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遠藤兄弟と夕闇と  作者: 筆屋
4/8

追ってきた本

荷物の整理をしていたら出てきた昔見たことがある絵本…。

絵本と共に付いて来た物は…?

「荷物…コレだけ?」

文月の荷物の整理を手伝いにきたのだが…。

「うん。」

必要最低限の服。

勉強道具。

赤ちゃん用品………以上。

父さんと母さんが二人の為にと買い足した荷物の方がはるかに多い。

部屋の隅には、それらが山積みになっていた。

新しい布団に、ベビー服、アヒルさんの顔の付いたおまるも見える。

父さん、母さん…張り切り過ぎです。

卯月は、あーあー言いながらアヒルの顔をバチバチ叩いている。

気に入ったのか?

「お、懐かし。」

文月の荷物の中に一冊の絵本を見つけた。

「俺、この話あんまり好きじゃなかったなぁ。最後、泡になるし。」

「それ…どこにあった?!」

文月の顔は、驚いているというより強張っていた。

青い尾びれを岩場に横たえた人魚姫…。

「お前の荷物の中。うっ君のだろ?」

「貸して。」

文月は、俺の手から絵本を奪い取ると、そのまま部屋を出て、スタスタと廊下を歩いて行く。

「ちょっと?!」

慌てて後を追う。

文月が止まったのは、第2のあかずの間となった、おばあちゃんが××られた部屋。

襖を開け、絵本を投げ込むとピシャッ!!と、閉めた。

そして、元祖あかずの間に向かい何やらブツブツ言っている…。

コエーよっ!!

固まった表情のまま、部屋に戻った文月を問いただす。

「お前、あそこで何言ってたの?!あの絵本何っ?!」

「あの人魚姫…昔、家にあったんだ。母さんが死んで施設に行く為の荷物の整理をしてる時に出てきて、昔から気持ち悪いって思ってたから置いて行ったんだ。」

「それが何でここにあんの?!」

「だから怖いんだろ!!」

「どうすんの?!」

「だから今、あかずの間に居る…何か?に頼んでみたんだけど…。」

「で?」

「応答なし…。」

「………。」

「………。」

「荷物の整理…続き、やる?」

「あ、うん。」

一体、俺達に何が出来ようか。


夕方までに荷物の整理を終わらせ、俺は家に戻った。

「隼、お疲れ様。大変だった?」

母さんは、夕食の準備真っ最中。

「いや。文月の荷物ちょっとしか無かったし、母さんが買い足した荷物多すぎ。そっちの方が大変だったよ。」

「そう言わないの!相当処分したと思うわよ?

施設には、最低限の物しか持って行けないのよ。

一人で荷造りした文月君思い浮かべるとね…つい、あれも、これもってなっちゃって…。」

母さんGJ!

「あ、そうそう。隼が小さい時にもらったんだったかしら?覚えてないんだけど、こんなの見つけたの。卯月ちゃんにどうかしら?」

母さんが隣の部屋から持って来たのは…。

青い尾びれの人魚姫。

うっ…。

嘘だろ?!

絵本をこんなにも不気味だと思ったのは、初めてだった。

「文月に渡しとくよ。」

このまま母さんに持たせておく訳にはいかない。

どっどっどっ、と早鐘を打つ心臓の音を聞きながら、急いで2階の自分の部屋へ行く。

震える手で、文月に電話をかけた。

早く出てくれ!

「もしもし。そっちに行った?」

どうやら、文月は何かを予感していたらしい。

「ど、どうすりゃいい?!今、俺持ってんだけど!!」

…深い深い海の底に。

えっ?!

…珊瑚の壁と琥珀の窓のお城がありました。

小さな、女の子の声。

…そのお城は、人魚の王さまのお城でした。

「隼!そこに置いとくのはマズい!今すぐ行く!」

文月の声に焦りが混ざっている。

「いや。俺が文月の所まで持ってく。」

1分1秒でも家に置いておくのはイヤだった。

大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。

そのまま、勢いをつけて振り返り、床に転がっていた紙袋に人魚姫を放り込んだ!

何も見ないで済んだ事に、心の底からほっとしながら、1階に駆け降りる。

「母さん!文月の所に忘れ物!」

「え?隼?」

後ろから聞こえる母さんの声を振り切って玄関を出た。

外は、茜色。

うおおおおお!こえぇぇぇぇ!!

でも、真っ暗じゃなくて良かった!!!

