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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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この血故に

「ロア。お前はまだあの子が好きか」

お前、恋愛ネタは嫌いなはずだろう?本部に住み出した頃だって色んな恋愛の話は聞き流して避けてただろう。なのになんだよ。

どうしてそんな真剣な顔で聞いてくるんだよ。逆に笑えないよ。


















任務から帰ってくると、すぐさま乱舞の間へ呼び出された。任務遂行したメンバーと、総長、その他の隊長、そしてヴァル、テリバーさん。人が沢山集まっても広く感じるこの空間は、少人数で集まると圧迫感さえ感じさせるほどだだっ広かった。

ふとミスター・スカイウォーナがため息をついた。

「なんという事かね。まさかロアよ、お前は目をつけられている様だ。それも全て相手は知っている。お前の過去も、現在も、未来までも手をつけようとしている」

再び沈黙が流れる。

「その魔獣の血を利用すれば良いのでは?」

いきなりのミスター・ルーカスの言葉に皆が目線をやった。

「利用……?」

ヴァルが怪しげに問うと、ミスター・ルーカスがにやりと笑った。

「今回の任務を千里眼で拝見させてもらったんだ。ロト、その力は実に素晴らしいものだったよ。それにこれからもその力は成長すると見える。君はかなり有力な戦士だ。そこで、だ。狙われている上に本人は強力なキュラムを持ち合わせているならロト自身が動けばいいじゃないか」

「つまり囮になれと?」

ヴァルのピリッとした声が響く。

「それはそうかもしれない。……だが囮よりももっと重要だ。まぁ、それは後々ロトとヴァルと三人で話そうじゃないか」

有無を言わせないミスター・ルーカスの言葉に嫌な予感しかしない。

囮、か。

僕は思わずかわいた笑をもらした。

囮をさせるか、同胞に。その程度か仲間なんて。都合がよければ殺しに向かわせるのがあんた達か。別に好きにしてくれればいい。囮に使うなら使えばいい。ただこの数年で少し本部のデトラン達との家族感を感じていた自分が馬鹿馬鹿しくなった。そんなもの無いのが他人なのだけれどね。

「好きに命令してください。なんでもしますよ、僕は駒だし」

「ロア」

ヴァルの遠慮がちな言葉を無視して真っ直ぐ覇王を見る。

「なにも反論しないあなたもそう思ってるからでしょう。ならその命令に従うのが僕の役目だ。デトランになった日からこの命はあなたに預けた様なもの。囮になれというならはやく話しを進めませんか?ミスター・ルーカスと話すというならそれでもいい」

投げ出す様に言った言葉をミスター・スカイウォーナはどこか切なげに見た。その表情に苛立ちがつのる。

「我が反対せん事に怒りを覚えるか、ロトよ」

「べつにあなたに対して怒りなんてありゃしない。ただ仲間との絆を少しでも信じた自分に怒りを覚えただけで」

「我が思う事は矛盾してるかもしれんが、決してお前達を駒とは思わぬよ。時には残酷なこともさせる。テリバーが命令を下せんような死を覚悟しなければならない事もやらす。それこそテリバーは仲間を大切にするからな。だがそんな事ではいけないのだ。悲しみを背負うばかりでは前に進めん。我とて、覇王となる日に命を売った。覇王という存在になるために心も売った。分かってくれとは言わん。だがお前達を道具の様に扱っている訳では無い事を分かっていてくれないか」

「僕には分かりません。たとえ理解できたとしても何も思わない」

「……そうか」

「ふむ、話はついたかな?そろそろ三人で話しをしたいのだが」

空気を読めないミスター・ルーカスにも今は何も思わない。逆にたんたんと話しを進めてくれる方がありがたい。

「なら行きましょう」

「おぉ、話の分かる者は好きだよ。ヴァルもいいね?」

ヴァルの無言を承諾ととったミスター・ルーカスは立ち上がった。

「さぁ、行こうか」

ミスター・ルーカスはミスター・スカイウォーナ達に軽くお辞儀をすると、ついて来てくれと歩き出した。何も言わずに後を追う。少し遅れてヴァルもついて来た。










ついた先は一つの部屋だった。辺りは暗くしんとしていてどこか不気味な空気さえ感じる。

「……なぜここへ?」

ヴァルの声のトーンの低さからして怒っているのが感じとれたが、僕は話も分からずただその扉を見つめる。

「なぜと聞かなくても分かっているだろう?」

「俺はそんな事は許さんぞ!」

ミスター・ルーカスはヴァルの怒鳴り声に臆す事もなく肩をすくめた。

「やれやれ。弟子が可愛いのも分かるがこれは仕事なんだよ」

「俺は認めん」

「君がいくら認めないと言ったところで意味はないんだ。ここへ連れてきたのも君の判断をうかがうためじゃない。師としてあくまでも知っておいてもらわくちゃならないからだ」

