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月色の欠片(ルゼ&フェルゼ)

月色げっしょく欠片カケラ



 誰よりも大切な人は決めている。運命と呼ぶかどうかはわからないけど。



 母さんがどこに行ったのかなんてわからなかった。ただ、わかっていたのは自分たちは遠からず『ダメ』になるだろうって事。

 暖かい温度が自分の隣にある。この温もりが消えた時、俺も一緒に終わるんだろうなって。ただ思ってた。

 寒い。白い冷たいものが上の方からちらついて落ちてくる。

 出来ることは、ただ身を寄せ合って時を待つだけ。

 きっと、俺たちは次のお日様は見られない。いつもは真っ黒なくらいの群青空は俺たちの毛並みと同じ鈍色で、少し明るい。

 何もかも、吸い込むような白い色。

 そこに、花が咲いた。咲いたように見えた。

 木の幹みたいな茶色が見えて、炎みたいな色と、きらきらした月の色。人間、みたいな形だった。

 夕陽の空をそのまま切り取ったみたいな瞳が俺たちを見つめて……。


 そこで俺の記憶は、一度途切れる。




 隣にいる僕の兄弟。互いの鼓動だけがゆっくり時を刻んでいた。

 砂時計の砂が落ちるみたいに、命が温もりと一緒に零れていく。

 一緒に産まれて、終わりも一緒。それも、まぁいい終わり方かなって。僕は思った。

 深々と舞い降りてくる羽毛みたいなものは、冷たくて。『雪』って言うんだって、母さんは言ってた。

 音が吸い込まれて、消えていく雪降る森の中、僕らは静かに終わりを待っていた。

 そこへ、人間の少女みたいな人がやって来た。

 人間じゃないって、匂いでわかる。

 その人は、お月様みたいな毛並みで、雪みたいに白い手を僕らに伸ばす。

「お母様やお父様はいらっしゃらないの?」

 雪みたいなのに、暖かかった。

 ゆっくりと、僕たち二人をその腕の中へ抱いてくれた。

 甘くて、安心する匂いがした。

「じゃあ、レルトと一緒にいて下さいですの。いつか離れるときまで」

 その声が、耳にくすぐったかった。





「なぁ、フェルゼ」

 ルゼは緑色濃い森の中、空を見上げる。いい天気だ。

「どうした」

 応えたのはルゼと同じ顔立ちながらどこかぴしっとした雰囲気を纏う青年。互いに年は十代半ばといった所だ。ルゼは銀髪を短く切っていて、フェルゼは少し伸ばして首の後ろあたりで一括りにして束ねている。

 金貨よりも月に近い金の瞳で互いを映す。

「まだ俺たち、レティの側に居ていいかな?」

 ルゼはそう言って、自分たちをあの幼い日に救ってくれた少女を思う。

「レーティが、離れろと言う時までは、いいだろう」

 フェルゼも、そう応えながら記憶の中に刻んだ約束を思い浮かべて微笑した。

「そっか」

「ああ」

 二人の『特別』なひと。

 母のような姉のような。恋というのとは少し違う。けれど、親愛よりも少し熱を持つ。

 今もあの頃と変わらない外見の、同い年くらいの少女は誰よりも特別な人だ。

 月と黎明の暁を身に纏った少女に付き従う若い人狼二人。

 その行く末に起こる出来事をどちらも知る由は無い。

 ただ二人は変わらず、側に居る。その先、どんな事が待ち受けているとしても、側を離れないと言葉にせずとも同じ思いを抱いて。



 終

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