


「だからなんだってんだ。これを俺から奪う気か?」


 つか、せっかく何度も名乗ってるのに君の次はクズハかよ!


「そんな事言ってないわよ」


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