「なんの話しですか?」

僕の質問にミスター・ルーカスはにこりと笑った。ヴァルが隣で舌打ちをする。

「デトランの中では種類があるんだ、ロト。標準的な力を持ち合わせている者は今まで君がしてきた任務と同じものをこなしていくが、並外れた力を持つ者はある特殊な任務が課せられる。レインダーの上級悪魔の処理や、闇に溶け込む仕事。他にはデトランにとって邪魔な者を暗殺する陰の仕事。並外れた力を持ち合わせているデトランは主に危険系と分類され、危険系の集まる部隊をデスノアという」

「つまり……僕をそこへ入れると……?」

「そういう事だね」

ドンッとヴァルが壁を殴った。

そういう事か、ヴァルが怒った訳は。デスノアというのは多分自分の手を汚す任務を行うのだろう。闇にくらし、周りのデトラン達とは違う世界を持つ生き物。デトランの形をしてそうでない、そういった部隊なのだろう。

「……僕の力はそこまで達していないのでは?」

「そんな事はない。君の力はかなりのものだ。ただ経験がたりない。経験がたりない故に窮地に陥った時適切な対処がとれないんだ。もちろんそれを補うために訓練はつんでもらおう。私は君をぜひデスノアへ勧誘するよ」

僕は色々と考えた。これからの生活。これからの自分。

まず考えたのは残念な事にグラルダーだ。きっとあいつなら怒ってミスター・ルーカスに殴りかかりそうだ。それにうっとおしい程悲しむだろうな。グラルダーはそういう奴だから。けれどきっと僕にひっついて回ったグラルダーとの生活も少なくなる事だろう。闇に生きるなら過ごす時間もまた異なる。

それに、僕自身。手を汚すうちに狂ってしまいはしないだろうか。落胆し、恐怖し、絶望し、自分の汚れた手が醜くなるんじゃないだろうか。

だがそれも小屋にいた頃の生活と同じ様なものだ。僕は恐怖も絶望も知っているから。

「……デスノアとなれば、もうデトランには戻れないんですか?」

「戻りたくなれば戻れるよ。ただしそうする者は少ないがね」

「……ロア、やめておくんだ。お前がかたくなに拒絶すれば無理にとは言われないはずだ。なぜデスノアがデトランへ戻ろうとしないと思う?汚れた自分の過去がまとわりついて仲間を仲間と思えなくなるからだ。世界が変わってしまって戻りたくても戻れないからだ。お前がそんな事をする必要はないんだ」

「……」

ヴァルの久しぶりに見た悔しそうな悲しそうな顔に、こんな時なのに頬が緩む。

「ヴァルの弟子で良かったと思うよ。今回の事で絆を信じなくなったけれど、ヴァルは別だ」

「お前……」

ヴァル、顔が不細工になってるよ。そういう泣きそうな顔、似合わないからやめた方がいい。……まぁ、悪い気はしないけれど。

「ロト、これも言っておこう。ギルティもまた、デスノアだ」

「ギルティが?」

驚いたが、疑いはなかった。近頃のギルティの態度にデスノアである事で筋が通るからだ。ギルティもまた、苦しんでいるのだろう。汚れた自分に恐怖を感じているのだろう。

ギルティはどれだけ孤独なんだろうか。

「……わかりました。デスノアになりましょう」

「ロア……!」

「ヴァル。師弟を断つとか言わないよね?」

「ロア、なぜだ!」

「僕は強くなりたいって、言ったでしょう?怖くないといえば嘘になる。けれどそれ以上に自分が怖い。この前の任務で新しい変化がキュラムに起こった。もしかしたらあのまま暴走していたかもしれない。でもデスノアとなれば暴走しても大丈夫でしょ?周りも周りだし、敵も敵。……もう、自分に怯えるのは嫌なんだ」

「……っ」

「それにギルティがいる。ギルティはきっと今一人だ。孤独はとても苦しい。だから同じデスノアとなったなら少しは心を許せるはずだ。大丈夫だよ。僕にはデスノアとなっても失わないものもある」

「ヴァル、もういいね」

「……あぁ」

「ありがとう、ヴァル」

「……礼なんぞ言うな。こんな事、師として恥だ……」

「それはこれからの僕次第だよ。それと、これからも師として僕を鍛えてくれるかな?」

「……当たり前だ……」

「ありがとう」

ヴァルの辛そうな顔が、胸にじんと染みた。

次話でやっと恋愛要素入っていきます。

前ぶりが長すぎて申し訳ありませんでした。


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