十話
次の日の朝、アタシはいつもの待ち合わせ場所で桜を待っていた。
桜と友達になってから、毎日一緒に登校することが日課になった。
いつもなら嬉しいのだが、今日は少し憂鬱だ。
原因はもちろんあの日のこと。
解決策はない。
どうにかしたいのにどうにもできない。
絶望的状況である。
こういうとき、マンガの主人公だったら問題の一つや二つ簡単に解決できるんだろうな。
だが、残念ながらアタシはマンガの主人公じゃない。
アタシはハァとため息をついた。
「おはよう、ユカリ」
「うおっ!」
アタシが驚くと、桜が不思議そうに、
「どうしたの?」
「いや、ちょっと驚いただけ、……と、おはよう」
アタシが挨拶を返すと桜が微笑む。
だが、その笑顔にいつもの元気はない。
きっと、桜もあのことを気にしているんだろう。
アタシはできるだけ自然に振舞おうと、てきとうに話を振る。
「一時間目なんだっけ?」
「数学だよ」
「そっか、数学か」
「うん」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
どうしよう話が続かない……。
まあ、無理もないだろう。
互いにあの日の件を気にしていれば、必然的に意識してしまうのは当然だ。
それにより、話が続かないのも当然なのだ。
アタシはまたてきとうに話を振ってみたが、やはり話が続かない。
やっぱり、あのことを解決しないと駄目か……。
しかし、昨日1日考えても答えが出なかったものを今、答えを出すことなんて到底無理である。
アタシは歩いてると、桜が止まった。
「桜?」
アタシは不思議に思って、桜を見るが、したを向いているため表情が見えない。
「…めん……い」
桜が小さな声で呟くが、アタシには聞こえない。
「うん?」
「ごめんなさい」
「えっ?」
「ユカリを悩ませて……本当ごめんね……」
そう言うと、桜の目から涙がこぼれ落ちる。
「わたし……わかってたんだ、ユカリがわたしのことを友達としてしかみてないことに……」
「……」
「なのに……知ってたのに……」
「違うよ……」
アタシが呟く。
「えっ?」
桜が驚きながらアタシを見る。
「それってどういうこと?」
「実はさアタシ、桜にキスしたいて聞かれた時、正直言ってわかんなかったんだ……」
「…………」
「それにさ、キスで悩むてそのなんていうかな……、ただの友達にしてはあり得ないだろ」
「うん」
「今でもさ、わからなくてそれでその……」
アタシは桜を真っ直ぐにみて、
「しばらく時間をくれないか?」
「えっ?」
「この気持ちがなんだかはっきりさせたいんだ……だからその……」
「うん、わかった」
そう言って桜が微笑んだ。
いつもの桜の笑顔だ。
「でも、期限は決めさせてね」
「えっ?」
そういって桜は唇に指を当て考える。
「あの、ちょっと桜」
「うーん、そうだね……文化祭が終るまでにしよう」
「待って」
「反論は認めません」
そういって桜はアタシの唇に指を当てた。
本気で反論を認めないつもりだろうか。
だが、桜の表情はまるで子供がいたずらを成功したみたいににこやかだ。
きっと反論しても無駄だろう。
「……わかった」
アタシは反論を諦めた。
「うん、よろしい」
と、桜が満足気に言った。
「んじゃ、話も一段落ついたことだしそろそろ学校いくか」
そう言ってアタシは歩き出そうとするが、
「ちょっと待って」
と、言った桜はアタシに一歩近づく。
「ちょっと、桜!?」
あまりにも近い距離にアタシは驚いた。
あと、少しでキスができる距離と意識すると、思わず顔が紅くなる。
そんなことを知ってかいなか桜は微笑みながらアタシに顔を近づける。
「……っ!?」
恥ずかしさのあまりにアタシは眼をつぶった。
キスされると意識するごとに鼓動が早くなっていくことがわかる。
桜はアタシの唇に近づけるのではなく、耳元に近づけた。
「ありがとうね、ユカリ」
「うん?」
桜が小声で呟くが、アタシにはなんでありがとうと言われたかわからない。
「真剣に考えてくれて」
なんだ、そんなことか。
アタシは別にと返そうと思ったが、それよりも早く、桜はアタシの頬にキスをした。
「なっ!」
アタシは驚きの声をあげて、顔が熱くなるのを感じる。
桜も恥ずかしかったのか顔が真っ赤だ。
「今のはお礼、でもユカリがどうしてもていうなら唇にしてもいいよ」
そう言って、桜が頬を赤く染め微笑む。
「いや、その……」
「……」
「……」
「んじゃ、そろそろ行きましょうか」
桜はクルッと反転して歩き出した。
「ああ、そうだな」
アタシは頬を赤く染めながら歩き出した。
きっと、桜も真っ赤だろうな……。
10話目です。




