思考と思惑
「あははっ。悪あがきかい?赤松君」
「そんなんじゃねーよ。能力説明とかはお前の言ってた通りだ」
赤松の説明も春橋と同様の内容だった。
「お前が焦って俺を狼にしたい理由はわかっている。俺ら人の勝利条件は放送で流れていたモノ以外に狼退治を行わないとゲームオーバーだからだろ?」
「なるほど、そうゆう切り口でくるのか。確かに勝利条件としては君が言っていることであっているがそれは予想できる範囲内の推理にすぎないね。しかも君が狼であれば特にね」
「これを言っても俺が人であるとわかってくれないのかよ。くそがっ」
「それはそうだろう。僕が説明した後に同じ説明をしても意味がないよ」
赤松の説明通り『人』の勝利条件が狼退治だった場合、誰かを殺さないと脱出できないのが狼だけではなくなってしまう。今の状態に陥るのはそれを考えると考えられる展開だった。
「何にせよ。僕は宣言を撤回する気は毛頭ない!君が狼で決まりだからね」
「桃川、すまんが俺は緑谷の仇を打ちたい。だからお前への宣言は撤回しない」
「ああ、わかってるよ。お前の性格をな。何年一緒にいると思ってるんだ」
「すまんな」
春橋と赤松の話が終わる同時にドアが開かれ太郎の姿が現れた。
「はいは~い。みなさん。人の能力の執行を確認。対象を退治しちゃいますよー」
いつ聞いても不快にしか聞こえない放送が流れた時に発砲音らしき音が教室に鳴り響いた。
赤松と桃川をみると倒れこんでいるのがわかる。二人がいた場所から赤黒い液体が流れだしていた。やはり、退治されたら死亡。
そして、もう一か所、予想外のところで人が倒れていた。倒れていたのは春橋。そこも赤松と桃川の二人同様、赤黒い液体が流れだしていた。
「おい、何があったんだよ!俺がいない時に」
太郎が驚いて聞いてきたが声がでなかった。他のクラスメイトも同様だろう。頭では分かっていただ直接目で確認するのは今回が初めてだ。
中にはうずくまって胃の中のものをもどしている人もいた。
「放送、聞いていただろ。人の能力が発動されたんだよ。それに、多分だが狼の能力も発動してる」
「ああ、だけど、だけどさ。なんでそんなことに」
「ごめん、いま混乱してるから説明できない」
真人は席に着き、まずは落ち着くことに努めた。自分の心拍数が上がっていることがわかる。大きく深呼吸を行い目を閉じ、先ほどの映像を脳内から排除していく。といってもそうそうできるものではなかった。
「委員長。このまま呆けててもしょうがない。ゲームを続けましょう」
委員長に声をかけたのは創大だった。この状況でも冷静なのかと思ったが握りしめた手が震えているのを真人は見た。
そんな光景は後と考え、真人は落ち着くまで先ほどまでの流れを頭の中で思考していった。
まず、黄村の死亡。これは自然死。
これは人の能力と狼の能力の発動条件が整っていない状況での死から自然死と仮定できる。
次に緑谷の死亡。これは自然死または能力での死。
能力での死の場合は狼の能力での死と仮定できる。なぜなら人の能力の発動条件が整っていないから。
最後に赤松、桃川は人の能力での死。
これは宣言がなされていたため人の能力での死と仮定できるだろう。もし、違う場合は赤松が狼の場合だろう。
そして、春橋は狼の能力での死と推測される。
最後の能力での死はこれから2パターン予想される。1つめが春橋、赤松が人の場合と春橋人、赤松狼のパターン。もし、前者の場合は人の配役が後1人になる。
「真人、真人。大丈夫か」
声がする方をみると太郎が心配そうな顔でこちらを見ていた。
「ああ、すまん。ちょっと動揺しちゃってた」
「しょうがないだろ。話は創大に聞いた」
思考していた時間は思っていたよりもかかっていたみたいだ。周りを見ると全員ではないがとりあえず落ち着いた顔をしていた。
「あの。皆さん、先ほどのことなんですがすごく残念ですがここで立ち止まっても亡くなった人が無駄になります。まずはこのゲームをクリアするまでは頑張ってください」
委員長本人もしんどいだろうにみんなを気遣っていた。
「委員長、さっきのこともあるし人の能力の使用の仕方に提案があります」
「明夏さん。どうぞ」
「ありがとうございます。春橋くんはちょっと先走った感じはありましたが死んじゃったことを考えるとやっぱり狼にとって人は脅威だと思います」
「そうですね。だからターゲットにされたんだと思います」
「ええ、それを考えると今後、その能力を使用しずらいと思います」
「ちょっと待て、明夏。今後も誰かを殺すってことか!」
「冬月、ちょっと黙ってて」
「なっ」
明夏の意見としては能力を発動する場合、狼に必ずばれる事から襲撃の条件さえ整っていた場合は必ず先ほどのように宣言から即死は免れない。よって、それがないような工夫が必要だということだ。
「とりあえず。狼の能力を発動できないようにした方がいいとおもう」
この提案をしたのが先ほどまでほぼ全員が存在を忘れていた影夜だった。