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第15話:絶望と希望

 俺は、忘れて居たのだ。アスカと言う存在が俺の前に現れた時から、普段気を配っていた事を忘れていた。だから、こんな事になったのだと俺は、歯を噛み締めた。俺の携帯電話に届いた電子メールは、茜の携帯電話から発信されたものだった。そして、そのメールに書かれていたのは、

『お前の妹を預かっている。帰して欲しければ、港にある13番倉庫へ一人で来い』

と、短い内容だった。だが、その短いメールの内容に俺は、怒りを覚えずに居られなかった。茜を誘拐した奴、それをゆるしてしまった俺自身にも……俺は、憎しみを覚えた。茜を誘拐し、こんなメールを俺の携帯電話に送りつけて来るような奴を俺は、一人だけ心当たりがあった。



葉月翔太。同じ学校の同級生。札付きの不良。


とても性格の捻じ曲がった悪党だ。アスカと出会ったあの日、葉月翔太は、アスカに足の骨を折られた。葉月は、そんな事を黙って見過ごすような奴じゃない。きっと、一緒いた俺に復讐するつもりで茜を誘拐したのかもしれなかった。葉月ならやりかねない。しかし、なぜ今頃になって葉月は、動き出したのだろうか。あれから、まだ一週間ほどしか経っていない。折れた骨が完治するには、あまりにも日が経っていない。それに葉月が悪党だと言ってもこれまで、こんなあからさまな犯罪を犯すような奴じゃなかった。

何かがおかしい……何かが変だ。

と、俺の思考が警告を鳴らしていた。メールの内容をアスカに見せるとアスカは、驚いた表情を浮かべ少し考え込むように首を傾げた。

「それで、どうするつもりなのだ?」

「行くしかないだろ」

「だが……これは、罠を張って待ち受けてるのではないか?」

「おそらく、そうだろうな」

俺がそう言うとアスカは、静かに両目を閉じた。何かを考えている様子で、両目を開いて、

「ならば、私も一緒に行こう」

と言った。

「いや、アスカ、お前は、大人しく家で待ってろ」

「何故だ!? 私と一緒なら、最悪な事態にも対処できるかもしれないのだぞ!?」

アスカは、納得がいかないと言った態度で少し大きな声で叫んだ。

「これは、人間である俺と奴との問題だ。アンドロイドであるお前には、関係がない」

「……」

アスカは、少し不満だったようだが大人しくしてもらった方が良いだろう。それにメールには、一人で来いと書いてあった。もし、それに従わなければ、茜がどうなるか解らない。これは、慎重に行動するべき事態である。








 港。麻生市南栄町には、大きな港がある。漁船もそうだが資材運搬の船がよくやって来る。その為の資材置き場の広い倉庫が20個以上存在するのだ。倉庫の番号は、北の方角から順番に番号ずけされている。メールの指定していた13番倉庫は、中ほどにあり、あまり人通りの少ない場所。何かを隠すには、もって来いの場所だし、最近寂れてきて、資材置き場と言う役割を果たしている倉庫は、数少ない。

中でも13番倉庫と言えば、何も無い空き倉庫で何も置いてないから、鍵もかかっていない。だから、よく族の集会や不良の溜まり場になったりする場所である。






 俺は、13番倉庫の入り口に立っていた。左右両扉は、閉じられたまま。おそらく鍵は、かかってないのだろうが俺は、少し入るのを躊躇していた。確実にこの倉庫の中には、茜を誘拐した犯人が存在しているはずだ。俺は、息を飲み込み思い切って扉に手をかけた。力を入れるとユックリと両扉は、開かれていった。

「りんリン……リン……燐!! やっと来たかよ。遅かったじゃないかぁ」

扉を開いて中を覗く間もなくそんな声が聞こえてきた。この声には、聞き覚えがある。やはり、茜を誘拐した犯人は、葉月翔太だと俺は、確信した。倉庫の中に入るといきなりガラの悪い不良……20人ばかりに取り囲まれた。その不良どもは、個々に木刀やら鉄パイプの得物を手に持っていた。そして、俺の目の前にいる不良たちが数人道を開けると、その奥には、葉月翔太とそのとりまきの5人が存在していた。やはり、その5人は、あの時アスカが骨折させたせいで腕や足にギブスを包帯を巻いている姿だった。少し意外だったのは、葉月翔太が全身包帯に包まれていて、辛うじてあの世の中の全てに敵意をむき出しにしている鋭い目だけが彼が葉月翔太だと物語っていた。いったい、どうしたと言うのだろうか。あの時、アスカが葉月翔太の骨を折ったのは、一箇所だけだ。あんな全身を包帯で包むほどの大怪我では、なかった。

