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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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美しくも、見にくくも

僕は何も言えなかった。ただひたすら、息苦しくてたまらない沈黙を守った。

ティラナも何も言わず血だらけで横たわった青年達を見、そして僕の醜く様変わりした腕を見たあと、視線をあわせた。ティラナの目には僕はどううつったのだろうか。

獣のように、見えたのだろうか。

「……ベイル」

怖い。

「あなたが、やったの?」

怖い。

僕を、見放さないでくれ。

僕は、僕は……


「よくやったわ!! 完璧よ!!」


ティラナはさもお茶会を楽しむような笑顔で僕に抱きついてきた。

「やっと覚醒したのね! 少し時間がかかったけど計画通りよ!」

何を言ってるの?どうして笑ってるの?……意味が、わからない。

「私、もう少しかもしれないって思ってたのよ! あなたの中の力がうずきだしたから。けれどそれはまだ小さかった。何かあったんでしょう、ベイル?じゃないと急に覚醒するなんておかしいもの! あぁ、どうせならもっと……」

興奮して口が止まらないティラナの言葉は頭には入ってはこずに素通りした。

覚醒?計画?意味が、わからないよ。

「ベイル?顔が真っ青よ。大丈夫?」

「……ティラナ……」

いつも通りのティラナを困惑して見つめていると、ふとティラナは僕の後ろを見た。そしてすっと僕の横を通り、少し離れた所に倒れていたグラルダーの元へ近寄って行く。するとティラナは金色の髪をなびかせながら、グラルダーの隣にしゃがんだ。

グラルダーは生きていた。弱々しく息をし、ぼんやりとティラナを見ている。

「あぁ、運がよかったわね。このくらいなら死なないわ。あなたには感謝してるのよ?たくさん働いてくれたものね」

よくできましたと、グラルダーの頭を優しく撫でるティラナ。その笑顔に思わず寒気が走った。

なす術もなくその光景を眺めていると、グラルダーがティラナから視線をはずし僕を見た。

「……す、まない……。俺が……よわ、かった」

グラルダーはそう言うと気を失ったのか目を閉じた。

ティラナがまた、僕に歩み寄ってくる。

「ティラナ……どうゆうことだ?」

「そうね、ちゃんと説明しなきゃいけないわね。私、悪魔なのよ」

ティラナはまるでそれが当たり前かのようにさらっと告げた。

「……え?」

「あなたは本を呼んだりしないから知らないでしょうね。この世界には悪魔というものが存在するの。悪魔はひとを喰らって生きる。喰らうと言っても、心を喰らうの。なかには人間ごと食べちゃう悪魔もいるけれどね」

僕は唐突すぎるその話しに理解できずに呆然とした。

「私はレインダーという自我を持つ悪魔の一つ。普通はカイレンといってね、自我は持たないの。けれどカイレンが心を喰らい続けることによって、レインダーになる。私はあなたに出会う少し前にレインダーとなり、自我を持った。初めは自我を持ったといっても、美しい姿になり変わり人間の暮らしを楽しむ程度で満足していたわ。けれどあることを思った。……人間を服従させるのよ」

そう語るティラナには、いつものどこかあたたかな雰囲気なんてなくて。その代わりとげとげしい冷めた空気をまとっていた。

「けれどそれには力がいる。だから私は私の右腕になりうる存在を探したわ。各地に散らばった悪魔をあたって、カイレン、あるいはレインダーの中からね。けれどカイレンはなんの役にもたたなかったし、レインダーは力をかしてくれない。なす術もなくなって諦めかけたわ。そんな時、悪鬼の噂を聞いた」

僕は拳をかたく握った。

「獣の血を取り入れた人間。そう、あなたのね」

ティラナが優しく僕を見る。

「それにその獣の名を聞いて驚いたわ。デラマガス。珍獣の内の一頭よ。デラマガスもまた悪魔だけれど、私たち人の形をした悪魔とは格が違う。獣の形を成す悪魔は強大な力を持ち、賢い。それにデラマガスは珍獣の中でも特に珍しく、強力とされているの。そんな珍獣の血を取り入れた人間だなんて、きっと何かあると思った。それから私はこの村に旅人として移住し、れっきとした村人となったの。もちろんあなたに近づくためにね」


まさか。

それなら、ティラナは、


僕を利用して……?


「あなたに会ってすぐにわかった。デラマガスの血の匂い。そして内に潜む、何かの力。きっと何かの拍子に目覚めるかもしれないとふんで、私はあなたに会いに通った。そしたらあなたは、私を愛してくれた」

ティラナは囁くように言った。

「いけると思ったわ。きっと私の可愛い従者になってくれる、とね」

ティラナはくすっと楽しそうに笑った。

「私はその力は感情の起伏で目覚めるかもしれないと考えた。それであの黒髪の子に少しお願いごとをしたら、こんなにも上手く成功させてくれた」

ティラナの細い腕が僕の背中にまわされる。

「ねぇ、あなたにも望みはあるでしょう?自由という望みが。私は全ての人間が私にひれ伏す力が望みなの。あなたは聡い。わかってくれるわね?」

ティラナのまわされた腕がほどけ、こんどは僕の目を覗き込む。きっと今の僕の目は暗いだろう。

「私のために、生きてくれる?」


ティラナ。君にとって、僕は道具でしかなかったのかな。思惑通りに動く、駒として見ていたのかな。




ずっとずっと、君は美しく強かで。それは僕には手の届かない光の様だったんだ。

君は僕の望みが自由だと言った。けれど、それは違う。

光のように儚く眩しい君は、いつか消えてしまうんじゃないかと怖くて。けれど、君は僕のそばにいてくれると言った。


僕の望みは叶っていたんだよ。






君は美しい。

けれど、今の君は醜い。




それでも、愛してるよ。





「僕は、君のものだよ……」


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