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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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弱き心

グラルダー目線です。

最近村に娘がやって来た。金色の長い髪をした、美しい容姿をした少女。その少女はティラナと名乗り、村人達にニコニコと愛想良く振舞った。

だが何故か俺はあの少女が気に入らなかった。別に何をされたわけでもない。何が気に入らないのかも俺自身はわからない。それでも俺はなるべく少女と話をしないように避けた。








ある日、俺と仲の良いメルディアから、少女が山奥に毎日出かけていると聞いた。

「何しにいってんだろうな。あっこの山、悪鬼が住んでる山だろ?見かけた時はびっくりしたぜ」

「ああ」

悪鬼。どうやら珍獣の悪魔の血を引く少年のことらしい。昔本で読んだことがある。世の中に一握りしかいない、もっとも強力な力を持つ珍獣達。

昔西に在ったとされるテラマーテンという国は、その珍獣達の中の一匹、バスランに滅ぼされたそうだ。そしてこの村も、昔珍獣が襲いに来たらしい。デラマガスという、珍獣達の中でも上位を誇る悪魔。一度は滅ぼされたこの村もなんとか形を残し、生き残った住人で長きに渡って復興したらしい。

そしてまた、俺が生まれる少し前、デラマガスが再び姿を現した。けれどデラマガスは、たいして村を潰すこともせず、一人の女をさらった。そして何ヶ月かたった頃、なんと女は子を身ごもらせ帰ってきたのだ。殺すことも、生ませることも、その子を身ごもった女でさえも恐怖した村人達は、子が生まれてすぐに山奥の小屋へ閉じ込めてしまった。女は子を産んですぐに他界した。

その子どもは幼いにも関わらず、やはり悪魔の血を引くのか、しぶとく生き残り、なんと今では17になるんだとか。俺と同じ年だ。

そんなやつが閉じ込められた小屋にあの少女が通っていると言うのだから、それはそれは誰しもが興味を持つだろう。

俺としては別にどうでもいい。あの女は好きじゃない。何か……そう、何か嫌な感じがする。例えようのない不安とでもいったところか。











そしてそれは、形となって現れる。


「今、なんて言いやがった……」

「私は悪魔よ、と言ったの」

少女は突然俺を呼び出すと、いきなりそんなことを言い出した。

「あなたには働いてもらおうと思ってね。見てたら結構信頼されてる様だし。私の駒となってもらうわよ」

「……なに言ってやがる……。ふざけんな!」

少女が俺をじっと見た。縦に線のいった瞳は、まるで悪魔を現しているように見える。思わず気味の悪いそれに身震いする。だがそんな俺に少女は気にもとめない。

「いい?これから言う私の言うことに従えないと言うのなら、あなたを殺す。他の仲間の子もね。いやなら黙って聞きなさい」

その声はたいして声を張ったわけでもないのに威圧的だった。それに、鋭い殺気。野望で染まった瞳の色。俺は恐れおののき、うなずいてしまった。

「いい子ね」

優しく微笑む少女の顔も、今ではひどくゆがんで見える。

「山奥の小屋にいる悪鬼のことは知ってるわね?その悪鬼を少し怒らして来て欲しいの。けれど、あの子はなかなか他人に感心を持たない。上手くやらなければ失敗に終わる。どうするかは任せるわ。あなた賢そうだし」

そう言って少女は俺の頬を優しく撫でた。ぞくりと恐怖が走る。

「ふふ、期待してるわよ?もし何もできずに帰ってきたら、その時はあなたも、あなたの仲間も、とてもむごいやり方でいじめてあげる」

俺は何も言えずにただ無邪気なその瞳を見つめた。キラキラと、まるで子どもが新しいおもちゃを貰った時の様に輝いている。

「明日よ。明日の朝に動いてもらうわ。いいわね」

そう言うと少女は頬から手をおろし、森の中へと姿を消した。


明日。

明日だ。


やらなければ仲間も、俺も、殺される。殺される時の事を考えただけで足がすくんだ。









次の日。

その日は雨だったが、いつもの様にメルディア達と集まった。雨に当たらない様に、少し飛び出た岩の下にたまる。

「なあ、グラルダー。お前なんか今日おかしくないか?」

テオが大きな黒い瞳をこちらに向けて言った。

「そうか?何も変わらないよ」

そうは言ったものの、かなり様子は変だっただろう。昨日あった出来事が頭から離れず、昨夜眠れなかったせいでクマができている。今日もずっと無言で押し黙り、地面とにらめっこしていた。何かあったと思われない方が変だ。