「翔太!! 妹を……茜を返せ」

「クッ、カカカカッ……解ってないな。何の為にお前を呼び出したと思っているんだ?」

「俺は、一人で来た。妹は、関係ないだろ?だから、返せ」

「まだだ。事が済んだら返してやる!」

「チッ……」

俺が舌打ちをすると周りを取り囲んでいた一人が木刀片手に襲い掛かってきた。俺は、辛うじて身を捻りその一撃をかわす。

「りーん。避けるのは、無しだ。お前の妹がどうなってもしらないよ」

「クッ……」

最悪だ。こう取り囲まれては、対処のしようがない。それに次の攻撃をかわせば、葉月翔太は茜に何をするか解らない。

「翔太!? これは、この前の復讐か?」

「ああ、もちろんそうだ。だがそれだけじゃない」

「これは、犯罪だ!! 今は、いいが。いずれ捕まるぞ!」

俺がそう言うと葉月翔太は、可笑しそうに腹を抱えて笑いだした。

「クックククク……ハハハハハッ 何を言うかと思えば……察が怖くて犯罪なんて犯せるかよ。それにな、今の俺には、警察なんて怖くねぇ。国家権力なんて糞くれぇだ。俺は、警察にも国にも負ける気は、しねぇ。世界を覆すほどの力を手に入れたんだ」

「翔太……お前……」

なんだろうか。今日の葉月翔太は、どこかおかしい。いつもに増して頭のネジが切れている。俺の目の前には、先程の木刀を持った不良がにじり寄ってくる。不良が木刀を振り上げた。俺は、急所のである身体の中心線を隠す様に半身で構え、振り下ろされる木刀を右腕で受け止める。

バキ

と、鈍い音がした。

「うぐっ……」

俺の右腕がダランと垂れ下がった。右腕の骨が折れたようだ。そう認識するよりも早く、右腕に激痛が走る。のたうち回りそうな痛みを俺は辛うじて我慢した。だが、痛みに気が遠くなりそうで意識と集中力を保つのは、とても辛い。

「痛いだろ? 骨折だもんな。痛いに決まってるよな」

葉月翔太は、俺をからかう様にゲラゲラと大声で笑う。それが合図であるように今度は、6人ぐらいの不良が一斉に襲いかかって来た。鉄パイプで背中を殴られ、木刀で鳩尾を殴られた。息が出来なくて苦しんでいる所を容赦の無い蹴りが俺の顔面を捕らえた。勢いが余ってゴロゴロと葉月翔太の足元に転がるしかなかった。全身の痛みに気を失いそうだった。だが、今気を失う訳にはいかない。茜を助けだすまでは、倒れるわけには、いかない。どれぐらい殴られたたろうか、もう時間の感覚さえなかった。身体が熱をもち、焼けてしまいそうな痛みで正気にもどる。

「カッカカカ、そろそろ止めを刺してやるよ」

「ショ……タ……こんな事をして、何になる?」

「あの地獄から逃げ出したお前には、解らないだろうがな。力を手に入れた手始めに俺の中でもっともムカつく奴を殺そうと思ってな」

「……」

「先に地獄で待ってろよ。お前には、天国なんて似合わない。サヨナラだ! 燐!!」

葉月翔太は、不良一人から鉄パイプを受け取ると、力なく今にも倒れそうな俺に向かってそれを振り上げた。俺は、覚悟した。俺は、葉月翔太に殺されるのだと。だが振り上げられた葉月翔太の鉄パイプは、いっこうに俺に振り下ろされる気配はなかった。変だなと思って目を開けてみると一人の少女が葉月翔太の振り下ろされた鉄パイプを握り締めていた。

「アスカ……お前……」

「これ以上……見て居られなくてな」

葉月翔太の鉄パイプを握り締めたままアスカは、振り向いてそう言った。そのアスカの顔は、今まで誰にも見せた事のないような悲しい表情をしていた。突然現れた少女の姿に周りの不良達は、驚きを隠せない様子で次々に声を上げた。

「何だ! お前!?」

葉月翔太は、自分が振り落とした鉄パイプを握り締めている少女が力任せに引っ張ってもビクともしない事に声を張り上げた。

「クーーーッ、このぉおおおおお!」

葉月翔太は、鉄パイプを離して後ろへさがった。

「アスカ……どうして来たんだ?」

「心配だった……ただそれだけだ」

そう言った気まずそうなアスカの表情が可笑しくて、こんな最悪な状況であるにもかかわらす俺は、クスリと笑ってしまった。アスカには、来るなと釘をさしたはずだが来てしまったのは、しようが無い。だが、これでこの最悪の事態を最低の事態へ押し上げる事ができそうだ。上手く行けば、無傷で茜を助け出せるかもしれない。

いや、なんとかして茜を助け出さなくては……。

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