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第4話:日常と非日常

 人間の女性は、本能的に寂しがり屋だと言う。男性に比べて、弱い生命力、筋力を補う為に徒党を組み、集団の中にその身を置く。寂しがり屋と言う本能は、そう言った集団行動をするうえでやくにたっているらしい。特に日本人の女性は、その傾向が一番強いと統計が出ている。故に女性は、家族を求め、結婚を求め、子供を求めるのだと言う。それを思えば、井原要は、強がっているが、本当はとても寂しい思いをしているのではないだろうか。

「ご馳走様でした」

井原要は、元気よくそう言って、両手を合わせた。そんな井原要の姿を見て、母は、嬉そうに笑顔を返した。丁度、夕食を食べ終えたところで、俺は、異変に気がついた。食卓の机に居るのは、父と母、妹の茜に井原要と俺。そう、一人足りないのだ。アスカの姿が何処にも見当たらなかった。

「あれ? 母さん、アスカの姿が見えないんだけど」

「そうなの。19時頃までには、戻って来るように言ったんだけどね。まだ、帰ってこないのよ」

母は、少し心配した様子で右手を頬にあて俯いた。

「燐君? アスカって?」

俺と母の話を聞いていたのか、井原要が不思議そうに聞いてきた。

「あっ……いや、学校で言ったろ? 俺の従妹」

俺がそう答えると今度は、妹の茜がテーブルに身を乗り出すような格好で

「お兄ちゃん? 従妹って……」

そう言った。拙い。茜は、俺がアスカの事を従妹って言った事に疑問を持っている。俺は、すぐさま茜の後ろに回りこみ、無駄に回りそうな口を右手で押さえこんだ。

「いいか、茜。余計な事言うなよ」

俺は、茜だけに聞こえるような小さな声でいった。すると、茜も俺だけに聞こえるような小さな声で

「どうして? 従妹なんて嘘付くの? 本当の事、言えばいいじゃん」

と言った。

「大人の世界はな、お前が思っている以上に微妙で複雑なんだよ」

「なにそれ? わけわかんなーい」

茜は、呆れ果てた表情で俺をギロリと睨みつける。





 夕食後、井原要は、茜と一緒に何でもない世間話を楽しんでいた。世間話と言っても殆ど、茜の学校での出来事や噂話のたぐいである。しかし、何時間も飽きずによく話題が続くものだ。居間のテーブルには、柿ピーやら煎餅が山盛りに載った木製の皿が置いてあって。紅茶を啜りながら、柿ピーを摘まんでいく。ホント、よく食べる。夕食を食べたばかりだと言うのに茜の胃袋は、どうなっているのだろうか。育ちだかりとはいえ、食べすぎだと思うのだ。ふと、居間の時計を見れば、丁度21時になったところだった。

「要? そろそろ、帰るか? 遅くなってもあれだし」

俺がそう言うと、話の腰を折られた茜が剥れた表情を浮かべる。

「うん、そうだね。もう、九時回っちゃってるし。そろそろ、帰えろうかな」

「なら、送っていくよ」

居間のソファーから、立ち上がると俺は、ある事を思い出した。そう言えば、アスカの奴……まだ帰って来ないな。

「茜ちゃん、またね」

「えー、もう少しお話しようよ」

茜は、少し寂しそうに井原要を引きとめようとする。

「茜! まだ、話し足りないのか? もう、晩いんだから、今度にしろ!」

俺がそうきつめな口調で言うと、渋々といった感じで俯いた。そんな茜を見て井原要は、「ちょっと、可哀想だよ」と俺に耳打ちする。茜もかなりの寂しがり屋だから、井原要が帰るのが寂しいのだろう。何でも話せる同性の年上の先輩。茜にとっては、井原要はとても重要な人になっているのかもしれないな。俺が居間を出て行くと、井原要も後ろからついてきた。そのまま、廊下を進み、玄関へと辿り着く。俺が先に靴を履いていると、不意に玄関の扉がガチャと言う音と共に開かれた。

「え?」

井原要が驚いた様に声を上げた。

「うわ!」

俺も玄関に入ってきた人物を見て驚いたのだ。玄関に入ってきたのは、アスカだった。ただ、それだけなら驚かない。驚いたのは、その姿だった。アスカは、俺と初めて出会った時のセーラー服を着てたがそれがセーラー服だと、一見わからないほど、ズタボロに擦り切れていた。良く見れば、肌も擦り傷だらけ。腰まである長い髪は、泥まみれで見るも無残な姿だった。何があった?何をすれば、こんな姿になるのだ。いや、いったい何をして来たと言うのだろうか。ちょっとした事では、こんな姿にならないはずだ。



こんな……姿には……。

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