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漆黒の花嫁  作者: つかさ
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変化

もっと早い段階で恋愛要素を取り入れようと思ったんですけど、ズルズル話が長引いてまだもう少し先になりそうです。

どうか気を長くしてお付き合いください…。

「ロア苛々してるねぇ」

「ミスター・ワイナーが駄目だったのかもな」

「いや、しかし……」

「……怖いね」

周りから色々な声が聞こえてくるが、僕は気にもとめずに黙りこくっていた。そのせいか僕の座っている席から少し離れたところで皆食事をとっている。

「なあロア、お前そんな顔して机睨んでたら友達いなくなるぜ?」

隣に座るグラルダーが少し困ったように言った。

総会が終わってもミスター・ワイナー……ワイナーの腹立たしいあの顔が頭から離れずぐるぐるまわる。おかげで僕の怒りは限界まで上がっていた。

「にしてもミスター・ワイナーかっこいいわよね」

「ほんとに! なんであんな男前なんだろ……。きっと優しい人だよね」

「恋人になったら毎日大切に守っててくれそう」

「きゃー!!」


パキーーーン……。


「……」

「……」

「ああ、ごめんね。ちょっと力みすぎたね。ははっ」

「え、ええ。手は大丈夫なの……?」

「大丈夫。ありがとう」

盛り上がるワイナーの話を聞いてさらに苛々が募った僕は、持っていたコップを手の力で割ってしまった。

「おいおいおいこれどうすんだよ。絶対カナリアさんに怒られるぞ!?」

グラルダーは周りの気まずい空気を察知できていないのか一人で騒いだ。

「カナリアさんには割れ物持って行ってあやまっとくよ」

「あ、私やっとくよ?」

そう言ったのはリリー・エンディーナ。背がとても小さく、オレンジを帯びた髪を肩先で切りそろえ、ふわふわとボリュームをつけている。髪と同じ色をした目は大きくぱっちりしていて、可愛らしい子だ。

彼女もまた、僕の機嫌や周囲をあまり気にしていないようだった。

「ありがとう。でも手切れるかもしれないし、持っていくよ」

「大丈夫だよ?ほら、そこまで細かく割れてはいないみたいだし」

リリーはグラルダーと違ってあえてこの空気に流されないようにしてくれてるらしかった。

「今日は疲れてるんでしょ?ほら休んできなよ」

「……じゃあお願いするね」

僕は素直にリリーに甘える事にした。

「うん。じゃあおやすみ」

「ありがとうリリー。おやすみ」

リリーの可愛い笑顔に送られて僕は食堂を出ようと出口にむかった。

「ちょっと待てよ! 俺も行く!」

……グラルダーもついて来るようだ。





「僕の部屋に君を入れるの?」

僕は自室にむかうためエレベーターに乗っていた。もちろんグラルダーと。

「なんだよその言い方。冷たいやつだぜ」

「質問の答えになってないよ」

「入れてください」

「仕方ないね」


チン


部屋はカードで開ける。これは一人一枚、自分の部屋専用のカードになっているため、失くすと大変な事になる。

「いやー、疲れたぜ」

断りもなしに僕のベッドにダイブしたグラルダーを、僕は冷たく見据えた。

「君ってほんと、昔から変わらないね」

「なにがだよ」

「言われなきゃわかんない?図々しいとこだよ」

「俺が図々しさの塊でできた男ってのは出会った頃から百も承知だろ?」

自慢するような事じゃないのに、胸を張って言うグラルダーを見て、僕は少し頬を緩ませた。

「にしてもあのワイナーってやつ、俺より図々しいぜ」

グラルダーの一言で忘れかけていた苛立ちがモヤモヤとよみがえってくる。

「あいつは覇打獣の中でも一番人間を見下すやつだね」

「ああ。猫かぶって本性はきっと恐ろしいだろうな」

あいつは、悪魔に意思があるのは馬鹿げた冗談だと考えているらしい。いや、ワイナーだけじゃない。マヘッダもだ。否定してばかりで都合のいい事しか考えぬとは、あいつらの方がよっぽど馬鹿げている。

