十四話
誰かがアタシを呼んでいる。
まどろみの中、何度も名前を呼ばれ、そのたんびに体が揺さぶられる。
「……リ」
まただ。
また、誰かがアタシを呼んでいる。
だけどかすかに聞こえるこの声には聞き覚えがあった。
この声確か……。
アタシは思い出そうと意識を覚醒させていく。
そして、ゴンッ
「痛っ!?」
アタシは痛みと共に目覚めた。
どうやらベッドから落ちたらしい。
「大丈夫?」
桜がアタシに問いかける。
「うん」
アタシは頭を擦りながら答えた。
「…………」
「…………」
会話がない。
話すことがないわけでわないのだが、お互いに昨日の件のことを気にしているのだ。
そして、それを裏付けるように桜はアタシと目を合わせないようにしない。アタシも同じだが。
そんな中、アタシのお腹が音を立てて鳴った。
「…………」
「……朝食出来てるんだけど食べる?」
「うん」
アタシは顔を赤くしたまま頷いた。
朝食は洋食だった。
トーストに苺ジャム。目玉焼きとサラダ、飲み物にミルクティーというメニューだ。
「…………」
「…………」
どうしたらいいんだ?
アタシはそう自分に問いかけた。
この状況を作っているのは昨日の件だろうな。
だったらそれを解決するにはどうすれば……。
アタシがそんなことを考えていると桜が口を開いた。
「ねえ、ユカリ」
そう言った桜の声にはどこか陰りがあった。
「なに?」
アタシは食事の手を止める。
「悪いんだけど、朝ごはん食べたら帰ってくれないかな」
「えっ……」
アタシは驚いたが、桜はそれに構うことなく話を続けた。
「お願い」
桜は頭を下げた。
もしかしたら昨日の件、桜はアタシ以上に気にしていたのかもしれない。罪悪感を抱えてるのかもしれない。
「昨日の件なら気にしなくていいよ。アタシも忘れることにするからさ」
アタシは優しい声で言った。
これで桜が罪悪感から解放されてほしい。
「無理だよ」
そう言って桜は顔をあげる
桜は泣いていた。取り返しがつかないことをしたように。
「いくらユカリが大丈夫でも、わたしは無理」
「……」
「たぶん……いや、絶対またあんなことしちゃうだからだからっ……」
限界だったのか桜はそう言い残すと、顔に手をあてて泣く。
アタシは立つと、桜の元まで行き、うしろから抱きしめた。
「ユカリ?」
桜は振り返りアタシを視る。
その表情はなにが起きてるかわからないて感じだ。
やれやれ。
まだこの気持ちを伝えることはないと思ってたんだけどな。
だけど、桜にあんな顔をさせるんだったら伝えよう、恥ずかしいけど。
「別に構わないよ」
「えっ、それはどういう意味?」
桜が複雑そうな表情で訊いてきた。
おそらく、その意味をどう受けとっていいかわかんないんだろう。
この鈍感め。
「アタシも桜のこと好きだから」
「えっ!? ええええええっ!?」
桜は耳元で大声を上げた。
「そんなに大きな声をあげるなよ、びっくりするだろうが」
「だってユカリがす、すきってっ!?」
「言ったけど」
「なっ、ななななな」
桜が壊れた機械みたいな声を出し、徐々に顔が赤く染まっていく。
かわいいな。
いつもと違う桜を見てそう思った。
いつもは桜が好きとか言うんだけどアタシが言うとこうなるのか。
きっと攻めは強いが受けは弱いタイプだろうな。
これからは好きっていっぱい言おうかな。
「どうしてっ!?」
「うん、なにが?」
「どうしてわたしのこと好きなのっ!?」
「いや、そんなこと急に訊かれても……」
「答えてっ!?」
たじろぐアタシに平静を失った桜が詰め寄る。
形勢逆転である。
「…………」
「…………」
「……昨日の風呂の件」
「っ!?」
アタシがそう言うと、桜の態度が一変した。
さっきの動揺しまくりの桜とは違い、どこか落ち込んだ表情になる。
「桜さ、なんでアタシが抵抗しなかったのかわかる?」
「それはその……」
口ごもる桜にアタシは素直に言った。
