残された謎
「パドラヌマ……だって……?」
グラルダーが声をあげた。
「そうだよ?悪魔なんかと一緒にしないで。僕たちとは比べ物にならないよ」
「僕たちってことは、パドラヌマというのは他にもいるのかい?」
「いるよ。あまり人数は多くないけれど」
僕の質問に少年が嘘をつく様子はない。
「君たちはどうやって生まれたんだい?」
「心を喰らい続けてるとね、それに飽きちゃうの。だから人間ごと食べるけど、それでも物足りない。だから僕は人間をズタズタに切り裂いて、その肉から溢れる血をかぶって、まだ少し生きてる人間の悲鳴を聞きながら街を壊していったの。毎日ドロドロになった人間の肉を綺麗に取り出した頭蓋骨にいれるんだ。綺麗なんだよ! それに美味しいしね。僕それが一番好きだった。それを毎日毎日繰り返して、そしたら、あのお方が僕を拾ったんだよ」
子どもだからこその生々しい表現のし方が余計に気味が悪かった。リリーが手で口を覆っている。多分気持ち悪いのだろう。それもそうだ、あんな小さな子どもが可愛らしい微笑みをたたえて残忍な過去を語る。それはなんとも不気味な光景だった。
「……あのお方は、誰だい?」
僕は怪しまれない様になるべく明るく話しかけた。
「それは……」
バンッッッ……
「……おぇっ」
リリーがしゃがみこんで、吐いた。駆け寄って背をさすったが視線は少年から離せない。
顔が、破裂した。それも所々がまだ形になっている。
「なんだ……今の……」
グラルダーの焦った声が聞こえた。
「こんにちは、デトランの皆さん」
「っ!?」
頭上から男の声がこだました。だがその声の先には気配はない。まるで空から声が響いている様だ。
「誰だ!!」
グラルダーが怒鳴った。
「驚かせてしまいましたね。そんなつもりは無かったのですが」
あくまでもグラルダーの怒鳴り声に対して空の上の声は落ち着いていた。
「誰だっつってんだよ!!」
「あらかたさっきのパドラヌマが私達について説明していたでしょう?そのままですよ」
「……進化した悪魔だと……?聞いたこともねえぞ」
「知らないのも無理はない。私達は姿を隠していました」
「……なぜあの子を殺した」
僕は残酷な死を迎えた少年の事を聞いた。
「あれは少し多くを語りすぎたのでね」
「だからと言って殺す事はないはずだ。どちらにせよ戦闘になっていたんだから」
「おや、おかしなデトランですね。悪魔をかばうのですか?」
少しワイナーを思い起こさせる発言に、不快感が湧き上がる。
「別にそんな事はどうでもいい」
驚いた事に、口を挟んだのはギルティだった。
「どうして姿を隠してた。なにかそうでもしなければいけない事でもあったのか?」
いつもの穏やかなしゃべり口調とは裏腹に、たんたんとしたギルティの声は冷たく聞こえた。
「こちらの戦状が整ってから姿を表したかったのですよ。試しにパドラヌマを一体そちらへ送りましたが、まだ早かったようです」
ならパドラヌマが生まれたのは最近という事か。
「姿は現さないつもりかい?」
「ええ、私はね。近々新たなパドラヌマをあてがいます」
「……宣戦布告ねぇ?」
「今日のところはこれでお開きとします」
「待て! この前悪魔が言っていたことで聞きたいことがある」
僕は焦って言った。
「あの方、と、確かに言った。それはお前か?」
「いいえ、私ではありませんよ。……ですが、いずれ出会う事になるでしょうね、ベイル」
「!!!」
僕とグラルダーは驚きをあらわにした。
ベイル。過去にしまったその名を、なぜ知っているのだ。振り返って僕を見たギルティの顔には疑念が張り付いていた。
「それでは、さようなら」
「待てよ!」
グラルダーの声に、今度こそ空の上の声は反応しなかった。
静まり返ったその場の雰囲気に誰もが口を開かずにいたが、ギルティが沈黙を破った。
「ロア、あの声が言っていた事はどういうこと?」
「わからない」
「ベイルって、君のこと?」
「……そうだよ」
きっとそう言った僕の顔は悲しみか何かが覆ったのだろう。ギルティはそれを悟ってか、それ以上何も聞いてこなかった。
「悪魔の進化……か。あのハゲ、またムカつく事ほざきそうだねぇ」
ミスター・マヘッダをハゲと罵るギルティは確かに前の面影をのせていて。こんな状況でも僕は頬が緩むのを抑えられなかった。