だが、そこまで考えてふと思ったら。


僕らの考えは、本当に馬鹿げているのでは?僕らはたまたま悪魔の意思を目の当たりにした。だからこそそれが言えるのだ。だが他のデトラン達はそれを皆が経験したのかといえばそうじゃない。だとすればこんな考え方をしているのは、僕らだけだ。

いや、それでも、実際に見てきた。彼らにそういった経験が無いだけ。きっと僕らは、僕は、間違ってはいない。


慈悲。


確かにそうだ。今でも悪魔を殺す時、躊躇する時がある。止めを刺す時、必ずと言っていいほど過去の記憶が現状と重なる。だからどうしても、悪魔を罪深い目では見れない。


それも、馬鹿げているのか。


僕は真偽の分からぬ思考を嘲るように笑った。





コンコン


ふと、ドアがノックされた。

「ロア・ロト様、いらっしゃいますか?任務のご用件をお伝えに参りました。局長室へむかうように、との申し出です」

グラルダーがため息をつく。

「まーた任務かよ。4時間前も任務じゃなかったか?」

「……別にいいよ。鬱憤晴らしに丁度いいさ」

「怖ぇ」

僕は対した用意もなくすぐに部屋を出ようとしたが、動き出さないグラルダーに気付く。

「ちょっと、自分の部屋に帰りなよ。ここに居座るとか言うんじゃないだろうね」

「なぁ、ロア」

なんの冗談かと思っていたら、グラルダーの表情は真剣だった。僕はかけていたドアノブから手を離した。

「どうしたの?」

「ギルティの様子、見たか?」

「ギルティ?」

記憶をたどってギルティを思い起こす。

「僕が見てる時は大抵普通だけれど」

「……そうか。あいつ、最近おかしいんだよ」

グラルダーの発言に眉を寄せる。

「何がおかしい?」

「気を張ってるって言うか、なんて言うか……。たまに、殺気を感じる時だってある。気付かないか?」

「いや……」

「多分ギルティもそろそろ任務のはずなんだ。総会前に休憩入ってたから。ロア、ギルティの様子見てきてくれ」

「わかったよ」

そう言ってグラルダーもベッドから起き上がり、二人して部屋を出たのだった。











任務時、僕はグラルダーが言ったようにギルティを怪しまれないよう観察した。

「あーぁ、なんで俺いっつもこんな遠いところ行かされるのかねぇ」

「文句言わないのー。ロアだって任務終わったばっかで来てるんだから。ギルティ休憩長かったでしょ!」

「そんな顔したらせっかくの可愛い顔が台無しだよぉ?リリー」

「なっ!?うるさいっ」

「怒ったリリーも可愛いけどねぇ」

……こんな風に、ギルティはずっといつも通り。やっぱりグラルダーの勘違いだったんじゃないか、と思い始めた頃。

「悪魔の気配がするね」

僕は若干の悪魔の気をいち早く察した。

「……本当だねぇ」

そう言ったギルティに、僕は思わず目を見張った。

ものすごい、殺気。禍々しく、毒々しい。ギルティから一瞬だけ感じ取れた。

「さぁて、むかいましょうかぁ」

先頭を歩くギルティを、僕は少しの間凝視してしまった。

何があった、ギルティ。今のあれは、とてつもなく嫌なものだった。なんにもないなら、あそこまで凄い殺気は溢れないはずだ。グラルダーが言っていたのはこれか。

僕はそれからというもの、特にギルティに気配った。わずかなものでも逃さぬように。だがたいして何も起きないまま、悪魔へと接触した。その途端ワイナーの顔が頭の中に現れ、また怒りが僕の体を支配する。僕は苛立ちを解放しようと力の最大限を生かして戦ったため、気付かなかった。



ギルティの、これまでに無い程の殺気に……。

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