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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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その本心

ティラナは優しく微笑んだ。

「私には、あなたしかいない。ううん。あなたしかいらないわ、ベイル」

「……僕もだよ」

「愛してる」

愛してる?誰を?何を?

僕の中の、獣を……?

「ベイル、あなたに目をあげる。デラマガスのその強力な血と純血な悪魔の血を引いた私の目が合わされば、きっとさらに強い力になるわ。少し痛むかも知れないけれど……」

そう言ってティラナは少し緊張した様子で僕の右のまぶたに片方の手を、そしてもう片方の手を自分の右のまぶたに重ねた。

もはやされるがまま。抗う力も意思も今の僕にはない。


……ドクン。


熱い。目の奥が焼けるように熱い。息もしにくくなってくる。左目を開けると視界がボヤッと映った。見るとティラナも苦しそうに眉を寄せている。その時、


バキッ。


「……っ、ああ!!!!」

「ベイル!?」

右目に激痛が走った。あまりの痛さに地面に膝をつく。

「ぅああっ」

「べ、ベイルっ!?」

ティラナも何がおきているか分からないようだった。


ズキン、ズキン。


突き刺すような痛みが波のように襲う。だが、目の前の異様な光景に痛みを忘れた。

もともと醜くかった獣の手が、漆黒に染まりするどくなっている。手を持ち上げようと動かしたが、いうことを聞かずに震え出した。

「……血を拒絶している……!!」

ティラナが悔しそうにつぶやいた。

「なぜ!?私のような下等種の悪魔の血は、受け付けないというの……!?」

「ティラナ……」

意識が朦朧としてくる。

「ベイル?しっかりして。気を失っちゃだめよ……」


ティラナの声が途絶え、僕は闇に落ちた。










「……う……」

まだ少し痛む右目が、僕を現実へ引き戻した。そうだ。意識を失って……。

「ベ、イル……」

ふと後ろで声がした。パッと振り向く。

「……ティラナ……!?」

その姿を見た瞬間右目の痛みなどふっとんだ。

ティラナは血だらけだった。わき腹、腕、額、足、体のあちこちから血が流れ出ている。僕は駆け寄った。

「ティラナ!! どうして……この傷……!!」

ティラナの軽い上半身を抱えおこし、腕に抱いた。その時の触れ合った所から伝わる弱々しい心音に、ぎょっとする。ティラナは途切れ途切れに息をし、顔が苦しさの余りゆがんでいる。息をするたびに傷が痛むのだろう。

「ベイル……。力が……おさまった……?」

「僕の力のことなんてどうでもいいだろう!! 今はこの傷を……」

そこまで言って僕ははっとした。今の僕は獣の血が強くなって五感が優れている。そのせいで分かったのだ。僕の手についたこの血の臭い。

ティラナの血の臭いだ。

「僕が、やったのか……!?」

ティラナは何も言わなかった。

「僕がやったんだな……!!!!」

「……ベイル」

「どうして……っ!! どうして君まで……!!! くそっ!!」

「ベイル。ベイルは……悪くない、わ」

「この血は根元まで悪魔の血なんだ! 愛した者まで手にかけて……!!」

「聞いて、ベイル……」

僕の頬には涙が伝っていた。悲しいのだろうか。悔しいのだろうか。なんの涙かは分からない。

「わたし、は……もうだめよ……」

「そんなこと言うなっ!」

「わかるでしょう……?もう、心臓が、止まりかけてるわ」

「……っ」

「ねえ……ベイル。わ、たし……後悔、してるの……」

必死に呼吸しながらも、ティラナは続けた。

「私は……悪魔、でしょう……?人を愛することは……できない」

僕はまともにティラナを見れなかった。涙が次から次へと溢れてくる。

「あなたも、言ってたわ。自分、は、悪鬼だと……私を、愛せない、と……。私には、人を愛することに、諦めが、ついていたけど、あなたは……とても寂しそうだった。だから、私は……そばにいようと……最初こそは、自分の、欲望で近付いたけれど……ちゃんと、あなたを……悪鬼を、愛そうと、思ったの……」

ティラナ。

ああ、ティラナ。君は、ちゃんと僕を愛してくれた。僕を……。

「でも……やっぱり、悪魔の血が……強かった。愛を手にいれて……っ、欲を……はってしまった……!」

ティラナも泣いていた。

「わたし……っ、あなたを愛してた……! 本当なの…っ」

「もう、もういい……。いいんだ……」

「ベイル。自分を、責めてはだめよ。私が……死んでも、自分を、憎まないで…。私はこれでよかった……。あのまま、醜い姿に、なってしまうくらい、なら……愛した人の、手で死んだ方が……マシよ」


「……死ぬな……、死ぬな……!」


「ベイル……。辛い思い、させちゃったわね……。ごめんなさい……」

「ティラナ! 死ぬな! 君がいなくなったら、僕は生きる意味がない! お願いだよ……。ティラナ……!!」

ティラナはとても穏やかな顔で微笑んだ。いつもの、僕の心を暖かく満たす笑顔。

「私を、愛してくれて……ありがとう、ベイル」

するとティラナは激しく咳き込み、どっと血を吐いた。そしてぶるっと身震いすると……動かなくなった。

「ティラナ! ティラナ! 嘘だ、ティラナ! ……ティラナァァァァアアアア!!!!!」



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