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第13話:電話

 もしも人間がアンドロイドに勝てるとしたら、それは、人間の本能を武器にした時だとアスカは、言った。アンドロイドが持ち得ないモノを武器にする事で隙が生まれる。通常の格闘では、どう足掻いても人間は、勝てないと言う。それが本当なら、どんな戦い方をすれば、人間がアンドロイドに勝てると言うのだろうか。


 人間達が寝静まる真夜中。人気のない公園で、一人の男性と対峙するアスカの姿があった。俺は、その後ろでその成行きを冷静に眺めて居た。アスカの手刀が空を薙いだ。サラリーマンの男が後ろに飛んでアスカの攻撃をかわしたのだ。しかし、飛び退いた男向かってアスカは、一気に間をつめる。そして、アスカの手刀が唸りをあげて男の首筋へ叩き込まれた。なんと言うスピードだろうか。なんと言う、力だろうか。人間では、到底無理な動きとスピード。そのスピードから導き出される破壊力は、当然の様に男の頭と胴体を首から2つに切り裂いた。

ガコン

と、崩れ落ちる男の身体。その横で衝撃でクルクルと回転を続けている男の頭。圧倒的な差、それがアスカとアル・デュークのアンドロイドの性能差だ。しかし、何度見ても馴れない。人間とソックリな物を破壊する映像は、血生臭く、グロテスク。見ているだけとは言え、気分が悪くなる。

「どうした? 燐? 気分が悪いのか?」

「ああ、あまり気分の良いものじゃないな。人間と似たモノが壊されるさまは」

「何を言っているのだ。燐、こいつ等は、人間じゃない。アンドロイドだぞ! 生物では無く、物だ」

アスカは、俺の言葉が信じられないと言った感じでへの字口だ。

「だからってな……そう簡単に割り切れるものじゃないだろ?」

「……そんなものなのか?」

俺は、無言で頷いてみせる。アスカは、俺の言葉が理解しがたい様子で腕を組む。

「だが、慣れてもらわねば困る」

「……」

ポツリとアスカが言った言葉に俺は、答える事ができなかった。




 アスカは、人間の文化を観察する事が第一の使命だと言った。その観察対象の人間の文化を脅かすアル・デュークのアンドロイドの排除もその使命の一つだと言う。しかし、俺の頭の中では、そんなアスカの行動に疑問と言う風船が大きくなりつつあった。だから、俺は、アスカに聞いてみたのだ。

「なあ、アスカ。いつまでこんな事を続けるつもりなんだ?」

「決まっている。アル・デュークのアンドロイドが全て居なくなるまでだ」

アスカの口から返ってきた返答は、予想どおりと言うか……拍子抜けの回答だった。

「解っているのか? この国は、狭いって言ってもな。人間からしたら、とても広いんだぞ! 何年かかると思っているんだ?」

「時間なら、たっぷりある。焦る必要も無いだろう? それにそんなに時間は、かからない」

「……それは、そうかもしれないが」

「そろそろだ。アル・デュークが私と言う存在に気づきはじめてるだろう」

アスカは、夜空を見上げながらそんな事を言った。誰も居ない。俺とアスカしか存在しない公園の真中でアスカは、空を見上げる。その方向に何か存在するものが在る様子で視線を向ける。俺には、見えないその方向に何かの存在をアスカは、感じ取っているのかもしれない。

「俺が心配しているのは、その事だ。アスカ」

「……」

「アル・デュークがアスカの存在に気がつけば、何か対策を討ってくるんじゃないか? もし、アル・デュークのアンドロイドが団体で襲ってきたらどうするつのりなんだ?」

「燐、心配する事は、何も無い。アンドロイドとしての基本スペックは、私の方がはるかに上だ。多勢だろうが相手にならない」

アスカは、凛と通る声でハッキリとそう言った。確かに先程のアスカの戦闘を見ていればその性能差は、歴然だ。

「うーん、なんだか無敵ぽいな。アスカは」

「そうでもない。私が無敵で居られるのは、アル・デュークのアンドロイドに対してのみだ」

アスカは、そう平然と言ってのける。まるで自分の性能を理解した上での自分なりの評価を下している様だ。俺は、アル・デュークのアンドロイドに余裕で勝てるのなら、地球上のあらゆる生物に勝てるのではないかと思っていたが。どうやら、そうでは無いらしい。アスカのような高性能なアンドロイドにも弱点があるのだろうか。






プルルルルルル・プルルルルルル…………

電話が鳴っている。俺の家は、小さな一戸建。家族4人と居候が一人住むのが精一杯の広さだ。広さを稼ぐ為に二階建で縦に長い家である。最近よく見かける小型の一戸建。

プルルルルルル・プルルルルルル…………

電話が鳴っている。電話機は、1階の玄関近くに在り、その子機が一つ2階の階段近くに置いてある。まったく、この家のナマケモノ達ときたら、誰も電話にでようとしない。俺は、仕方なく2階にある子機を手に取った。

「ハイ、もしもし?」

「……」

返事がなかった。しかし、受話器の向こう側で微かな息遣いは、聞いてとれた。

「もしもし?」

もう一度、声を掛けてみる。

「あの……」

返って来た声には、聞き覚えがあった。

「……お前……要か?どうした?」

「うん、あのね……燐君」

受話器から聞こえてくる井原要の声は、何処か様子が変だった。

「何かあったのか?」

「……何でも……ないよ。そうだ、茜ちゃん居る?」

「茜に用なのか?」

「うん、お願い……」

俺は、納得が行かなかった。井原要は、きっと何かを隠しているのだろう。しかし、それを追求する気にはなれなかった。しかたなく、俺は、居間に居るはずの茜に知らせる事にした。二階の階段を下りて居間に向かう。居間では、茜がテレビを見ながらお菓子をかじっていた。

「茜!? 電話だ」

俺が居間の扉を開けてそう叫ぶと、茜は、ソファーから飛びだして、俺の手から受話器を奪い取った。そして、さっさとあっちに行けとばかりに舌を出す。よほど話を聞かれたくないようだ。



この時は、まだ井原要の企みが静かに進行していた事に俺は、気づきもしなかった。



それがもう手遅れである事も……。

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