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笑顔

初投稿です。

練習がてら書いてみました。


俺は臆病な人間だ。


学校ではクラスにうまくなじもうともせず、

かといって排斥されるような言動だけは回避して、

ただただ時間をつぶす方法だけを考えていた。


家に帰っても家族と向き合うのがめんどくさくて、

飯を食べてはソッコーで部屋に行き、

ゲームやテレビに夢中になることで自分の世界にこもっている。


きっと誰かと真剣に向き合って、

自分に何もないと実感することが怖いのだ。


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高校2年生もあとわずかという頃になっても、

同級生の吉木よしき 佳弥かやはクラスメイトから頻繁にちょっかいを受けていた。


そうなった原因など俺は知らない。

容姿が他のクラスメイトと比べて特段違うわけでもなければ、

普段の様子でおかしいところも見受けられない。

身長も160くらいと大きくも小さくもない。

セミロングの黒髪を校則通りゴムで止めている普通の女の子、という印象しか俺にはない。

詳しいことは何も知らない。


ちょっかいをかけるヤツは、大体決まっている。

クラスメイトの男4人組だ。


最初はからかったり、軽いセクハラをかます程度だったが、

全国のいじめ話の例にもれず、月日が経つごとにエスカレート。

最近では教科書をどうにかされたようで、

半月前から英語と数学は教科書なしで授業しているらしい。

一応進学校だからか、今のところ暴力沙汰が起きたとかは聞いたことがない。


そして、そんなことがあってるにも関わらず、

クラス内ではそれが許容される雰囲気が定着してしまった。

日本人は空気を読むことに長けている、なんて何かの本に書いてあったが、

あながち間違いとは言えないと思う。

誰も、このクラス内で浮いた存在になることが一番嫌なのだ。


かくいう俺も他人事だからと無関心になることで、

クラスの中に溶け込んでいるのだから……。



--------------------------------------------------------


高校二年最後の登校日の朝。

俺が教室に向かっていると、

自分のクラスのドア付近で4人組のひとりが、

吉木佳弥を通せんぼするように立って、吉木に向かって何かを言っているのが見えた。


別に何か考えがあった訳ではない。

その様子を見て見ぬふりをして、

もう一つある奥の方の教室のドアから入ることもできた。

いつもの俺だったら、そうしていた可能性が高いだろう。


ただその日はなんとなく、邪魔されてるそこを通ろう、とまず思った。

わざわざ少し遠回りする意味もないしな、と後付けで理由も考える。


普段通りの歩みで二人に近づいた俺は、

吉木の横に立つなり、通せんぼしながら嘲っている男に向かって言葉を投げる。


「そこ邪魔になってるから、どいてくれないか」


今になって思えば、あの状況で正論を端的にぶつけるのは上策じゃなかった。

行動をいきなり真っ向から否定されて、受け入れられる人間はそうそういない。

ましてや、幼稚な行動が当たり前になっているヤツなら尚更だ。


一瞬ギョッとした顔をされたが、すぐにイラついた顔になった。

そして口を開いた。

何か反論を言おうとしたのだろう。


しかし、それより先に吉木が口を開いた。


「ありがとう。でも、大丈夫」


そう言って、ササッと別の教室のドアへ向かい、教室に入っていった。


男はそれを見て、「ふん、カッコつけんな」とだけ俺に言い、教室から出ていった。


その日は珍しく、それ以降吉木へのちょっかいは0だった。

その出来事があったからなのか、

なんとなくクラス全体がそういう事をやれる雰囲気じゃなかった。

年度の最終日という事もあったかもしれない。


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放課後。

帰宅しようと昇降口へと向かう途中、吉木が「ちょっといいかな」と俺に声をかけてきた。

断る理由もなかったので、ひと気の少ない校舎裏へと付いて行く。


「実は私ね、転校するの」


そう聞いたとき、ショックを受けた。

別に吉木と仲が良い訳でもないし、彼女の事を好きという訳でもない。

ただ、吉木なら多少からかわれても大丈夫、という認識が心のどこかであったのだと思う。

それ位普通のことだと無意識的に受け入れていたが、

本人にとっては当然ダメージを受けることだったのだ。


また、ここに連れてこられたのは、

「朝はありがとう、助かった」と感謝される為だとばかり決めつけていた。

勘違いも甚だしい。たった一回の気まぐれで、今までの傍観が帳消しになるはずもなかった。


「最初のうちはね、誰か止めてくれないかなー、なんて思ってたけど、

 あっという間に皆が受け入れちゃって、ビックリしちゃった。

 クラスの誰にも全く期待しなくなったし、もう一緒にいたくない。

 だから、親と話し合って違う場所でやり直すことにしたの」


俺には返す言葉を見つけるどころか、相槌を打つことさえできない。


「でも最後に、久し振りに私にとっての普通を味わえた。

 今更そんなことを望んでいなかったけど、

 一応そのきっかけを作ってくれた君にもう一回言おうと思ってね」


そして複雑そうな笑顔で「ありがとう」と言った。


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春休みも終わり、高校3年生になった。

今までと少し違う教室の風景に、クラスメイト達は少し落ち着かない様子だ。

だが、未だに吉木の事が頭から離れず鬱屈していた俺は、自分の席で塞ぎこんでいる。


あの後、「じゃね」とだけ言って吉木は帰って行った。

俺はしばらくその場で呆然としていた。


結局どの先生からも、吉木の転校の話が発表されることはなかった。

クラス替えが行われたこともあって、

すでに吉木がこの学校にもういない、と気づいている人間など果たしているのだろうか。



俺には出来ることがたくさんあったと思う。

ちょっとした行動で、あのいじめを止めれた可能性はあった。

でもしなかった。


最後に見た吉木の笑顔。

色々な感情が入り乱れたあの笑顔。

なぜ彼女は笑顔になれたのだろうか?



俺自身がここしばらく笑顔など作ったことがないことにふと気が付いた。


この小説を読んだという奇特な方へ


感想・異論反論・誤字脱字の指摘 などなど

送ってくださると幸いです。


僕の糧になります。


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