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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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上層部からの来客

「おいロア! 起きろよロア!」

「……うーん……」


ドンドンドン!


前もこんな事があったな、と寝ぼけた頭でうっすら思いながら目を覚ました。

「ロア! 起きろ!」


ドンドンドン!


……何時?部屋にかけてある時計を見て僕はうめいた。先ほどの任務から帰って来て2時間しかたってない。僕は眉にシワを寄せながらよろよろとドアへむかった。


ドンドンドン!


ドアを叩く音は止まる事なく鳴り響く。

「起きてるよ。とりあえずそのうっとおしいノック、やめてもらえる?」

自分が思うよりそっけなくなった言い草に、ドアのむこうの相手グラルダーはピタリとノックをやめた。

「わ、悪いな。来客だそうだ。まーた総員会議だとよ」

来客?

「誰なの?」

「さあ、俺もそれは聞かされてない。任務から戻ったらその事を広めろってひつこいくらい色んなやつに言われてよ」

「用意してからおりるよ」

「乱舞の間の入り口で待っとく」

「わかった」

まだあまりはっきりしない頭でクローゼットをあさっていると、適当な服を選びかけ、なおして団服に選びなおした。団服はデトラン専用の正装だ。上も下も黒っぽい青で、重たそうな見た目によらず戦いやすいように軽く仕立てられている。闇色の団服は闇に溶け込み、悪魔に悟られる危険性を減少してくれる。テリバーさん曰く、団服は高いらしく、戦いでズタボロになった団服を買いなおす事に金銭面で困っているとか。

僕はジャケットに袖を通し、ボタンを閉め、適当に身なりを整えてから乱舞の間へむかった。入り口でグラルダーと合流し、中に入る。


中にはすでに総長、隊長がそれぞれの椅子に座していた。顔ぶれはこの前と同じ。もちろん僕はワイナーを見て顔をしかめた。僕らは再び後ろの方の席に座り、来客を待った。

「静かに」

ミスター・スカイウォーナが呼びかけた。乱舞の間はしんと静かになる。すると、すぐに乱舞の間の扉が開いた。入ってきたのは男が一人前方に立ち、二人の従者を両脇にそなえ、腰まである紫色の髪をなびかせながら前方へ進んで行く。

「ごきげんよう、スカイウォーナ。久しぶりだね、元気にしていたかい?」

「ごきげんよう、ミスター・ルーカス。ああ、何事もなく元気にしておったよ」

なんとなんと。覇王を呼び捨てにするとは。だがミスター・スカイウォーナは嫌な顔一つせず握手をしながら適当なあいさつを済ませた。

「覇打獣の方々も、ごきげんよう」

隊長等は男のあいさつにそれぞれの面持ちであいさつを返す。ミスター・マヘッダだけが、態度の図々しさと名前を名乗らない事に分かりやすく不満の表情を表していたが。

「ああ、ミスター・ルーカス。どうぞそこへ座ってくれ」

ミスター・スカイウォーナは、いつもはない自分の隣に置かれた椅子を示した。ミスター・ルーカスと呼ばれた男はお礼を言うとそこにゆるりと座った。

「前から見るとやはり広いね。これが覇王から見る世界か」

誰に言うでもなくミスター・ルーカスはそう言うと、乱舞の間をぐるりと見渡した。その時に気のせいかもしれないが、視線があい、かすかに笑みを浮かべられた様な気がした。一通り見渡すと、ミスター・ルーカスは話を進めた。

「さて、まだ不安に思っている者も多いだろうが、悪魔の意思についてどう思う?」

ミスター・ルーカスは皆の反応を楽しむ様に身を乗り出していたが、話が唐突すぎてついていけない部下達につまらなさそうに椅子に深く座り直した。

「どう思うといっても、怖いです、とか、そっち系の簡単な言葉しか出ないかな。だがね、私は違うのだよ」

ミスター・ルーカスは意味深な微笑みを作った。

「楽しみで、たまらない」

その言葉に、デトラン達だけじゃなく、隊長と総長も怪し気にミスター・ルーカスを見つめた。

「悪魔の主が現れたなんて、またとない戦の匂いがしないか?これまでつまらない雑魚しか相手にしてこなかった。だが、悪魔を率いる事のできる何か。きっと私たちがうなるほどの力はある事だろう。それと時を費やして攻め合う事が、私は楽しみでならないのだよ」

気味が悪い。

僕はその一言しか頭に浮かばなかった。気味が悪い笑顔で、気味が悪い言葉で、気味が悪い世界を思い描く、気味が悪い男。絶対こいつはやばい。頭がおかしい。半ば呆れる様にそう思ったのだった。

