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遠藤兄弟と夕闇と  作者: 筆屋
1/8

祝の席とあかずの間と

文月と弟卯月の不思議な日常に紛れ込んでしまったいとこの隼。

彼らの織り成す物語。


今、お祖母ちゃんは、食べられている。

正しくは、昨日亡くなったお祖母ちゃんの遺体が。

俺は、隣の部屋で、会ったばかりの同い年のいとこ

と共に、ただ、それが終わるのを待っている。

胃がずしりと重い。

そのくせ、ふわふわと沸き上がる不快感と戦いながら。

もうすぐ一歳になるという弟を抱いたいとこは、ただ、まっすぐ前を見つめていた。

彼の目には、いったい何が映っているのだろうか。

一見、大人しそうに見えるこの いとこと初めて会ったのは3日前──。


その日、お祖母ちゃんに呼ばれ、親族がこの家に集まった。

死期を悟ったお祖母ちゃんが、跡継ぎに会わせるから、と。

古びた日本家屋。

懐かしい、独特の雰囲気を漂わせている。

その日は、しとしとと小雨が降り続き、門をくぐると、土と雨の匂いがした。

<i157981|15288>

長男の新一伯父さん、幸叔母さん。

娘のはるかとほのかは、来ていない。

お祖母ちゃんの娘の母さん、父さんに俺。

心なしか、母さんと父さんは、ビクビクしている様に見える。

皆の前には、凛としたお祖母ちゃんと、一人の少年が座っていた。

「長女、綾の息子である、この文月さんにこの家を継いでもらいます。家の決まり事も、文月さんが守っていってくれます。」

「よろしくお願いします。」

少し低めの良く通る声でそう言うと、文月は、頭を下げた。

遺産相続の権利は、こっちにもある訳で…。

ここに来る前、両親にそれとなく言ってみた所、

「とんでもない!俺達には務まらん!」と速攻で返された。

「皆、異論はありませんね?」

質問、というより念押しの一言。

凛とした空気を纏わせたまま、お祖母ちゃんは、さっさと部屋を出て行った。

相変わらずだなぁ…。

お祖母ちゃんは、いつもそうだった。

何か、張り詰めたような空気をいつも纏わせていた。

小さい頃、「隼、こっちへおいで。」と、良く呼ばれた。

俺にはいつも優しく、俺は、お祖母ちゃんが好きだった。

お祖母ちゃんが、部屋を出た後、幸叔母さんと母さんが、何やら忙しそうに宴会?の準備を始めた。

見れば解るが、あえて聞く。

「母さん…何やってんの?」

「お祖母ちゃんの言い付けなのよぉ。跡継ぎを披露した後、祝の席を設けなさいって。」

大袈裟だなぁ…。

その時、場違いな声が響き渡る。

しゃくり上げるような泣き声…。

赤ちゃん?!

文月が、慌てて部屋の隅に置かれていた籠に駆け寄り、赤ちゃんを抱き上げた。

え?!

抱っこされ、ピタっと泣き止んだ赤ちゃんの髪も、

クルクルとカールしている。

<i157982|15288>

「えーっ?!俺と同い年だよね?!」

「………。弟だから。」

文月のしらけた視線が痛い。

「隼!アホか!お前は!高校生が子持ちな訳あるかい!」

そう、父さんは、関西人だ。

「あら~卯月ちゃん起きたの?」

母さんは、早くもメロメロの様子。

「姉さんもこんな小さな子を残して逝くなんてなぁ。文月君、すまんね。厄介事押し付けて。」

新一伯父さんが、文月に頭を下げる。

「いえ。ありがたいと思ってます。母が死んで、施設に居た一ヶ月間、卯月だけが、どこかに引き取られるんじゃないかと、気が気じゃありませんでしたから。」

文月と、文月に抱かれている赤ちゃんを見て、心が痛む。

ゴメンナサイ。ゴメンナサイ。財産とか言ってゴメンナサイ。

「大輔伯父さんと、夕叔母さんにも感謝してます。後見人になってもらって。ありがとうございます。」

「文月君、お礼を言うのはこちらの方よ。」

母さんは、慌ててそう言った。


トイレに行こうと廊下に出た時、奥の部屋から着物姿の女性が出てきた。

黒髪を後ろで束ね、黒地に赤い椿の柄が目を惹いた。

目が合ったので、軽く頭を下げる。

女が出てきた奥の部屋から、賑やかな気配がしたので、

「賑やかですね。」と、声をかけた。

「ええ。賑やかですとも。今日は、この家の当主が決まっためでたい席ですからねぇ。」

女は、赤い唇で嬉しそうな笑みを造り、歩いて行った。

トイレを済ませ、部屋に戻ると、新一伯父さんが、

文月と話していた。

「決まり事について、母さんから聞いてるかな?」

「はい。奥の部屋は絶対に開けるな。ですよね?」

「そうだ。それだけは、絶対…」

「俺、今、奥の部屋から女の人出てくんの見たんだけど?穂かにも人が…」

「え?!」

「何?!」

「隼、お前何言って…」

一瞬にして凍りついた空気を、たぶん俺は一生忘れない…かも。

「君…見えるんだ。」

!!!!!

「み…見てないっ!!俺は何も見てないっ!!気のせいっ!壮大な気のせい!!!!」

そう言い切る…うん。言い切ってしまおう。

そして、全力で忘れよう。

「そうやろ?隼~お前は、何を言い出すんや!」

「もう、隼ったら!」

「あははははは。」

「…………。」「あーあー。」

「…………。」「あぶぶぶぶぶー。」

「…………。」赤ちゃんの声だけが響き渡る。

食事が終わり、帰り際、皆が奥のあかずの間を見ないように、見ないようにと帰って行ったのは、言うまでもない。


お祖母ちゃんが亡くなったのは、その次の日だった。



この続きは、またすぐに。

どんどん、お話を書いていきますので、誰かの目に止まることを祈っています。

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