ここから文月の所まで走って15分程で着く!

…王さまには、六人の姫がいました。

ゾッとした。

後ろから声が付いて来る。

叫びそうになるのを堪えて走り出す。

全速力で!

…美しい六人の姫の中でも一番末の姫の美しさは、際立っていました。

怖い怖い怖い怖い!

…その肌は透き通り、目は、深い海のように青く澄んでいました。

声と重なるように聞こえる自分の心臓の音と、呼吸音。

…人魚達の世界では、十五になると、海の上の人間の世界を見に行く事が許されていました。

あの角を曲がれば、もうすぐ!!

文月が、門の前で待っていた。

…末っ子の姫は、お姉さん達が、

「文月っ!!」

文月に絵本を渡したとたん、声がピタッと止んだ。

たす…かった?

文月が、顔をしかめる。

もしかしたら、あの声が聞こえてる?!

文月は、家には入らず、そのまま庭へ。

「文月、どうすんの?」

「初めから、こうしとけば良かったんだ。」

紙袋に入ったままの絵本を土の上に置いた。

「嫌な役をやりたくなくて逃げちゃった。悪かったな隼。」

マッチを取り出し!3本重ねてシュッ!と火を付ける。

「ダメだよ。」

文月は一言そう言うと、マッチを本の上に落とした。

パチパチと音をたてながら火に包まれる絵本。

「俺には何もしてやれない。こうやって燃やすくらいしか…。」

あの声の少女と話しているのだろうか?

灰色の煙が空へと登っていく。

やがて燃えつき、灰だけが残された。

「あの本…何だったの?」

「さぁ、わかんない。」

「さぁっ、て。」

「あの本は、あの女の子ごと家にあったよ。それだけしか解らない。解っても、何もできないし、身内に被害が及ばないようにするだけで手一杯だよ。」

文月は、何時もの苦笑いを見せた。

その言葉は、自分に言い聞かせているようで、疲れた苦笑いは、文月が味わってきた苦労を物語っていた。

「あ…あのさ。今さら帰るの怖いから泊めてもらえる?」

俺の心からの本心である。

「いいけど?」

この時は、やった!と思ったが、その後、地獄が待っていた。


「ハラ減ったしメシ食おう!お茶を…」

「あっ!卯月が倒してる!」

「あーあーあー!」ベチャ!ベチャ!バンバン!

和式のテーブルは、つかまり立ちにぴったりの高さなのである。

そして、大体の物に手が届く。

「タオル!タオル!」

「うおー!うっ君によだれ付けられた!」

「ブッ!ブブブブブブー!!!」

「ああ~止めてー!」

「あ…臭い。」

「まさか?!まさかのウンチですかっ?!」

「卯月!頼むから暴れないで!」

「あーあーあー!」

「あぁー!!つく!つく!」

「嘘?!お尻拭きがなーい!!!」

「文月!ここ!」

「卯月!ローリングしないで!」

「で…出来た。ハァ、ハァ。」

「取り合えず、先に卯月にご飯食べさすわ。」

「お…おう。」

「卯月ー。赤ちゃん居ずに座ってー。」

「あーあーあー!」

「卯月!立っちゃダメ!あぶない!」

「はい、あーん。」

「ブブブブブブー!」

「ブブブじゃないの!口開けて!」

「…。」

「次、風呂入れるわ。」

「お…おう。」

「クリーム、オムツ、着替え、よだれかけ、よし。」

指差し確認。

お前は、駅長かっ?!

「ダダダダダダダァー!」

うっ君の雄叫びと共に腰タオル姿の文月が、風呂から出てきた。

「クリーム!クリーム!」

「コレ?ぬるの?」

「肌が弱いんだ。風呂上がりにどれだけ早くぬれるかが勝負だから!」

「オムツ!オムツ!おしっこするなよ~!」

「服!よだれかけ!綿棒で耳の水分拭き取って、終了!!!」

「はい。白湯どうぞ。」

「チュゥー、でろでろでろー。」

「吐き出さないでー!」


「やっと寝た。」

「…。文月。お前、毎日コレやってんの?」

「そうだけど?」

「…………メシ、食う?」

「うん。食おう。ハラ減った。」


翌朝。

目を醒ますと、うっ君のカワイイ笑顔が上にあった。

「あぁ~♪」

うっ君の口から透明の液体が、糸を引きながら俺の顔に………。

「ぎぃやぁぁぁあ!!!」






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