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遠藤兄弟と夕闇と  作者: 筆屋
5/8

祠の主と帰り道

文月が帰り道に出会った二人の氏神。

彼らと織り成す小さな小さな物語り。

ザァァァ。

「わっ…。」

春の寒さを吹き飛ばすような風によろめいた。

「重い。」

文月の手には、一升瓶に入った日本酒が2本。

叔母に作って作ってもらった料理がびっしりと詰まった五段のお重箱。

卯月は、隼に頼んで、叔母の家で料理を受け取り、日本酒を買った帰り道。

今日は、亡き祖母の言い付けで、改めて氏神を招き、新しい遠藤家の当主の祝いの席をもうける…という事らしい。

当然、主役は人ではないので、これらの料理は、いわばお供え物だ。

「ふぅ。さぁ、どうするか…。」

酒屋を出た辺りから何者かが着いてくる。

勿論、怖くて振り返る気にはなれない。

気になるのは、徐々に距離が縮まってきている事。

追い付かれたら、どうなる?

「はあぁぁぁ。やだなぁ。」

家まで走る?

でも、走り出すと逆に一気に追い付かれそうで怖い。

「おお。お若いの。妙な者に追われておるな。」

突然、声をかけられた。

ほこら?

小さいが、細かな装飾が施された祠の前に小柄な老人が座っていた。

白い着物に白い袴、白い髭を蓄えたニコニコ笑顔。

「まぁ、隣にでも座りなされ。お若いの。」

「……。」

ここは…このお爺さんに助けてもらおうか…。

「すみません。失礼します。」

老人と一緒に祠の前に座る。

ズリ…。

ズリ……ズリ…ズリ。

重い物を引きずるような音。

ズリ…ズリ。

ずんぐりとしたシルエットの黒い影が、文月に気付かずに通り過ぎて行く。

「氏神の成れの果てじぁ。憐れよのう。」

「氏神?」

氏神とは、神社や祠に祀られている土地神の事だ。

「人に祀られて初めて氏神たりえるのじゃよ。

あれは、人に忘れられたか……ほんに憐れよ。」

重そうに身体を引きずりながら、遠ざかっていく黒い影。

「旨そうな匂いじゃな。今夜が楽しみじゃて。」

文月は、苦笑いを老人に返す。

「わしも、何時ああなるか解らんて、今を楽しまねばなぁ。」

文月は、立ち上がり、「お待ちしております。」と、頭を下げた。

顔を上げると、老人は消えていた。

「ふぅ…。」

特大のため息と共に文月は、重い荷物を手に、来た道を戻って行く。

さっきの酒屋で小さなパックの日本酒を買い、裏へ回る。

あった。

朽ちかけた小さな祠。

文月は、祠にパックのお酒を供え、パンッ!パンッ!

辺りの空気を切り裂くように大きく柏手を打った。

再び重い荷物と戦うべく、手に取り振り向くと、白いもさもさの毛が頭から、足先まで覆うずんぐりした塊がポツリと立っていた。

ザァァァ。

砂埃を巻き上げる突風。

たまらず、腕で顔を覆う。

そこに立っていたのは、朽ちかけた小さな祠と文月だけだった。

風と共に去った祠の主は、今夜来るだろうか?

さぁ…卯月が待ってる。

早く帰ろう。


スーパーハイハイで、駆け寄る卯月を抱き上げ、隼に礼を言う。

隼は、なぜか今日も泊まる気でいるようだ。

物好きだなぁ。

あかずの間の前に、買ってきた日本酒とお重箱を置いた。

そのついでに郵便を取りに門へ向かうと…。

「………。」

これは、どういう状況だろうか?

門が、白いモノでビッシリと塞がれている。

酒屋の裏の祠に居たあの氏神なのは、間違いないが、いったい何をしているのか?

あ…もしかして、入ろうとして挟まった…?

いや、さっき見た時よりも大きい?!

門の幅に大きさを合わせているようにも見える。

そのくらい、ぴったりと挟まっているのだ。

気にするな、という方が無理な話で…。

「あ…あの。」

「招かれざる者が入って来れないようにしているつもりかのぅ?」

!!

振り向くと、白い髭を蓄えたあの老人が立っていた。

「さっきの…。」

「お前さんに氏神に戻してもらった礼のつもりじゃろうて。ほほほ。」

「………。」

文月は、急いで家の中に戻り、台所の棚を開けまくる。

「うわ!文月、何やってんの?!」

「あった!」

おばあちゃんが漬けていたと思われる梅酒。

小さなお盆に梅酒と簡単なつまみを乗せて門へ向かう。

この風変わりの氏神も今夜の客に違いない。

門に挟まっている氏神へ、

「ようこそ、おいでくださいました。」

頭を下げ、お盆を氏神の前に置いた。

「ほ…。」

白い塊は、一言そう言った。

どういう意味かは、解らないが。


そして、物好きないとこは、門に挟まっている白いモノに全く気付かないまま夜を過ごし、帰えって行った。

このお話が、一人でも多くの目に止まる事を祈って。


―筆屋―

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