「私が好きなものは絶望と恐怖に満ちた世だ。人々の悲鳴が私にはピアノの旋律に聞こえる。だからこの先その主とやらの動きには期待しているのだけれどね」

ミスター・ルーカスはわざとらしくため息をついてみせた。

「立場上、私はデトランとなる。それに上層部の者だからね、故意で物事を進める事はできない。だから皆を恐怖に陥れる様な事はもってのほか、するつもりはさらさら無い」

ちらとワイナーを見ると、あまり内心を表情で語らない彼でさえ、ペラペラと一人でまくしたてるミスター・ルーカスを見るその顔は怪訝で嫌々し気だった。

「だからね、忙しい隊長や総長に代わって、僕も補佐としてしばらく中央本部へ滞在することにした。目的は主の存在の追跡、といったところ。これからは覇王、覇打獣共に協力して真実を暴いていく。そうすれば少しはものの順序がスムーズにいくだろう?」

覇打獣や、その他のデトランの一部から不満そうなうめき声が漏れた。僕の隣に座っているグラルダーからもだ。

「ということだ、皆の者。話はだいたい分かったかね」

これ以上ミスター・ルーカスに喋られては困るといった様に、ミスター・スカイウォーナがここぞと話し出した。

「話に出た通り、しばらくミスター・ルーカスには本部に居てもらう。皆差し支えの無い様にするのだぞ」

「よろしくお願いします」

にっこりと馬鹿丁寧に頭を下げたミスター・ルーカスに、あいさつを返す者はいなかった。

「以上だ。解散」



ぞろぞろと皆が乱舞の間を後にする波に乗っていると、後ろから名前を呼ばれた。

「ロア、グラルダー、来い」

ヴァルが人混みをうっとおしそうな顔をしてかき分けて行く。何事かと僕とグラルダーは顔を見合わせたが、大人しくヴァルについて行った。

だが大人しくついて来たことにすぐさま後悔した。

「これが俺の弟子だ」

ミスター・ルーカスだ。

「やあ、ソルジャーの弟子と聞いて見てみたかったんだよ。あなたが弟子を持つとは珍しいからね」

ミスター・ルーカスが僕に手を差し伸べて来た。その手を僕は笑顔を貼り付けて握り返した。

「はじめまして。ロア・ロトと言います」

「ああ、礼儀の正しい者は好きだよ。私の名前は分かるるね?」

「ええ、ミスター・ルーカス」

名乗れよ。僕は心の中で毒づいた。

僕の手を離すと、次はグラルダーへ手をむけた。

「レインドルだ」

だがグラルダーはその手を無視し、ぶっきらぼうにそれだけ言った。普段のヴァルならグラルダーを咎めていただろうが、ヴァルもミスター・ルーカスが気に食わないのか、何も言わなかった。だがミスター・ルーカスも、面白そうにグラルダーを見ただけだった。

「はじめまして、レインドル。君たちの評判は良く聞くよ。かなり優秀な功績を残しているそうだね」

ミスター・ルーカスは僕たちを交互に見やった。

「それを聞いて少し興味が湧いたんだよ。だから挨拶ぐらいしておこうと思ったのさ。ヴァルもいい弟子を持ったものだね」

「ああ」

短い返事だったが嘘を言っている様には聞こえず、僕は素直に嬉しくなった。弟子が師匠に認められるのはこの上ない誇りだ。

「君たちの働きにはこれから期待しているよ。ロト、レインドル」

「光栄です」

またもやグラルダーは無視したが、ミスター・ルーカスは気にしている様子はなく、別れの言葉だけ言うとその場から立ち去った。

「なんで連れてきたんだよヴァル」

もしかしたら聞こえるかもしれない距離にいるミスター・ルーカスを気にせず、グラルダーはヴァルに不満を言った。

「お前達がさっさと出ていかんからだ。この場に居ぬのならどうにかやり過ごせたものを」

やはりヴァルはミスター・ルーカスが嫌いなようだった。

「あいつと喋ってると舌腐りそうだぜ」

「ヴァル、あの人これから何をするの?」

「多分任務遂行の命令やメンバー考慮だろう」

「あいつに命令されんのかよ」

グラルダーが毒づいた。

「そういうな。しばらくしたらきっといなくなる。目立った行動はよしてくれよ。ルーカスは何を考えているか読めんからな」

「分かってるよ」

「行こうぜ、ロア。酒屋行って呑む」

「そうだね。僕も少し呑みたいな。ヴァルも行かないかい?」

「や、俺はこの後しなきゃならん事がある。楽しんで来い」

「分かったよ。行こうかグラルダー」

そうして、僕らは不満を酒屋のマスターにぶちまけたのだった。


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