友という名の存在
「な、なんだお前からわざわざ。珍しいな」
「ちょっと話しがあるんだ、グラルダー」
いつもとは違った雰囲気に、すぐ部屋へ通してくれた。
「汚いなぁ相変わらず」
床中物だらけだ。掃除という言葉は知らないらしい。
「うるせぇなー、寝床だけで充分なんだよ自室なんて。適当に座れよ」
座る所がないんだよグラルダー。無茶を言うな。
だいぶ迷ったあげく軽くかたずけ自分の場所を確保した。
ボスっとグラルダーはベッドの端へ座る。
「で、なんだよ。言えよ」
本当変わらず気になることは率直にものを言うな。空気を読めないお前がひさびさなようだよ。
「……お前には、悪かったと思う」
少しの沈黙のあと、僕はあやまった。
僕の侘びに、グラルダーははぁ、とため息をつく。
「どうせろくな話しでもないことは分かってんだ。お前の顔にそう書いてあるからな。遠回しな言い方はするなよ」
「分かってるさ」
すべてを話した時、僕は戦闘体制に入っていた。
グラルダーがキュラムを解放して向かってきたのだ。殴られる覚悟はあったがここまでとは、さすがに黙っていられない。
「なぁ、お前ふざけてんのかぁ?あ?デスノアだと?そんな噂でしか聞いたことねぇようなもんに、入ってるだ?冗談にしては胸糞悪いぜロアよ」
言葉が荒い。かなり怒ってるようだ。
グラルダーのキュラムを変形させた剣が僕の解放した腕にギリギリと押してくる。
こいつ、本気だな。力のほとんどを使ってきてるだろ絶対。
「それもなんだぁ?どれだけ前なんだよ。ずっと隠したってことかそれは?仲間にコソコソ隠れて、てめぇは夜中に殺しをしてたと?」
さすがにこれだけ全力でこられるとキツイ。
グラルダーも成績優秀なデトランだ。悪魔の討伐数はそこらのデトランよりはるかに上。
そんなやつにほぼ全力を出されたらこちらもたまらない。
「そうだ、グラルダー。僕はずっと黙っていた。お前を、皆を騙して夜を駆けた。ルルーシュを許嫁として引き取ったあの日から」
「ふざけんな!!!!」
ガツンっと剣を思い切り横に振り切られた。
危ない。下手をしたら大けがをしそうだ。
「てめぇが何か隠してるのは知ってたぜ?だがな!! 黙って見てることがどれだけ苛立たしいと思ってんだ!?デラマガスのことも、デスノアのことも、ワイナーとのことも!! なんにも言ってこなかったのかてめぇは!!」
「……あぁそうさ。何も言うつもりはなかった」
ぶんっと先ほどより大柄に変化した剣が迫り、うしろへ飛びのいた。
ガシャーンと剣の先が部屋のものにあたり大きな音を建てる。
「これ以上、俺をイライラさせんじゃねぇ。なにも言わないてめぇを黙って見てるだけでイライラしてたのによぉ! その澄ました態度はなんなんだよ!!!」
こいつは部屋を破壊したいのか。見境ないな自室だというのに。
「てめぇのそういう所も相変わらずかわんねぇな!!! 吐き気がするぜ!!!」
「……うるさいんだよ」
「あぁ!?」
「うるさいと言ったんだよ!!!」
「やんのかコラァ!!!!」
「何がわかる!?」
そう、僕も限界だった。
ガンと今度は自ら攻撃する。グラルダーは想定外だったのか、少しぐらついた。
一度怒鳴ってしまうと止まらない。
「デスノアにならないと分からない! 暗殺なんて想像したことがあるか!? 同じ、仲間を! この手で殺すんだぞ!!」
「っ」
「言えるかそれが?胸を張って仲間と接することができるか!?」
あまり力を入れてないつもりが、辺りに被害が出るほどには入ってしまった。
ぶわっとキュラム同士がぶつかった風がおこる。
「お前はよ、俺のなんだ?」