「エッチなことされてもいいて思ったんだ」
それを聞いた桜は驚きのあまり、アタシを凝視してなにも言わなくなる。
理由が理由なだけに信じられないのかな。
「信じられないだろうけど、そう思ったんだ。桜にエッチなことされてもいいて、そして、気づいたんだ桜のことが好きなんだて……」
「ウソ……そんなのウソに決まってる……きっとユカリはわたしに気をつかんっ……んん……んっ!?」
アタシは強引に桜にキスをした。
これで思いが伝わればと思ったからだ。
桜の体温が徐々に熱くなり、鼓動もどんどんと速くなってゆく。
その桜の動揺をアタシはキスを介して感じだ。
なんだろうこの感覚……。
心が満たされるようなこの気持ち。
これが好きな人とキスをするていうことか……。
「ユカリ……」
アタシが唇を離すと桜が愛おしそうに見つめる。
どうやら思いは伝わったらしいな。
あとそんな桜の表情を見たからか、またキスをしたくなってきた。
だが、その前にアタシは桜に訊きたいことがある。
「桜……1つ訊きたいことがあるんだけどいいかな?」
アタシは桜に囁き、桜はコクリと頷いた。
「昨日の夜、アタシにキスをしたのか?」
これはアタシにとってとても重要なことだ。
もしこれでキスされていたら、アタシはファーストキスのことを覚えてないことになる。
「うん」
「そうか……」
キスされていたのか……。
「嫌だった?」
桜が不安気にアタシに訊く。
「嫌じゃない。ただ少し残念なだけだよ」
「残念?」
「うん。ファーストキスを覚えてないから」
「ごめんね」
「いや、謝ることじゃないよ」
「でも……」
「だったらさ、さっきのキスをアタシと桜のファーストキスにしようよ」
「えっ?」
「だから、アタシと桜のファーストキスはさっきのにして、昨日のキスはそうだな……」
「ノーカウント?」
「うん、それだ」
「わたしもそれがいいと思う。ユカリがファーストキスを覚えてないなんて嫌だから」
「んじゃ、さっきのがファーストキスでいいな?」
「うん」
桜は微笑んだ。
やっぱり桜はかわいいな。
桜のことを好きだと気づいてから、桜の笑顔を見るたんびにそう思う。
ずっと見ていたい。
アタシはそう思い桜を見る。そして、桜もアタシを見ていた。まるでさっきのキスをしたあとの表情のように。
そして、アタシもまた思うのだキスをしたいと。
アタシは桜に唇を近づけると桜は瞼を閉じる。
アタシも目を閉じ、桜にキスをする。
そして、唇を離すとまた桜がキスをおねだりするようにアタシを見る。
やれやれ。
アタシはまた桜にキスをする。
あのあと、何度もアタシは桜にキスをねだられた。
実際に声に出して言われたわけではないが、表情をみればわかる。
まあ、アタシもキスをしたかったからいいが。
でも、まだ物足りないな。
「なあ、桜」
「なに?」
桜とのキスが一段落ついたところでアタシは桜に話しかけた。
「エッチなことしないか?」
「……うん」
アタシの誘いに桜は少し間をおいて答えた。
もしかしたら桜はキスで満足したのかもしれないな。
「んじゃ……」
アタシはそう言ってベッドに座る。
「桜も座って」
「うん」
桜はそう言ってアタシに寄り添うようにベッドに座った。
なんか、すごいドキドキすんな……。
でも、不思議と嫌な気持ちはしない。むしろ、心地よいと感じる。
「桜」
アタシは桜をベッドに押し倒す。
「かわいいな」
その言葉は自然に口から出ていた。
「ユカリもだよ」
桜はアタシを潤んだ瞳で観る。
その表情は昨日の風呂で見た時の桜に似ていた。
アタシはゆっくりと桜の耳に唇を近づける。
「桜……嫌だったら抵抗しろよ」
昨日桜がアタシに言った言葉だ。
だけど意味は少し変えさせてもらうけどな。
「じゃないと、いや……抵抗してもやめないから」
「ユカリ……」
そのやり取りを最後にアタシは桜を抱いた。
十四話目です




