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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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師と尊の存在

なぜ、ワイナーは僕をかばった。確かにあの目は嘘は言っていない。だがなぜ。

ワイナーの部屋へ向かう途中で僕はそのことばかり考えていた。

「情けなど、あの男には無用だろう……」

ならばなんの目的でワイナーは……。

ふと気付けばワイナーの部屋の前まで来ていた。ふ、と笑いが込み上げる。

僕は、昔となんら変わらないな。

「人を信用する心はそう簡単に戻らぬでしょうね」

「っ!!」

後ろに立っていたのはワイナーだった。

「……気配を消して近付くのは失礼じゃないですか?」

「すまない、つい癖でね。さ、入りなさい」

「……」

ガチャリと重たそうに開けられた扉の向こうには先客がいた。

「ヴァル!?」

「ロア」

「なんでヴァルも……」

「呼び出したのは私ですよ。君だけじゃなく二人に話しがあるのです」

その言葉を聞いて僕は身構えた。

「……なにを企んでる……」

「ロア落ち着け」

「ヴァル。あんたもこりないな。ルーカスの奴の一件をもう忘れたのかい」

「おや。それは失礼ですよ。私をあんなクズと一緒にしないでください」

ワイナーをちらと見ると、彼は優雅に椅子に腰掛けた。頬杖をつき、僕を見つめる。

「座りなさい。私はお前と話しがしたいだけです」

「……場合によってははむかう」

「好きにしなさい」

ワイナーの流すような返事に苛立ちを覚えつつ、僕はヴァルの隣におかれた椅子に座った。少しの沈黙の後、ワイナーのよく通る声が響いた。

「ロア、君は生きたいと言った。けれどそれは時間の問題でもあります」

「僕に巣食う化け物がいつ目覚めるかわからないからですか」

「いいえ。確かにその可能性だって無いわけではありません。けれどね、周りの不満が溜まっていずれかこの場所には殺気が溢れてくるでしょう。その不満の原因は君だ。ゆえに同胞が君を殺しかねないのですよ」

「……だったら、なんですか」

「君にはここを出てもらおうかと思ってね?」

「なっ……」

「決して邪魔物扱いするわけではない」

少し強調されたその言葉に、立ち上がりかけた腰を沈めた。

「そこには私もついて行く。そしてヴァルも。……望むのなら、仲間も連れてくるがいいでしょう。それと」

ワイナーは薄く笑った。

「あの黒の少女でもね」

「ミスター・ワイナー、なぜそれを……」

確かにそうだ。ルルーシュの話しはルーカスが容易には話していないはずだ。それこそ大きな問題となる。僕が闇を駆けているのは知っているはずだが、ルーカスは自分の野望のためにルルーシュの話しは伏せていると思っていた。

「私とアースに隠し事は通じませんよ」

「……申し訳ない……」

「気にせずとも。ロアも反抗しているようですし、なにも口をはさむことはしないつもりでしたから」

カラカラと、ワイナーがカップに入れた砂糖を混ぜる陽気な音が鳴る。

「彼女も連れて来たっていい。そしてその先でロアには訓練してもらいます」

「訓練……?」

「まずは精神を鍛えます。そして力を限界まで抑え込めるようになってもらう。そして肉体を。ジーガスといいましたか。彼らのような輩といつでも対抗できるように」

「ミスター・ワイナー。それは本人の意思は関係なく実行するのですか?」

低い声で言ったヴァルに、ワイナーはおっとりと笑って見せた。

「本人の意思が一番ですよ。これは命令ではないですから。なのでこれは一つの道です。ロアがいつしか出て行きたいと思った時に、私は動きます。出て行きたくないのであればここにいればいい。私の意見を頭に入れておいてくれるだけでいいのですよ。ロアにも、逃げ道はあったていい」

ワイナーを腹立たしく思う気持ちはなくなった。けれどやっぱり疑問だ。

「どうしてあなたは僕にいきなり親切にするんです」

その質問にワイナーは刹那目をふせたが、すぐに僕を見た。

「私も人なんだと、言っておきましょう」

「……同情ですか?」

「そうですね、嘘はつきません。同情と言ってもいいし、君の心を守りたいとも思った」

「……わかりました」

「それとね、もう一つある。これは君ら師弟に関わることです」

ワイナーは頬杖を外し、僕を見た。

「私を尊に持ちませんか?」

「……尊?」

「ミスター・ワイナー。なぜいきなり?」

ヴァルは少し慌てていた。

「尊とはなんですか?」

「このデトランの世には師ともう一つ、尊という存在がある。師は君とヴァルの関係。尊は、例えば私とロアなら、それを縛る関係」

縛る?

思わず眉間にシワを寄せると、さらにワイナーは説明した。

「師は弟子に知識を学ばせ、力を学ばせ、経験を学ばせる者。尊は弟子に知識を与え、力を与え、経験を与える者」

「与える……?」

「血を与えて全てを受け継ぐんだ」

ヴァルが真剣な声で言った。

「私の血をロアに飲ませることで、君の記憶に私の記憶が混ざるのです。そうすることによって例えば敵の攻撃のしのぎ方が理解できるようになったり、どこが急所が感知できるようになったり、キュラムが強力な敵に対応できるようになったり……ね」

ワイナーはそういうと真剣な目をした。

「けれど尊と言う関係には信頼が必要です。尊となることで君は私と行動し戦うことが増える。共に戦う中で疑いがあればもちろん死に関わる。それに一部ではあるが技術とはまた異なった記憶が混じる時もある。それを君が見たとして、私を軽蔑するのか、さては弱点を見たところで私を殺そうとするのか。記憶を受け継ぐというのはかなりお互いのリスクがあります」

「逆にあなたが僕を知ってどうにかなることもあるのでは?」

「そこは信頼していただけるとありがたいのですがね」

ふっと笑ったワイナーを見た限り、別に疑うようなことはなかった。

「あと一つ大事なことがある。もしどちらかが死した場合には、力も記憶も全てが片側に流れます」

「ミスター・ワイナーが死んだら、僕に全てが行くと?」

「えぇ。そうですね、昔血を交わした者のうち師が敵の秘密を知り、一刻もはやくそれを中央へ伝えねばならぬ時、弟子に記憶を託すため自ら死んだ例もあります」

きっとその師は弟子を深く信頼していたのだろう。じゃなければ死ねないはずだ。

「おおかた、そんなところでしょうか」

ワイナーが僕の意思を伺うようにこちらを見た。

「……ヴァルは用なしとなるのか?」

「俺は変わらずお前の師だ」

「えぇ、ヴァルとロアはなにも変わらない」

「……きっと僕は今血を交わした所ですぐには信頼できない」

「私のことを知ればさらに君は私を信頼しないかもしれない」

「それでもいいと言うのですか?」

「そうだねぇ、私はただ君を助けたいだけだ。強くなって生きてほしいんですよ」

ワイナーの考えてることはまったく分からない。けれどなぜか、信じてもいいような気がした。僕は昔から人を疑うことだけは得意だ。けれどワイナーには嘘をかんじない。それよりか本当に僕を思って言っているのが分かるほどだ。

「……わかりました」

「そうか、受け入れてくれますか。ならばこれからよろしくお願いしますね」

ワイナーは席を立った。

「ヴァル、すぐに行動を移したい。私たちは儀式を行います。少し待っていてください」

「はい」

少し不安そうながらもヴァルは出て行った。ふぅ、とワイナーがため息をつく。

「少し寒気がするものですが、我慢しなさい」

その一言で心細さをかんじたものの、気にしないことにしよう。


僕の尊は、今日からワイナーだ。

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