は?と言おうとしたが、思わず言葉がつまった。
グラルダーの顔には悔しさが滲んで、どこか苦しそうだ。
「俺はお前と、もっと近い所で世界を見てる気がしてた。今はまったく思わねぇ。思えねぇんだ。なんでだ。俺は、お前の友じゃねぇのかよ?」
声が、震えている。
「なにやってんだ!?」
フィリットが部屋の扉を蹴飛ばして入ってきた。
「すごい気がすると思ってきてみれば、あんたたち?なにしてんのよ?」
一緒に来たミリアが呆れた顔で聞いた。
「うっせぇんだよ、出ていけ」
グラルダーの唸るような声に、さすがの二人も怯んだらしい。嫌な顔の代わりに、少し焦った顔をした。
「喧嘩するなら外でやりなさいよ。こんな所でキュラム解放して、被害が出たらどうすんの?」
すぐにもどったミリアがとげとげしく言った。
「……てめぇらもやるか?あ?」
「グラルダー、黙れ」
そう言った僕にグラルダーは剣をなぎ払って攻撃を続けた。
「グラルダー! お前らほんとになにやってんだよ!」
キュラム同士の戦いなど止められるわけもなく、僕らはかまわず続けた。
だんだん周りが見えなくなってくる。
攻撃を受けたグラルダーが廊下へ吹っ飛ばされ壁に激突した。
僕もすぐに部屋を飛び出し再び襲いかかる。
それにグラルダーも向かって来た時だった。
「ロア……?」
ドクンと腹に鈍い痛みが走る。
「なっ……」
グラルダーの驚愕した顔なんかより、よっぽどその声の主の顔が気になり、振り返った。
「……ルルーシュ」
「……っ」
心臓の音にあわせて腹の傷が痛んだ。目をやるとグラルダーの剣が貫通していた。
「っ」
引き抜いて投げ捨て、ルルーシュと向き合った。
「け、怪我、してるよ、ロア……。あ、ごめんなさい、大っきな音がして、部屋を出たの……そ、そしたら、ロアが……」
僕は今になって後悔した。
ルルーシュの怯えた顔。胸の前できつく握るては震えている。
腹の傷を手で隠し、僕は笑顔を作った。さすがに流れた血は隠せないけれど。
「ルルーシュ、大丈夫ですよ。すいません。驚かせましたね……」
そうだ。今日はゆっくりルルーシュと過ごせる日なんだ。
怪我してる場合じゃ、ない。
たたっとルルーシュが走り寄って来た。
「ロア、血が、止まってないよ?怪我が……っ!」
「触ってはだめです。大丈夫だから。大丈夫。いつもの喧嘩ですよ。だから平気です」
ルルーシュが伸ばしてきた手を避けるため、思わず一歩下がった。
だめだ、触れさせれない。
こんな汚れた血。
「部屋に戻りなさい。すぐに行きます」
「……はい」
何度も振り返りながら、ルルーシュは部屋に戻って行った。
「ロア……」
グラルダーのさっきとは違った弱い声が背中にかかる。
なんだ、いざ怪我さしてみればそれか。馬鹿だな、グラルダーは。
「なにやってんのぉ?」
気の抜けるような声がして見てみたら、ギルティが歩いてきた。
話し方がわざとらしい。多分あえてやってるんだろう。
「喧嘩ぁ?すんごい気が下まで来てたんですけど〜。ヴァルディアさんでもすっ飛んでしてもしらないよぉ?」
そう言ったギルティは僕に意味ありな視線をよこした。
「とっととここから消えたほうがいいよ〜。ロア、俺の部屋に来な。こうみえて治療なら出来るから〜。君らもとりあえず散りなぁ。行こっかロア〜」
「あ、あぁ」
すっとギルティが僕に手のひらをかざした。
少し冷たくなった腹部は、表面が氷で固まり血が止まっていた。
ギルティは何も言わずにスタスタと前を行った。後をついて行こうと歩き出した時、グラルダーがぼそりと言った。
「俺は、お前の友だ……」
止まりそうになったが、振り返らず進む。