俺はかわいた唇をなめた。

「……ずっと行きたかった所があるんだが」

「なんだ?」

「山奥の小屋」

俺のいきなりの発言に皆がたじろいだ。メルディアが慌てて口を開く。

「おいグラルダー、あそこは近よっちゃいけないはずだ。見つかったら全員処刑を覚悟する事になる。正気じゃねえよな?」

「なんだ、怖いのか?」

その一言にメルディアの顔付きが険しくなった。

「……お前、人の命背負える覚悟もないくせにふざけんじゃねえぞ」

「俺は度胸もクソもないようなやつと仲間になった覚えはねえ」

メルディアが鋭く俺を睨んだ。

「そうかよ。なら行ってやるよ。だがな、もし見つかったら俺は逃げる。その時お前が逃げ遅れても、俺はお前を助けない。いいな」

そう言ったメルディアを俺は鼻で笑った。

処刑?そんな事、避けようと思えれば避けれる。だがもしあの女から言われた事を無視してみろ。処刑なんて生ぬるいことじゃすまねえんだぞ……!

「好きにしろ」

「早く終わらそう、こんなくだらないこと」

メルディアがそう言って森に進むのを、俺たちも重い足を動かして追った。









森の奥へ奥へひたすら進んで行くと、隠された様に木々に囲まれた小屋が見つかった。小屋全体の木が腐ったように黒くなり、周りの空気は肌寒く湿っている。雨が降っているのもあったのだろうが、より一層悪寒を誘った。たとえ悪鬼を知らない人間でも、怖気付いて近寄ろうとは思わないだろう。


俺は扉を開けた。中には、隅の方で座っているただの少年がいた。ガリガリに痩せ細って、まるで外に出た事がないかの様な白い肌をしている。

いや、出た事がないのか。左手首につけられた手枷。それは少年が閉じ込められ、小屋の外へ出れない事を物語っていた。

俺は中に入るなり、少年を挑発した。だが見向きもしない。俺は焦った。何か、何か言わないといけない。

すると、ずっと無関心に壁を見つめていた少年がティラナの名前を口に出した途端俺を殺気立った目で睨んだ。俺はもはや無心に挑発し続けた。半ばパニックに陥りながら、ひたすら少年を挑発する。一度メルディアに当たってしまったが、これは何を言っても無駄だと悟ったのか、呆れながらも言う事を聞いてくれた。

少年に首を締められた。細い体をしているのに、ものすごい力の強さ。だがそんな事はどうでもいい。

すると、少年の手が一変した。まるで、化け物。爪が生え、どす黒い茶色に染まった腕。そして、まさに悪鬼のような鋭い目付き。

それを目をした瞬間、辺りが一瞬で血に染まった。仲間達は皆血まみれでそこらに転がり、飛び散った血が壁や天井を覆う。少年はぼんやりと周りを、俺たちを、そして自分の手を見つめた。

「なんだこれは……!?」

そこへ、あの女がやって来た。少年に何か言ったあと、かろうじて生きている俺に気づき、そばへ近寄って来る。何か言ってやりたかったがそんな気力は無い。

少年はただ恐怖で凍りついた顔をして、俺たちを見ていた。ああ、あいつは何も悪くなかったんだな。ただあの女に心を開いただけだったんだ。きっと何も知らない。あの女の正体も、思惑も。

俺が、弱かった。あの女に反抗して挑む事さえも、恐れに負けて出来なかった。俺が、弱かったから。

俺は渾身の力を振り絞って少年にあやまった。


そこで、俺は気を失った。











誰かの鳴き声で目が覚める。起き上がって声の主を探そうとしたが、全身に激痛が走ってやめた。

「ちくしょ……っ。どうして……どうして……!!」

少年か?少年は血まみれになった金髪の女を胸に抱いて、嘆いていた。あれはあの女か?なぜ血まみれになっている。


そしてまた、気を失った。






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