戦いにゆく前に
「君はいったい何がしたいのですか?」
「いやぁ、なんだろぉ?やっぱり体鍛えないと加減が分からないのかも知れないです〜」
「体がなまると殺気が出るのですか?変わった体ですね」
「別に出さない様にする事もできるんですけど、そんなのめんどくさいしぃ」
「君はよくデトランとして成り立ちますね。そんなんじゃ悪魔とまともに戦えない。殺気を悟られては終わりですよ」
「悟られる程馬鹿じゃないですからねぇ」
「意識しとかないと殺気を抑えれないのは馬鹿じゃないと言えるか考えた事がありますか?」
「すいませーん、そんなしょうもない事考えるのも面倒くさいんですけどぉ」
「なら考えなくてすむ様に初級者向けの授業を教えてあげましょうか」
「……なんか、すごいですね、あの二人」
「いいんじゃないか?そりあわない方が逆に力を鍛えれる事もあるからな」
ギルティとワイナーの稽古は見ていて唖然とするものだ。剣術やキュラムでお互いを高め合うと言えば聞こえはいいかもしれないが、あの二人の稽古は気を抜けば本気で相手を殺してしまいそうだ。それに殺気や威圧だけでも辺りの空気が歪んでしまいそうな程ピリピリしているのに、さらには言葉の掛け合いでさえもとげとげしい。口が達者な二人の言い争いは稽古を始めてから終わるまでひたすら続く。時には終わっても続く時がある。
一方の僕とミスター・ゼルヘブンの稽古は丁寧かつ本気、といったかんじ。ギルティ達の様な精神攻撃で気をそらしたり挑発したりするやり方ではなく、冷静に相手の動きを先読みしながら動く。
ミスター・ゼルヘブンの動きは、読めない。
ほんとうに読めない。じーっとこちらを見つめ続けているかと思えばいきなり高々飛び上がり頭上から脳天を割る勢いの攻撃になったり、ゆっくりゆっくり隙を探す動きをしているかと思えば横から足が出てきて気付いたらあおむけに倒れている、なんてのもあった。手も足も出ないとはこれの事か。自分が情けなくなる程手の出し様がなかった。
そして、キュラム。
まずミスター・ゼルヘブンのキュラムの能力だ。彼の能力は身体の強化。それは素早さであり、力であり、瞬発力であり、反射神経。色々な所を瞬時に強化する事ができる。なかなかやっかいな能力で、自分のキュラムを扱い慣れたミスター・ゼルヘブンは、素早い判断で強化する場所を変えていく。腕を強化し刀を思い切り振り下ろした次の瞬間、反射神経を強化し反撃に出た相手を俊足でかわし、再び腕を強化して断ち斬る。見ていれば案外簡単に扱える物の様な気もするが、判断力が長けていなければ失敗が命取りにつながる。ミスター・ゼルヘブンがそんなキュラムを自由自在に操れる所を見れば、よほど訓練したのが伺える。簡単に見えてとても難しいキュラムだ。
ワイナーのキュラム。
ワイナーはまだ一度もキュラムを解放した事がない。ワイナーが何を思ってそうしているのかは知らないが、ギルティはそれに関しては不満を表している。そういうギルティを楽しむ為なのか、ワイナー自身の覇打獣としてのプライドなのか。全くの疑問だった。
「さて、今日はこのくらいにしておこうか。腹も減った事だ。食事にしよう」
ミスター・ゼルヘブンの一言に、僕はキュラムを封印した。
「賛成ですね。私も食事がとりたいです」
刀をぶんっと払ったワイナーは、慣れた手つきで鞘に刀をおさめた。優雅にこちらへ寄ってきたワイナーは、僕を見た後ミスター・ゼルヘブンに問うた。
「この子の成長はのびていますか?」
「あぁ。初めて稽古した頃に比べてだいぶ反射神経がよくなった。俺の攻撃をかわすのも上手くなったしな」
「ふぅん」
ミスター・ゼルヘブンの言葉にワイナーは意味あり気にギルティを見た。その視線にギルティは気付いているのかいないのか、髪を指でくるくるいじっている。
「ディールよ、少し食事に付き合ってくれないか」
「えぇ、一度着替えてから部屋まで行きますよ」
「あぁ、わかった」
ミスター・ゼルヘブンは僕らを見るとお疲れ様と言って稽古場を出て行った。
「ワイナーとの稽古は本当に気が向かない。あいつ本当に殺したくなる時があるんだぁ」
はははと笑うギルティの顔は多分本気だ。気持ちが分からなくもない僕はしんみり頷いた。
「さて、俺たちも行くかぁ」
「あぁ、そうだね」
「ねぇロア」
「ん?」
ギルティは笑顔を消して真剣に僕を見た。僕も自然と身構えてしまう。
「君、ルーカスから何か言われたの?」
「……え?」
「最近よく話しかけられてるでしょ」
「いや、特に濃い話はしてないよ」
「そう」
またにこりと笑顔に戻り、ワイナーは出て行ってしまった。
何が言いたいのだろう?