「バカだねぇ君たち」
「そんなこと分かってるよ」
僕は今、殺風景なギルティの部屋にいた。
まったく物が置いていないため、同じ大きさの部屋のはずが広く感じる。
「あ、男の傷の手当てとかしたくないし、自分でやってね。できるでしょ?」
そう言って救急箱を渡される。
「ありがとう」
「どうせ何も言わないからグラルダーの限界がきちゃってたんでしょぉ?」
「どうして分かるんだ?」
ギルティは僕に背をむけてコーヒーを入れている。もちろん一人分。
「分からないやつの方が少ないんじゃない〜?」
「……僕には分からなかった」
「君はそうゆうの、あんまり関わりないし慣れてないからでしょ」
湯気の出るカップをギルティはコトンと机に置いた。
「そんなもの?」
「そんなものなの」
「どんな?」
「めんどくさいなぁ」
上品にギルティはコーヒーをすすると、またコトンと机に置いた。
「仲間って、同じ痛みを分け合うとか、苦しみを分け合うとか、重荷を分け合うとか、そんなのでしょ?グラルダーはそういうの求めてたんじゃない?なのにロアは全部一人で抱え込む。しかも大事な所に限ってねぇ。それがとてつもなくグラルダーには悔しかったんだと思うよ〜」
「悔しい?」
は〜っとギルティはため息をついた。
「まだわかんなぁい?なんにも感付ないことが悔しいんだよ。てかお腹の傷大丈夫なの?」
「このくらいならデスノアとして戦闘してる時の傷に比べれば平気さ。場所も場所だから。一日安静にしてれば治るよ」
「あっそ。まぁそういうことだよ。言えないのも分かる。俺だってロアしか知らない。けれどロアには仲間が在る。仲間ぐらいには、言ってもいいんじゃない?だってグラルダーだよ〜?言って離れるとか思う〜?」
嫌な顔をしながらギルティはそう言った。
「……そうだね」
「分かったなら行けば〜?グラルダーにもなんらかしらしないとね〜。ルルーシュちゃんも、だいぶ怖がってたしぃ」
「あぁ、そうだね。行くよ」
コーヒーを飲みながらギルティは気だるそうに手を振った。
「……ありがとう」
「こっちもね」
何かと思ってギルティの顔を見た。
ギルティはカップの中に目を落としている。
「デスノアの方、何か言っただろ?それがワイナーから知らされたんだよ。……まぁ、ありがとう」
「……いえ」
ふ、と笑って部屋を出た。
思ってることは言わないと伝わらない。
相手が何を考えているかわからないともどかしいし、何かしたくてもできない。
ふーっと息をつくと、またグラルダーの部屋の前に戻った。
考えを巡らせる。
「グラルダー、僕は、ずっと昔から不器用だ。伝わるものだと思ってしまう。それに……言い訳だけれど、あまりにも重すぎるこのことを言って、誰も困らせたくなかった。知られるのが怖いというのも……ある。言わなくてすまなかった」
バン! と勢いよく扉が開いて驚いた。
「おおおおお俺はな! 何言われても引かねぇ! 別にお前がたとえばゴミのようなやつだって知っても、おれは離れねぇ! それがお前だ! 分かってて一緒にいんだよ! それだけ覚えとけ! ……あと」
グラルダーがちらっと腹に目をやる。
「その傷は、ほんとにすまねぇ……。じゃ、じゃあな!」
またバン! と扉が閉められた。
思わず頬が緩む。
僕は警戒しなくていい所まで警戒しすぎなんだろうな。
グラルダー相手にいろいろ考えることは間違ってるんだ。
グラルダーなんだから、適当でいいんだろう。
僕がゴミのようなやつだって知っても離れないとまで言われたしね。
また心がすっと、軽くなった。
最近、いいことが多いかもしれないな。




