ワイナーの覚悟
お久しぶりです。
この話しは少し短めです。
だがふと思ってしまった。
先を歩くワイナーの背を見て、考える。
僕で本当にいいのか?
僕はデトランを脅威にさらす存在だ。
その脅威を、ワイナーは分かっているのか?
この胸の内は……ワイナーにたくせるのか?
歩いている間、ずっと考えた。
この人を、信頼できる?
僕のありのままを、見せれる?
過去も、今も。
『もって五ヶ月だろう』
忘れたわけじゃない。
デラマガスに言われた言葉。
『父よ』
自分が言った言葉も。
もはや人間とは離れた僕を、ワイナーにすべて見せれると言うのか?
ためらいが強すぎた。思わず足が止まる。気付いたワイナーも振り返って僕を見た。軽く首をかしげられる。
「どうしました?」
僕の意思が揺れた。自分がワイナーと尊という関係になることがじゃない。
今になって僕は、こんな僕を受け止めてくれるのか、不安を抱いたのだ。
そんな自分にも腹が立ってきた。
まだ何かにすがろうとしている。目の前に差し出された手に、たすけてくれと、信用してくれと、伸ばさずにはいられないのだ。
「ロア?」
「……っ」
僕の急な態度に何かを感じたのだろう。ワイナーは近寄りすぎず僕に寄ってきた。ワイナーのどこからそんなやさしい声が出るのかと思うほど、穏やかな声が耳に届く。
「君は、怯えているのですか?自分の全てを私に知らしめることを」
「!」
ひと気の少ない廊下は静かすぎるあまりに、沈黙という静寂が鼓膜を刺激させた。耳がおかしくなりそうだ。
「……まだ、話そうとは思えないですか?」
「…………っ」
迷い、揺らぐ。変な冷や汗が噴き出た。
ワイナーにこんなことを話すのか?あれだけ疑った相手に、真意をチラつかせるのか?……ワイナーの嘘のない言葉が、僕には心地よすぎたのか……?
「……無理に話せとは言いません。でも決意が揺らぐのはよくない。はっきり、させるなら今ですよ、ロア」
「…………つだ……」
「ん?」
口がカラカラで、言葉がうまくでない。
「五ヶ月なんだ、僕の……僕自身の意思が持つのは……」
ワイナーの顔は伺えない。なにも見れない。緊張で心臓が破裂しそうだ。
「デラマガスと、話したとき、僕には五ヶ月の間しか、自我をたもてないといわれました。そして僕は忠実な悪魔のように……デラマガスを父と、呼んだ……」
ワイナーから言葉は返ってこない。かまわず続ける。
「僕の中には確かに魔獣の血が通っている。濃い、汚れた、悪鬼の、血……。僕は……」
もう、これで最後にしよう。
新しく人を信じて、頼ろうとするのは。僕の中身を知ってそう共にいてくれる人はいないだろう。
こんな期待は、もういやだ。
期待して奈落に堕ちるのは……充分だ。
「ほんものの悪鬼です。誰が何をしようが、制御することはできない。誰に何をするか、わからない……! 僕は人間じゃない。もう、人とは深く関わらないほうがいい……」
「それがなんです?」
「……え」
「君が悪鬼であることが、なにか?」
ワイナーは信じられないほど涼しい顔で、けれど真剣に言った。
そして僕の目の前まで距離をつめた。
「悪鬼である君を信じると言ったのは私。何をしようと守るのも私。殺すのも、私だ。私は覚悟ができている。悪鬼?悪鬼である君は今、悪鬼のようには見えない」
ワイナーの表情は今日初めて見るものばかりだな。今だって。まるで師として僕を叱る顔だ。
「言ったはずだ。もがいてもがいて、殺してほしくなれば言えばいい。私が殺す。尊という私の心の一部を殺す」
トン、と、僕の胸にワイナーのこぶしが降りた。
「私には覚悟がある。ロア、君が何に恐れていようが、私にはそれを受け止める覚悟があるんだ」
みっともない。
涙がこぼれて止まらない。
「それにね、私に殺されるほうが、そこらのデトランやデスノアに殺されるより、幾分もマシでしょう?」
ふっとワイナーは微笑んだ。
胸にあてられていたこぶしに力が入った。
「君を殺す罪を、私はこの身をとして受け止めよう。君が生きるという意思を、私はしかとこの身をとして支えよう」
「ミスター……ワイナー……。僕は……醜く腐った生き物です……」
「それを受け止めるのが、私の仕事だと言った」
「人を憎む時さえ、あるのです……!」
「憎しみなくしては人は強くなれない」
「こんな僕は……生きていて、いいのでしょうか」
「生きたいと言うんだ。すべて、隠すな。ましてやそんな下手くそな嘘など、私につくな」
「……生きたい!」
情けないほど涙が止まらない。
嗚咽が堪えきれずに出る。
僕の心の内の不安を、ワイナーは強い覚悟で受け止めようとしていた。
たくさんの思いが絡まって醜くなったこの僕の心の内を。
「……ありがとう、ございます……!」
胸にあてられていたこぶしがすっと離された。何事もなかったかのように、ワイナーは前を歩き出す。
「私だって、そんな綺麗な人間ではありません。礼をいう必要はない」
「はい」
「はやく来なさい。覚悟が決まったのなら進むだけです」
「……はい!」
心が少しばかりか晴れた気がした。
ほんの少し、僕の心は暖かさが混じった。
恐怖も、なくなった。
さぁ、行こうか。
誓いを、たてに。
なんのためらいもない足取りを、僕は進めた。
ルルーシュのことも、次からは含んでいきます。




