十一話
文化祭まで残り1週間なった。
学校では学生達が準備に勤しんでいた。
アタシが通う高校では、行事に力を注いでおり、行事1週間前は基本授業がなく準備に時間が使われている。
特に行事の最大イベント文化祭となれば、学生達は気合いを入れて準備に取り組むだろう。
だが、なにごとにも例外はある。
そう、それは今のアタシの状況みたいに……。
クラスメイト達が、小道具作りや劇の練習で忙しい中、アタシは1人椅子に座りながらボッーと劇の練習を眺めていた。
教壇の前では、劇に出るクラスメイト達が台本を持ちながら練習をしていた。
そしてその中には桜もいた。
あとから聞いた話なのだが、桜は不運にもヒロイン役を引き当ててしまったらしい。
ヒロイン役を決めるのがくじ引きでいいのかと思うが、理由を聞いて納得した。
劇の話はどうやらクラスの女子、木村という人が自分で作ったらしい。
その内容が恋愛もので、青春謳歌しているであろう高校生には抵抗があるというものだ。
だが、アタシには関係ない話だと思った。
アタシは劇に出ないし、小道具の手伝いもしていない。
つまり、アタシは文化祭に全くと言っていいくらい参加していないのだ。
別に参加したくないわけじゃない、むしろ参加したいくらいだ。
でも、それ以上に参加できない訳があった。
アタシはそれを思い出してハァとため息を吐く。
「暇そうだね」
いつの間にか、劇の練習を終えた桜がアタシの前に立っていた。
「うん、すごく暇だ」
アタシが素直に答えると、桜は台本をクルクルと丸めてアタシの頭を軽く叩く。
「なにすんだよ」
アタシは桜を軽く睨むが、桜はそんなことを気にしない。
「サボりの罰です」
「アタシの親か。てかサボりじゃない」
「じゃあなんで暇なの?」
「仕事がない」
「誰かの手伝いをすればいい」
確かにその通りなのだ。
仕事がなければ他の人の作業を手伝えばいい。
「それができないから暇なんだよ」
桜は首をかしげて尋ねる。
「うん? なんでできないの?」
「……それ本気で聞いてる?」
「うん」
どうやら本当にわかんないらしい。いやこの場合忘れているという方が正しいだろう。
「アタシが怖いから」
その言葉で桜は思い出した。
「そういえば、そうだったね」
アタシはクラスメイトから恐がられている。
最近は桜と一緒だから忘れていたが、改めて今日のことで自覚させられた。
「でもさ、もしかしたらユカリのこともう恐がってないかもしれないよ」
「その根拠は?」
「わたしと話てるときのユカリ、すごく楽しそうで笑顔だから。きっとクラスメイト達の怖いていうイメージは改善されてるはずだよ」
なるほどな。
桜はクラスメイト達がアタシと桜が一緒に仲良く話てるところを見て、本当は恐くないんじゃないかと思ってるといいたいのか……。
でもそれは、
「ないね」
「えっ? なんで?」
「いやさ実はアタシ、手伝おうと思って近くにいたやつに話かけたんだよね」
「そうなんだ、で結果は?」
アタシはスッと表情を暗くした。
「『許してください』て言われたよ、しかも土下座しそうな勢いでな」
「…………それは……、お疲れさん」
「ああ、本当だよ……、あと少しで同級生を土下座させるヤンキーの光景ができるところだった」
もしも、そんな光景ができてしまったら、アタシのヤンキーというポジションは不動をきたすだろう。
それこそ、学校の教員、生徒全てに土下座させることも夢ではないかもしれない。
まあ、そんな野望はないけど。
桜はアタシの肩にポンと手を置いた。
「本当にお疲れ」
まるで部下をはがます上司みたいだ。
アタシは下を向きながら一言。
「ありがとな」
そういえば、小中はいつも一人だった。
行事の時もその他の時も。
でも、今は違う。側にいてくれる友達がいる。
それに比べたら今は十分幸せかもしれないな。
アタシは力なく笑った。
でも、そんな内心を知ってにいなか桜はアタシに言った。
「でもこのままだとなんも参加しないで終わりそうじゃない?」
アタシは肯定する。
「うん、確かに」
さらに、続けた。
「でも仕方ないよ……それがアタシなんだから」
周りを恐怖に染める。
そんなやつにだれも近ずこうとしないのは当たり前ろう。
そんなアタシに桜は囁いた。
「ねぇ、ユカリは文化祭参加したい?」
そんなこと出来る訳がない。
でも、もし参加できるなら……。
「参加したい」
アタシの答えに桜は微笑んだ。
「じゃあわたしの練習に付き合うていうのはどうかな?」
「それがどう参加するにつながるの?」
「ユカリがわたしの練習に付き合うことでわたしの演技力があがります。そして、劇の出来にも大きな影響を与えます。なんたって、わたしはヒロイン役ですから」
ああ、なるほど確かにこの程度ならアタシにもできそうだ。
「うん、わかった。やらせてもらうよ、いややらせてくれ」
桜は嬉しそうに微笑んだ。
「よかった、んじゃ今日から文化祭までわたしの家で練習ね、もちろん泊まり込みで」
…………うん?
「えっ? なぜ、泊まり込み?」
「なに、いやなの?」
桜は不機嫌そうにアタシを見る。
「嫌じゃないけどさ……、迷惑じゃないかな?」
「迷惑?」
桜は指を唇に当て考える。
「だってさ、桜の親とかに迷惑かけるかも知んないだろ? 急に泊まったりしたら」
そんなアタシの答えに桜は納得がいったみたいだ。
桜はアタシに指を指す。
「その点は心配しなくていいよ。わたし一人暮らしだから」
「えっ? そうなの?」
「うん」
なんか聞いちゃ不味いことだっただろうか。
高校生で一人暮らしなんて相当なことがあるに違いない。
アタシはそう思って、桜を見るが変化はない。
たいした理由ではないんだろうか。
うん、きっとたいした理由じゃない。
アタシはそう結論付け桜に聞くことにした。
「理由は聞いてもいいかな?」
「単純にこの学校が一番実家から近かったからかな」
うん? それだったら親元で暮らすんじゃ……。
「んじゃなんで一人暮らししてんだ? 普通なら実家から通うだろ?」
「実家が結構な田舎でね。高校なんてなかったんだ。だから、一番近くてもこの学校てなったわけ」
「なるほど……、苦労してるんだな」
「ありがとう」
そう言って桜は微笑んだ。
「そろそろ練習再開するわよ」
学級委員長の声が教室に響いた。
練習を再開するようだ。
「それじゃ、泊りの件は練習の後で」
桜は練習に向かう。
そんな桜にアタシは言う。
「わかった、練習頑張れよ」
桜は振り向いた。
「うん」
そうして、今度こそ練習に向かう。
「おっとその前に」
だが、その途中こっちに小走りで戻ってきた。
アタシは桜に尋ねる。
「うん? どうした?」
桜は、アタシにギリギリ聞こえる声で言う。
「今日から夜二人きりだね」
「なっ!?」
そう言った桜は練習に小走りで向かった。
アタシはというと。
顔を真っ赤にしながら桜を見ていた。
これは嵌められたかもな。
アタシはそう思いつつ、頬を緩ましていた。
十一話目です。




