君の名を…
「あれ、帰るの?」
まだ覚醒しきってない思考で尋ねる。
「あぁ」と彼は衣擦れの音をさせながら答えた。
「あっそ」俺は直ぐに興味をなくしてまた睡魔に従うことにする。
着替え終わったのか彼の衣擦れの音が聞こえなくなった。
「じゃあな」
「ん~」意識のはっきりしない中なんとか答えた。
彼が離れて行く気配がする。
そう言えば言わなきゃいけないことがあったな…
あぁ…やだやだ。
すんでのところで意識を保った俺は彼の手首を掴んだ。
「何?」声に不機嫌さを滲ませ彼が俺を見る。
「………今度、いつ…会える?」彼と視線を合わさずに聞く。これが今の俺の精一杯、我ながら女々しいと思うけど。
「…別に、都合が良いときならいつでも」
「そっか…そう…だよな…」
俺達の間に気まずい沈黙が流れた。
言わなきゃ良かったなんて後悔しても遅い。
「帰るわ」半ば強引に俺の手を振りほどいた彼が溜め息と共に歩き出す。
「…あぁ」
「また連絡くれりゃ相手するから」
「………」
バタン とドアの閉まる音がやけに響いた。
「潮時…かな?」
彼は1度も俺を振り返らずに出ていった。それだけで理由は充分な気がする。
人間、悪い予感というものは当たるもんだ。
「バッカみてぇ…」アイツの名前も知らないのに。
シャワーでも浴びよう、泣くのはそれからだ。
悲しみも涙も全て洗い流せば良い。